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十一歳
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「どうでした?」
試験が終わり家に帰ったアリアは早速、出来ばえを母親に聞かれた。ユリウスもかなり興味があるようで、目を輝かせてアリアのほうをみてる。
「ええ、ディート卿の期待に応えるだけのベストを尽くしました」
試験を受けない弟からこのように期待の眼差しを受けるのは、嬉しいことだけど、なんだか気恥ずかしい。前世でも弟や妹がいたら、こうなったのだろうか。
そんな感傷的な気分は置いておいて、今日の振り返りをした。
最初は筆記試験。
国の歴史から現代の政治、経済事情について問われた。国外に出たことのなかったアリアだけども、今まで受けたクレメンスの、バイオレット氏の座学で十分だった。多分、前世での高校入試よりも難しかったのだろうが、今のアリアにとってみればかなり簡単なものだった。
そして、口頭試験という名前の集団討論試験。
受験者たちを三グループに分け、それぞれの議題について討論させる。そして、自分のグループだけではなく、他のグループのときの討論を見て、誰がどのような役割をしているのか、自分だったらどの意見を取るのか、そしてその理由を書かせるものだった。
なんの因縁かアリアはウィリアムと一緒のグループになり、大激論を交わして、他の受験者たちをドン引きさせていた。
「面白かったですわね」
彼との激論を思い出しながら食事を頬張る。
自分たちのグループの議題は『貴族制の存続』。筆頭公爵であるスフォルツァ公爵の縁者がいるのにもかかわらず、こんな議題に一瞬、固まる会場内。担当した試験官でさえ固まっていたくらいだから、アリアがいるグループにこの議題を指定したのは、クレメンスあたりだろうか。はたまたディートリヒ王か。
けれどもアリアはそんな雰囲気を気に留めずに言い放った。
『まあ、貴族というものがなくなったところで『人』生活には影響いたしませんし』
彼女の発言にざわつく会場内。前筆頭公爵の娘だからこそ考えて発言せねばならない。でも、それと同時に、前世での記憶がある。ざわつく面々を制して補足の発言をした。
『ですが、当然、今までの慣例を覆すことになるわけですから、一朝一夕に貴族制をなくす、というのには反対です。それにもし、貴族制を廃止するということが決まった場合、誰がトップに立つのですか? それを考えずに貴族制の廃止、というのはいささか性急すぎると私は思います』
彼女の言葉になるほど、と多くの賛同の声が聞こえてきたが、一人だけアリアの意見と真っ向から反対するものがいた。
『あんた馬っ鹿じゃねえの? 今の大陸で貴族制を廃止したらどーなるのか、分かったもんじゃあねぇぞ』
おそらくグループ内で身分的にもっとも低いウィリアム・ギガンティア。一番身分が高いアリアに口答えした場合、社交界ならば即座に首が飛ぶ。しかし、ここは文官たちの卵が集まってる。アリアも分かってるから少し驚つつ、へぇそうなのと言うだけであり、誰もウィリアムを咎めるものはいない。
『貴族制の廃止つったら、誰がリーダーになるっていうことだけじゃない。軍事から経済まですべてが影響を受ける。もっともいきすぎた王制や貴族制もどうかと思うが、少なくともこの国のように文官試験をするぐらいの国だったら、王の暴走や貴族の暴走はごく一部だと思うし、おそらくは社交界のみにとどまる。だからわざわざ貴族制の廃止、その必要はない』
ウィリアムの意見に頷く面々。アリアは気になった部分があった。
『確かにあなたのいうことは間違ってないわね。でも、社交界のみにとどまらなければどうするの? たとえばそうね、こんな例はどうかしら。親戚の娘が王族の嫁になって言われたのを勝手に期待しやがったあげく、期待どおりにならなかったから、とある国の王子を襲撃して、味方につけようとした貴族についての一言は? それでも、社交界と政治は切り離されているといえるかしら?』
アリアの言葉に少しだけ言葉に詰まるウィリアム。ちなみに、ここにはあの事件を直接的に知っているものはいない。
『なんだか、今の姫さんの言葉、めっちゃ実感がこもってんな。それって姫さんか姫さんの周りでそんな事件が起こったんですかね?』
彼もこの事件を知らないのにもかかわらず、正鵠を得た発言だった。しかし、アリアがその質問にはにっこりと笑うだけで、答えることはなかった。彼女から答えを得られないと判断したウィリアムはそうですねぇと考えこんだ。
すでに聴衆となっているほかの受験者たちは、二人の舌戦の行方を見守っていた。
『そんな馬鹿貴族がいるんなら、爵位剥奪したうえで生贄、もしくは献上物としてその王子様んとこに謝りにいく。で、ついでにその王子様んとこの国の法律で裁いていいですよーって言って、捨ておく。まあそのうち、野垂れ死ぬだろうから。黒幕もいたりしそうだけど、この場合は放置しておく。多分、自滅するだろうから』
ウィリアムのにべもない言葉に試験官を含む周囲は遠い目になり、アリアはそうねと頷いた。クロード王子の事件のあと、確かに前フェティダ公爵は爵位剥奪後、セリチアに『お伺い』が立てられたという。その後はどうなったかは知らないが、何も聞かないことから一国の王子を害そうとした罪で、どこかの牢獄に収監されているのではないだろうか。
なるほどねぇとアリアは頷いた。その後も二人の舌戦は続き、試験官がもうやめろというまで続けられた。
試験が終わり家に帰ったアリアは早速、出来ばえを母親に聞かれた。ユリウスもかなり興味があるようで、目を輝かせてアリアのほうをみてる。
「ええ、ディート卿の期待に応えるだけのベストを尽くしました」
試験を受けない弟からこのように期待の眼差しを受けるのは、嬉しいことだけど、なんだか気恥ずかしい。前世でも弟や妹がいたら、こうなったのだろうか。
そんな感傷的な気分は置いておいて、今日の振り返りをした。
最初は筆記試験。
国の歴史から現代の政治、経済事情について問われた。国外に出たことのなかったアリアだけども、今まで受けたクレメンスの、バイオレット氏の座学で十分だった。多分、前世での高校入試よりも難しかったのだろうが、今のアリアにとってみればかなり簡単なものだった。
そして、口頭試験という名前の集団討論試験。
受験者たちを三グループに分け、それぞれの議題について討論させる。そして、自分のグループだけではなく、他のグループのときの討論を見て、誰がどのような役割をしているのか、自分だったらどの意見を取るのか、そしてその理由を書かせるものだった。
なんの因縁かアリアはウィリアムと一緒のグループになり、大激論を交わして、他の受験者たちをドン引きさせていた。
「面白かったですわね」
彼との激論を思い出しながら食事を頬張る。
自分たちのグループの議題は『貴族制の存続』。筆頭公爵であるスフォルツァ公爵の縁者がいるのにもかかわらず、こんな議題に一瞬、固まる会場内。担当した試験官でさえ固まっていたくらいだから、アリアがいるグループにこの議題を指定したのは、クレメンスあたりだろうか。はたまたディートリヒ王か。
けれどもアリアはそんな雰囲気を気に留めずに言い放った。
『まあ、貴族というものがなくなったところで『人』生活には影響いたしませんし』
彼女の発言にざわつく会場内。前筆頭公爵の娘だからこそ考えて発言せねばならない。でも、それと同時に、前世での記憶がある。ざわつく面々を制して補足の発言をした。
『ですが、当然、今までの慣例を覆すことになるわけですから、一朝一夕に貴族制をなくす、というのには反対です。それにもし、貴族制を廃止するということが決まった場合、誰がトップに立つのですか? それを考えずに貴族制の廃止、というのはいささか性急すぎると私は思います』
彼女の言葉になるほど、と多くの賛同の声が聞こえてきたが、一人だけアリアの意見と真っ向から反対するものがいた。
『あんた馬っ鹿じゃねえの? 今の大陸で貴族制を廃止したらどーなるのか、分かったもんじゃあねぇぞ』
おそらくグループ内で身分的にもっとも低いウィリアム・ギガンティア。一番身分が高いアリアに口答えした場合、社交界ならば即座に首が飛ぶ。しかし、ここは文官たちの卵が集まってる。アリアも分かってるから少し驚つつ、へぇそうなのと言うだけであり、誰もウィリアムを咎めるものはいない。
『貴族制の廃止つったら、誰がリーダーになるっていうことだけじゃない。軍事から経済まですべてが影響を受ける。もっともいきすぎた王制や貴族制もどうかと思うが、少なくともこの国のように文官試験をするぐらいの国だったら、王の暴走や貴族の暴走はごく一部だと思うし、おそらくは社交界のみにとどまる。だからわざわざ貴族制の廃止、その必要はない』
ウィリアムの意見に頷く面々。アリアは気になった部分があった。
『確かにあなたのいうことは間違ってないわね。でも、社交界のみにとどまらなければどうするの? たとえばそうね、こんな例はどうかしら。親戚の娘が王族の嫁になって言われたのを勝手に期待しやがったあげく、期待どおりにならなかったから、とある国の王子を襲撃して、味方につけようとした貴族についての一言は? それでも、社交界と政治は切り離されているといえるかしら?』
アリアの言葉に少しだけ言葉に詰まるウィリアム。ちなみに、ここにはあの事件を直接的に知っているものはいない。
『なんだか、今の姫さんの言葉、めっちゃ実感がこもってんな。それって姫さんか姫さんの周りでそんな事件が起こったんですかね?』
彼もこの事件を知らないのにもかかわらず、正鵠を得た発言だった。しかし、アリアがその質問にはにっこりと笑うだけで、答えることはなかった。彼女から答えを得られないと判断したウィリアムはそうですねぇと考えこんだ。
すでに聴衆となっているほかの受験者たちは、二人の舌戦の行方を見守っていた。
『そんな馬鹿貴族がいるんなら、爵位剥奪したうえで生贄、もしくは献上物としてその王子様んとこに謝りにいく。で、ついでにその王子様んとこの国の法律で裁いていいですよーって言って、捨ておく。まあそのうち、野垂れ死ぬだろうから。黒幕もいたりしそうだけど、この場合は放置しておく。多分、自滅するだろうから』
ウィリアムのにべもない言葉に試験官を含む周囲は遠い目になり、アリアはそうねと頷いた。クロード王子の事件のあと、確かに前フェティダ公爵は爵位剥奪後、セリチアに『お伺い』が立てられたという。その後はどうなったかは知らないが、何も聞かないことから一国の王子を害そうとした罪で、どこかの牢獄に収監されているのではないだろうか。
なるほどねぇとアリアは頷いた。その後も二人の舌戦は続き、試験官がもうやめろというまで続けられた。
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