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一章.魔法使いと人工キメラ
一話目-魔法使いと人工キメラ
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――目が覚めた。
夢も見ず、ただ無機質な天井が目に入る。
鳥のさえずりもなければ起こしてくれる目覚まし時計もなし。
いつも通りの孤独な起床だ。
寝巻きを脱ぎ、ワイシャツを着る。
身だしなみを整えようと、姿見に映る自分の姿を見て深くため息をついた。
髪は透き通るような白。
肌もまた、シルクのように白い。
目は鮮血を彷彿とさせる赤。
典型的な虚弱体質だ。
自分で自分が嫌になる。
小さな頃から悪目立ちするこの姿は、悪魔だなどとよく石を投げられた。
無論、そんな生温いものだけではすまなかったが、これについて語るとキリがない。
そして僕の魔法はさらに悪目立ちするものなのだ。
人によって使える魔法は異なる。
これは魔術というものが、一種の化学変化のようなものだからだ。
体の中に魔術の元となる『元素』があり、それが属性を決める。
血中を流れたり空中、水中に漂ったりしている『魔素』がその元素に反応し、その力を何倍にも増幅させつつ、制御を可能とさせるのだ。
一人につき使える魔法の属性は一つだけ。
この一つだけの枠に厄介物を押し付けられたのも、また僕だ。
そんなことを考えていると、もう一度ため息が出た。
着替えも終わり、閑散としたリビングに着く。
視界に飛び込んでくる、存在感のある四角い木のテーブルには、椅子が三脚並べてある。
僕と、両親の分だ。
両親はもう帰ってこない。
数年前、この国で起きていた近代化に伴う民族どうしの紛争、いわば『統一戦争』のようなものが終結した。
王朝に仕えていた魔術師の二人は戦死したそうだ。
――数年前のある日、すごく寒い夜だった。
ドアのノックに起こされた私は、大はしゃぎで玄関に寝巻きのまま向かった。
ずっと、あまりに遅い二人の帰りを待っていたのだ。
ところが、ドアの前にいたのは一人の大柄な男。
『ナタリア・ディーツェルとイマーゴ・ディーツェルは死んだ。 最期まで宮廷魔導士としての誇りを失わなかった』
そう言い捨てて写真を一枚と、二枚の死亡証明書を渡された。
今でもその時のことは鮮明に覚えている。
泣いた。
泣き叫んだ。
声が枯れるまで泣いた。
こうして僕は呆気なく、天涯孤独の身となった。
写真は父親が最期まで懐に入れていたものらしい。
三人で撮った家族写真だ。
黒髪の両親の前に、小さな僕が不器用に笑っている。
写真の裏には黒く「イーヴォ・ディーツェルへ」と書かれてある。
これが僕の名だ。
そんな感傷に浸りながら、ヤカンに水を入れてコンロのスイッチを押す。
因みにだが、コンロの中には魔素の塊と火の元素が入っており、何年も火をつけることが出来るのだ。
僕は、戸棚にあったコーンスープの粉末とパンを掴み、それぞれ皿に乗せた。
これが今日の朝食だ。
かなり質素だが仕方ない。
宮廷魔術師だった両親の遺産は、かなり残ってはいるが、いつかは底を尽きる。
その為、手に職をつけたいのだが、何しろこの見た目だと敬遠されるどころか、怒号が飛んでくるのだ。
途方もないほど難しいのである。
既に沸いた湯をさらに注ぎ、準備が終わった。
きっと今日も無機質な一日が始まる。
……そう思っていた。
「いただきます」
手を合わせてそう言って、コーンスープに口をつけた矢先である。
[ガガガガガガ!]
家の外で凄まじいほどのエンジンの駆動音がした。
おそらくゴーレムだろう。
音の近さからして、家の前の通りにいるようだ。
僕は放っておこうとも思ったが、何となく嫌な予感がした。こんな真昼間から工事でも無いのに重機みたいなのを動かすか?
それと何より、好奇心がそれを阻んだ。
僕は急いで紫の外套を羽織ると靴を履いて、朝食をすっぽかして外へ出た。
ドアを開けて通りに出る。
久しぶりの外はとても暖かく、日差しは刺さるほどに眩しい。
僕はフードを目深に被った。
街をゆく人の視線に恐怖を覚えつつ、僕は音の鳴るほうへと進んだ。
どうやらその音は通りを挟んで家の向かいの路地からなっているようだ。建物と建物とのあいだで音が反響してとてもうるさい。近所迷惑もいい所だ。
僕はゆっくりと真っ暗な路地を進んだ。
違法行為ではあるがゴーレム同士を戦わせその勝敗に賭博するような奴が居る。
僕の村は決して治安がいいとは言えず、中でもこの通りの路地裏は賭博がよく行われるのだが……。
いつもとは、その駆動音が明らかに違ったのだ。
違法とはいえルールはある。性能が違いすぎるとゴーレムの術士にすら危害が加わるからだ。
だが、今聞こえる音は手加減容赦一切なしの軍用の物だ。
幼いころ、両親の仕事場に行った時によく聞いていたものだ。
奥に着くと予想通り、軍用の改造されたらしい二足歩行の人型ゴーレムが一体、その術者が一人いた。
そして、路地の突き当りには、何やら人影がある。
深くフード……否、ボロ布を被っているため、はっきりと姿が見えない。
どうにかして見ようと近づくと、小石を奥に蹴飛ばしてしまった。
「あぁ? 誰だ!?」
術士が急に振り返り、すごい剣幕でこちらを睨む。
と、同時に蹴飛ばした石にゴーレムが反応したらしく、ゴーレムの目が赤く光る。
次の瞬間、ゴーレムの目から熱線が放たれ、小石は蒸発した……。
顔から血の気が引いていくのがわかった。
……ヤバい。
間違いなくヤバい。
こいつは軍用の中でも特に反応に重きを置いている型のようだ……。
こんなのに目をつけられたら逃げようが無い……。
僕は早くも生死の狭間に立たされた……。
こんなことなら家にずっといるんだった!ちくしょう!
とりあえず、敵意がないことを術士に伝えなくては!
僕は恐る恐る口を開いた。
「あ……あの……あなた、そ、そこで……何をしてるん………ですか……? 」
もうしばらくの間人と話していないせいで、かなりギクシャクした話し方になった。
……うってかわって、顔から火が出そうだ。
術士らしい若い青年は、こちらを訝しむように睨んで言う。
「てめぇこそ誰だ? ガキが一丁前なくち叩きやがって!」
男はずんずんとこちらに大股で近づいてくる。
その度に僕の心臓の鼓動が速くなっている気がする。
そして乱暴にフードを取り払う。
僕の白い髪があらわになった。
「ひっ……」
途端に男の僕を見る目が変わる。
「おお! こいつは上玉……綺麗なアルビノだなぁ! 」
男は僕の顎の当たりを右手でつかみ、ニヤニヤとこちらを眺める……。
「あいつとセットで売ったら……きっと高くなるぞ……!」
そう言って男は後ろの人らしきものに目をやった。
先程は僕もフードをつけていたせいでよく分からなかったが、ゴーレムの目が光っている今なら見えた。
僕とあまり年幅の離れていなさそうな女の子が、ボロ布を身にまとっていたのだ。
しかも見ればその少女は、顔の半分近くが龍の麟のようなもので覆われていた。
なんだ……?奇病か何かか?
というか待て。
こいつ僕の事売るとか言ってなかった?
「あの……僕の事売るってどこに売るんですか?」
「遠方のマニアックな風俗」
ガチなやつじゃねえかよ。
クソっ……!
一刻も早く逃げないと身売りの危機じゃないか!
……などと思ったが……僕にはろくな対抗手段が無いことにも同時に気付かされた。
いや、あることにはあるが……正面突破したら、どう足掻いてもゴーレムに殺されてしまうだろう。
どうにか……僕とついでにあの子も助かる方法は……。
あいつを油断させ、ゴーレムを無力化出来れば……!
……久しぶりにいっぺんにものを考えたせいでだんだん頭が痛くなってきた……めまいもするし吐き気もしてきた……。
というか緊張と度重なる恐怖体験で、先程から何がとは言わないが漏らしそうになっている……。
――ん? あ、そうだ!
その時、男は舐めまわすように僕の顔を見ていた。
「これで、俺も大金持ちだなぁ! ……ん?」
[ポタ……ポタ]という水音に気が付いたようで、男は僕の足元を見る。
男は僕の足元に小さな水たまりができていたのを見るなり、僕を突き飛ばした。
「汚ねぇ!! こいつビビって小便漏らしやがった! 」
僕の足の辺りから垂れた水はかなりな量だったらしく、水溜まりは小さな川となり、続いていた。
男は怒り心頭のようで、こちらを真っ赤……だとは思うが暗がりでよく分からないが、とりあえず怒り散らした。
「俺の一張羅に汚れが着いたらどうする気だったんだ! このクソガキが!」
続けて男は僕を指さし、
「ゴーレム! このガキを殴り殺せ!」
と、怒鳴った。
ゴーレムはこちらへと動き出す……。
――大丈夫、大丈夫……まだあいつは、気づいていない!
僕はそう自分に言い聞かせて暴れる心臓をなだめた。
ゴーレムの顔に付いた目がこちらからはっきりと見えるようになった頃、ゴーレムは歩くのをやめて拳を振り上げた。
「ぶっ潰れろ!」
男がそう言うと、ゴーレムは僕へめがけて拳を振り下ろす……!
僕は目をつむり、作戦が成功していることを祈った。
そしてゴーレムの拳は僕の体を……!
潰すすんででに地面に衝突した!
[ズドーン!]という大きな地響きが辺りにこだまする。
ゴーレムは踏ん張ったせいで左足が粉々に砕け、その弾みで倒れたようだ。
男は目を丸くしてこちらを見つめる。
僕は尻もちを着いたところの土をはらうと、男を睨んだ。
男はこちらを指さして、
「や、やい! お前……! さては悪魔だな! そうだ!そうに違いねぇ! 魔法を使う素振りなんてしてなかったんだからよ!」
僕は首を横に振った。
「いいえ、僕の魔法をあなたは見ています」
そう言って僕は足元の水溜まりを指さす。
水溜まりはよく見ると、外からの光で紫色に反射した。
そう……これは!
「僕の毒魔法だ! お前が暗がりで気がつかない隙に、お前のゴーレムの足を脆くさせてもらった! 」
男は声を荒らげて絶叫する
「なんだとー!?」
「先入観にまんまと騙されたお前の負けだ!」
そう僕の魔法は【毒魔法】。
草木を枯らし、生物を根絶やし、万物を……溶かす。
まあその威力を手に入れるには、全然魔力量が足りないし、技術もなにも学んでないから安全に制御できる方法をとっただけなんだけどな!
男は瞬時に驚きの顔から無表情へと変わった。
え?
男は冷静に言う。
「……俺土魔法使いなんだからゴーレムの足なんてその辺で作ればいいじゃねえか」
……作戦の致命的な欠陥に今頃気付かされた。
男が小さく呪文を唱えると、生き物のようにそこら中の土が集まり、固まり、まとまっていく……!
そして先程より遥かに堅牢そうな【土の巨人】へと変貌した。
これでは僕が今持てる全力の魔力をぶつけても、かすり傷もつかないだろう……。
どうにも……ならないのか僕は!
と、諦めかけたその時だ。
鱗の少女がふらっと立ち上がった。
男は嘲るような口調で、
「んん? 今更起きたってどうするつもりだ? ヒーローごっこでもするつもりか?」
と言って大笑いした。
刹那、彼女の体が消える。
「なんだと!?」
否、その体は既に僕らの遥か頭上ににあった。
「ぶっ……つぶ……れろっ!」
空中で一瞬静止したその体は、次の瞬間には既にゴーレムの胸を貫いていた。
核を失ったゴーレムはただの土の山へと戻った。
「ひっ……! ばっ、化け物だ!」
男は青ざめ、しっぽを巻いて逃げていった……。
ざまあみろである。
そして少女は僕へと近寄ってきた。
「あなたの魔法すごいわね! まあ、私の方がもっと凄いけどね!」
自慢げに彼女は言った。
にっこりと笑う度に龍のギザギザした歯が口から覗いた。
僕はオドオドしながら、
「 危ないところを助けていただきありがとうございます……」
と、いった。
彼女は、
「いいのよ! お礼なんて!気にしないで!」
と、口で入っているものの、彼女の腹時計は正確なようで、こちらに必死に空腹を訴えてきた。
「……うぅ……」
彼女は顔を赤らめて、俯いた。
「……ご飯ぐらいなら出せますよ」
と僕が言うと、凄まじい勢いで食いついた。
「え? 本当に? ……まあどうしてもって言うならなあ! いただきましょう!」
彼女は思い出したように、
「あっ! そういえば自己紹介がまだだったわね! 私はセシリアよ!」
そう言ってセシリアさんはニッコリと笑った。
僕は黒髪の彼女に一礼すると、
「僕の名前はイーヴォです。 僕の家はこっちですよ。 案内します」
と言って先導した。
このとき僕は、話し相手が増える程度にしか考えていなかった。
この後、信じられない程の凄絶な旅路が待っているとも知らずに……。
「そういえばあなたの魔術って……も、もしかしてお……おしっこ使うの?」
「違う。そうじゃない」
夢も見ず、ただ無機質な天井が目に入る。
鳥のさえずりもなければ起こしてくれる目覚まし時計もなし。
いつも通りの孤独な起床だ。
寝巻きを脱ぎ、ワイシャツを着る。
身だしなみを整えようと、姿見に映る自分の姿を見て深くため息をついた。
髪は透き通るような白。
肌もまた、シルクのように白い。
目は鮮血を彷彿とさせる赤。
典型的な虚弱体質だ。
自分で自分が嫌になる。
小さな頃から悪目立ちするこの姿は、悪魔だなどとよく石を投げられた。
無論、そんな生温いものだけではすまなかったが、これについて語るとキリがない。
そして僕の魔法はさらに悪目立ちするものなのだ。
人によって使える魔法は異なる。
これは魔術というものが、一種の化学変化のようなものだからだ。
体の中に魔術の元となる『元素』があり、それが属性を決める。
血中を流れたり空中、水中に漂ったりしている『魔素』がその元素に反応し、その力を何倍にも増幅させつつ、制御を可能とさせるのだ。
一人につき使える魔法の属性は一つだけ。
この一つだけの枠に厄介物を押し付けられたのも、また僕だ。
そんなことを考えていると、もう一度ため息が出た。
着替えも終わり、閑散としたリビングに着く。
視界に飛び込んでくる、存在感のある四角い木のテーブルには、椅子が三脚並べてある。
僕と、両親の分だ。
両親はもう帰ってこない。
数年前、この国で起きていた近代化に伴う民族どうしの紛争、いわば『統一戦争』のようなものが終結した。
王朝に仕えていた魔術師の二人は戦死したそうだ。
――数年前のある日、すごく寒い夜だった。
ドアのノックに起こされた私は、大はしゃぎで玄関に寝巻きのまま向かった。
ずっと、あまりに遅い二人の帰りを待っていたのだ。
ところが、ドアの前にいたのは一人の大柄な男。
『ナタリア・ディーツェルとイマーゴ・ディーツェルは死んだ。 最期まで宮廷魔導士としての誇りを失わなかった』
そう言い捨てて写真を一枚と、二枚の死亡証明書を渡された。
今でもその時のことは鮮明に覚えている。
泣いた。
泣き叫んだ。
声が枯れるまで泣いた。
こうして僕は呆気なく、天涯孤独の身となった。
写真は父親が最期まで懐に入れていたものらしい。
三人で撮った家族写真だ。
黒髪の両親の前に、小さな僕が不器用に笑っている。
写真の裏には黒く「イーヴォ・ディーツェルへ」と書かれてある。
これが僕の名だ。
そんな感傷に浸りながら、ヤカンに水を入れてコンロのスイッチを押す。
因みにだが、コンロの中には魔素の塊と火の元素が入っており、何年も火をつけることが出来るのだ。
僕は、戸棚にあったコーンスープの粉末とパンを掴み、それぞれ皿に乗せた。
これが今日の朝食だ。
かなり質素だが仕方ない。
宮廷魔術師だった両親の遺産は、かなり残ってはいるが、いつかは底を尽きる。
その為、手に職をつけたいのだが、何しろこの見た目だと敬遠されるどころか、怒号が飛んでくるのだ。
途方もないほど難しいのである。
既に沸いた湯をさらに注ぎ、準備が終わった。
きっと今日も無機質な一日が始まる。
……そう思っていた。
「いただきます」
手を合わせてそう言って、コーンスープに口をつけた矢先である。
[ガガガガガガ!]
家の外で凄まじいほどのエンジンの駆動音がした。
おそらくゴーレムだろう。
音の近さからして、家の前の通りにいるようだ。
僕は放っておこうとも思ったが、何となく嫌な予感がした。こんな真昼間から工事でも無いのに重機みたいなのを動かすか?
それと何より、好奇心がそれを阻んだ。
僕は急いで紫の外套を羽織ると靴を履いて、朝食をすっぽかして外へ出た。
ドアを開けて通りに出る。
久しぶりの外はとても暖かく、日差しは刺さるほどに眩しい。
僕はフードを目深に被った。
街をゆく人の視線に恐怖を覚えつつ、僕は音の鳴るほうへと進んだ。
どうやらその音は通りを挟んで家の向かいの路地からなっているようだ。建物と建物とのあいだで音が反響してとてもうるさい。近所迷惑もいい所だ。
僕はゆっくりと真っ暗な路地を進んだ。
違法行為ではあるがゴーレム同士を戦わせその勝敗に賭博するような奴が居る。
僕の村は決して治安がいいとは言えず、中でもこの通りの路地裏は賭博がよく行われるのだが……。
いつもとは、その駆動音が明らかに違ったのだ。
違法とはいえルールはある。性能が違いすぎるとゴーレムの術士にすら危害が加わるからだ。
だが、今聞こえる音は手加減容赦一切なしの軍用の物だ。
幼いころ、両親の仕事場に行った時によく聞いていたものだ。
奥に着くと予想通り、軍用の改造されたらしい二足歩行の人型ゴーレムが一体、その術者が一人いた。
そして、路地の突き当りには、何やら人影がある。
深くフード……否、ボロ布を被っているため、はっきりと姿が見えない。
どうにかして見ようと近づくと、小石を奥に蹴飛ばしてしまった。
「あぁ? 誰だ!?」
術士が急に振り返り、すごい剣幕でこちらを睨む。
と、同時に蹴飛ばした石にゴーレムが反応したらしく、ゴーレムの目が赤く光る。
次の瞬間、ゴーレムの目から熱線が放たれ、小石は蒸発した……。
顔から血の気が引いていくのがわかった。
……ヤバい。
間違いなくヤバい。
こいつは軍用の中でも特に反応に重きを置いている型のようだ……。
こんなのに目をつけられたら逃げようが無い……。
僕は早くも生死の狭間に立たされた……。
こんなことなら家にずっといるんだった!ちくしょう!
とりあえず、敵意がないことを術士に伝えなくては!
僕は恐る恐る口を開いた。
「あ……あの……あなた、そ、そこで……何をしてるん………ですか……? 」
もうしばらくの間人と話していないせいで、かなりギクシャクした話し方になった。
……うってかわって、顔から火が出そうだ。
術士らしい若い青年は、こちらを訝しむように睨んで言う。
「てめぇこそ誰だ? ガキが一丁前なくち叩きやがって!」
男はずんずんとこちらに大股で近づいてくる。
その度に僕の心臓の鼓動が速くなっている気がする。
そして乱暴にフードを取り払う。
僕の白い髪があらわになった。
「ひっ……」
途端に男の僕を見る目が変わる。
「おお! こいつは上玉……綺麗なアルビノだなぁ! 」
男は僕の顎の当たりを右手でつかみ、ニヤニヤとこちらを眺める……。
「あいつとセットで売ったら……きっと高くなるぞ……!」
そう言って男は後ろの人らしきものに目をやった。
先程は僕もフードをつけていたせいでよく分からなかったが、ゴーレムの目が光っている今なら見えた。
僕とあまり年幅の離れていなさそうな女の子が、ボロ布を身にまとっていたのだ。
しかも見ればその少女は、顔の半分近くが龍の麟のようなもので覆われていた。
なんだ……?奇病か何かか?
というか待て。
こいつ僕の事売るとか言ってなかった?
「あの……僕の事売るってどこに売るんですか?」
「遠方のマニアックな風俗」
ガチなやつじゃねえかよ。
クソっ……!
一刻も早く逃げないと身売りの危機じゃないか!
……などと思ったが……僕にはろくな対抗手段が無いことにも同時に気付かされた。
いや、あることにはあるが……正面突破したら、どう足掻いてもゴーレムに殺されてしまうだろう。
どうにか……僕とついでにあの子も助かる方法は……。
あいつを油断させ、ゴーレムを無力化出来れば……!
……久しぶりにいっぺんにものを考えたせいでだんだん頭が痛くなってきた……めまいもするし吐き気もしてきた……。
というか緊張と度重なる恐怖体験で、先程から何がとは言わないが漏らしそうになっている……。
――ん? あ、そうだ!
その時、男は舐めまわすように僕の顔を見ていた。
「これで、俺も大金持ちだなぁ! ……ん?」
[ポタ……ポタ]という水音に気が付いたようで、男は僕の足元を見る。
男は僕の足元に小さな水たまりができていたのを見るなり、僕を突き飛ばした。
「汚ねぇ!! こいつビビって小便漏らしやがった! 」
僕の足の辺りから垂れた水はかなりな量だったらしく、水溜まりは小さな川となり、続いていた。
男は怒り心頭のようで、こちらを真っ赤……だとは思うが暗がりでよく分からないが、とりあえず怒り散らした。
「俺の一張羅に汚れが着いたらどうする気だったんだ! このクソガキが!」
続けて男は僕を指さし、
「ゴーレム! このガキを殴り殺せ!」
と、怒鳴った。
ゴーレムはこちらへと動き出す……。
――大丈夫、大丈夫……まだあいつは、気づいていない!
僕はそう自分に言い聞かせて暴れる心臓をなだめた。
ゴーレムの顔に付いた目がこちらからはっきりと見えるようになった頃、ゴーレムは歩くのをやめて拳を振り上げた。
「ぶっ潰れろ!」
男がそう言うと、ゴーレムは僕へめがけて拳を振り下ろす……!
僕は目をつむり、作戦が成功していることを祈った。
そしてゴーレムの拳は僕の体を……!
潰すすんででに地面に衝突した!
[ズドーン!]という大きな地響きが辺りにこだまする。
ゴーレムは踏ん張ったせいで左足が粉々に砕け、その弾みで倒れたようだ。
男は目を丸くしてこちらを見つめる。
僕は尻もちを着いたところの土をはらうと、男を睨んだ。
男はこちらを指さして、
「や、やい! お前……! さては悪魔だな! そうだ!そうに違いねぇ! 魔法を使う素振りなんてしてなかったんだからよ!」
僕は首を横に振った。
「いいえ、僕の魔法をあなたは見ています」
そう言って僕は足元の水溜まりを指さす。
水溜まりはよく見ると、外からの光で紫色に反射した。
そう……これは!
「僕の毒魔法だ! お前が暗がりで気がつかない隙に、お前のゴーレムの足を脆くさせてもらった! 」
男は声を荒らげて絶叫する
「なんだとー!?」
「先入観にまんまと騙されたお前の負けだ!」
そう僕の魔法は【毒魔法】。
草木を枯らし、生物を根絶やし、万物を……溶かす。
まあその威力を手に入れるには、全然魔力量が足りないし、技術もなにも学んでないから安全に制御できる方法をとっただけなんだけどな!
男は瞬時に驚きの顔から無表情へと変わった。
え?
男は冷静に言う。
「……俺土魔法使いなんだからゴーレムの足なんてその辺で作ればいいじゃねえか」
……作戦の致命的な欠陥に今頃気付かされた。
男が小さく呪文を唱えると、生き物のようにそこら中の土が集まり、固まり、まとまっていく……!
そして先程より遥かに堅牢そうな【土の巨人】へと変貌した。
これでは僕が今持てる全力の魔力をぶつけても、かすり傷もつかないだろう……。
どうにも……ならないのか僕は!
と、諦めかけたその時だ。
鱗の少女がふらっと立ち上がった。
男は嘲るような口調で、
「んん? 今更起きたってどうするつもりだ? ヒーローごっこでもするつもりか?」
と言って大笑いした。
刹那、彼女の体が消える。
「なんだと!?」
否、その体は既に僕らの遥か頭上ににあった。
「ぶっ……つぶ……れろっ!」
空中で一瞬静止したその体は、次の瞬間には既にゴーレムの胸を貫いていた。
核を失ったゴーレムはただの土の山へと戻った。
「ひっ……! ばっ、化け物だ!」
男は青ざめ、しっぽを巻いて逃げていった……。
ざまあみろである。
そして少女は僕へと近寄ってきた。
「あなたの魔法すごいわね! まあ、私の方がもっと凄いけどね!」
自慢げに彼女は言った。
にっこりと笑う度に龍のギザギザした歯が口から覗いた。
僕はオドオドしながら、
「 危ないところを助けていただきありがとうございます……」
と、いった。
彼女は、
「いいのよ! お礼なんて!気にしないで!」
と、口で入っているものの、彼女の腹時計は正確なようで、こちらに必死に空腹を訴えてきた。
「……うぅ……」
彼女は顔を赤らめて、俯いた。
「……ご飯ぐらいなら出せますよ」
と僕が言うと、凄まじい勢いで食いついた。
「え? 本当に? ……まあどうしてもって言うならなあ! いただきましょう!」
彼女は思い出したように、
「あっ! そういえば自己紹介がまだだったわね! 私はセシリアよ!」
そう言ってセシリアさんはニッコリと笑った。
僕は黒髪の彼女に一礼すると、
「僕の名前はイーヴォです。 僕の家はこっちですよ。 案内します」
と言って先導した。
このとき僕は、話し相手が増える程度にしか考えていなかった。
この後、信じられない程の凄絶な旅路が待っているとも知らずに……。
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よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
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