毒魔法使いの異世界探訪!

しぼりたて柑橘類

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一章.魔法使いと人工キメラ

二話目-うるさい客と出発前夜

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「あ、そういえばなんだけどさ! ひとつ頼まれてくれない?」

セシリアさんが振り返りざまに僕を見た。

 あまりに勢い良く振り返るものだから、ボロ布……もとい彼女の衣服の裾の辺りから下着やらなんやらが見えそうで怖い。

 僕はそっぽを見ている振りをしながら、

 
「な、なんですか?」

 と、応える。 

 
「私、帰り道もよく考えたらわかんなかったから送ってくれない?」


 セシリアさんは顔の前で手を合わせて僕に頼んできた。


  「ああ、いいですよ。 ご飯食べたら向かいましょうか」


 僕はどんな難題がふっかけられるものかと怯えていたが、以外にも簡単だった依頼に拍子抜けした。

「やった! ありがとう!」
 
 
 セシリアさんは靴も履いておらず、左の爪先にまで深緑色の鱗が生えていることがはっきりと分かった。

 いくら尋常ではない身体能力だろうと、この状態なら一晩か二晩歩くので限界だろう。

 行きでその程度の距離なら……多分……きっと、体力は持つと思う。
 

 セシリアさんはニッコリとこちらに向かって笑い、

「良かった! 私ここまでの道のりとか知らないから、本当に助かるわ!」
 
 
 僕は表情から呼吸から足の歩みから、何から何まで至るものが瞬時に止まった。

  無論、セシリアさんの下着が布から覗いたからなどではない。
 


 ―― 今、って言ったかこの女……?

 
 多分僕はこの瞬間、生物学上死んでいた気がするレベルでありとあらゆるものが停止していた。
 
 最高に聞くのが苦痛だが、この『まるっきり』の真意が分からなければとりあえず先には進めまい。

  
「あの……セシリアさん?」
 
「どうしたの?」
 
「い、今……なんとおっしゃいました……?」


 セシリアさんは不思議そうにこちらを見つめると、

 
「故郷の村からここまでの道も方角も、まるっきりわかんないって言ったけど、それがどうしたの?」
 
 
 と言った。

 
 どうやら僕は、募集要項を一切読まずに就職先を決めてしまうタイプの人間だったようだ。


 僕は二つ返事で本当にとんでもない依頼を受けてしまったことが信じられず、しばらくの間セシリアさんを見つめ続けた。

 セシリアさんは、僕のこの姿が滑稽だったようで腹を押さえて笑いながら、

 
「アハハ! バカねえ、アナタ。私、さらわれてきたのよ? ずっと馬車に揺られてたんだから分かるわけないでしょ?」


  なんていう、よく分からない開き直り方をした。
 


 やったね! 日雇いのボディーガード(恐らく無賃金)改め、旅のツアーガイド(九分九厘無賃金+現地までの二人分の旅費の負担あり)にジョブチェンジだ!


 ここまで来るともう笑うしかない。
 


…… だが、しかしだ。
 今朝のことがなかったら、僕はあと何年あの家に居続けたんだ?

 そんなことをふと考える。
 
 両親の死から早三年、虚弱体質を理由に外出することはおろか日光すら浴びず、死んだように生きていた僕は、これを逃したら、本当に死ぬまでこんな生活をしていたのではないだろうか……?

 明日ものうのうと天井のシミでも数えているのだ。僕もそろそろ動き出すべきだという神かなにかのお告げだろう。


「わかりました、ここまで来たら付き合いましょう!」

  「そう来なくっちゃ!」


「それで……家ってここの辺りですか?」
 
「拐われてしばらく経って、 車が止まったから逃げてきたんだけどさ……」

 急にセシリアが俯き、先ほどまでの明るい表情が曇る。それを見て、僕は身構えた。

「ど、どうされたんです?」

 するとセシリア、
 
「それまで寝てたから、どこ通ってきたか分かんないんだよねー! てへっ! 」
 
「いや、 てへっ! じゃないですよ……。 場所が分からないと、 送りようがないじゃないですか!」

 流石に拍子抜けする……。これが俗に言う「天然」なのだろうか……。
 
「あ!でも、地名は覚えてる!」
「ど、何処なんですか?」 
「“スローム”ってとこだけど知ってる?」
「え? 今何と仰りました? えげつない程、遠い地名が聞こえた気がしたんですが……?」
「“スローム”だよ!」
 
僕は絶句した……。具体的に僕が住んでいる村からそこまでは、人の足だけだだと下手したら半年ほどかかってしまうだろう。
 
 例え車でも一日二日夜通し走って着く着かないか微妙なところ……。



 こいつどんだけ寝てんだ!健康優良児か!
 
「さあ!そうと分かれば出発よ!身支度を始めて!」
 
 無理矢理袖を引っ張られる。この人そもそも僕の家の場所知らないだろ。
 ……やっぱり訳がわからない 。
 

 家に着き、一段落する間もなく荷物を整えた。

「一応、準備終わりましたよ」
 
とセシリアさんに伝えると、
 

「なら良いわね!出発よ!」 
などと言い始めた。
 
「なに考えてるんですか! 今からじゃ、街につかないうちに日が暮れますよ!」
 
「野宿すれば?」

 「逆に問いましょう、盗賊に襲われたらどう対処しますか? この辺りの治安は悪いったらありゃしませんよ?」
 
「……車使えば?」 

「こんな村に車なんか無いですよ。 他の交通機関もこんなど田舎には通ってないので、徒歩か良くて大鷲ですね……」
 
「それってどう乗るの?」

 「乗るというより足に掴まるんです。 毎年それで死人が出ます」
 
「それはやめよう。 日の出を待って歩いていこう。 流石に怖い」

 こんな鉄砲玉みたいな彼女にも恐れるものがあるようで本当に良かった。本当に。
 
 
「今日はまず、家に泊まって下さい。 送るといった手前宿代を出させるわけにはいかないですし、お金もほとんど無いので……」

 後者の方が九割を占めているのだが……。
 

「なっ、なんですって!」


 セシリアさんは口を押さえて後退した。

 こういったときには宿に泊まらせるのが普通なのか? 
 そうなれば家の家計は火の車……否、燃え盛る炎その物に…。
 

「男が、女を、家に泊めるなんて!  私たち出会ってまだ一時間しか経ってないじゃない!」

セシリアがまた少し後退した。

……考えてもみてくれ。
それは出会って数分で自分自身の命を救い(きっかけを作っただけで救われたのは結果的に僕だが)、
 そして、その一時間後にはいつまで続くかも分からないほどの大冒険に協力すると誓った人間対していう台詞だろうか……。
 

このぐらい勘弁してくれ……。
というよりも、そう言う意味合いで泊めるかよ!
 生活安定してないんだよ生活が!
 
 否、泊めろと言ったのそっちだろ!

仮にだ!そうだったとしても僕は、半人半龍の女?雌?には欲情する訳がない!
 
 という罵詈雑言がすんでの所まで出かかる……。
 
出来るだけ顔が歪まないように気をつけつつ、
 
「家に泊まって行った方が出発もしやすいですし、なにかと不便が無いので良いかと思いますよ?  僕は屋根裏で寝るのでどうぞベットを使って寝ていてください。 夕飯をこれから作るのでよかったら食べてください!」


 因みにここまで一息である……。

 するとセシリア、
 
「なら安心ね! ご飯にもありつけたし!」 


……何故僕はこんなのを助けてしまったのだろう。
 
人助けは良いことであるはずだ。だかしかし、何故僕には 行ったはずの良いことが数倍になって、反属性になって帰ってくるのだろう……?

 まあ、ここまで来ると最早どうでも良くなってきた。
 客人が納得してくれたようで良かったじゃないか!
 宿代が浮いて良かったじゃないか!(?)



 僕はキッチンへと向かう。
 
「何を作れば良いですか?」
 
と問うとセシリアは意外にも、
 
「何でも良いわお腹に入りさえすれば」

 と、目を擦りながら眠そうに答えた。
 この短時間の間にこれだけ疲労しているとなると、旅先は最悪の場合背負っていかなくてはならないかもしれない……。

 先が思いやられる……。
 等と考えながら、ベーコンと卵とアスパラを手早く焼き上げ、野菜を切ってドレッシングをかける。

 当分帰って来れないだろうから生鮮食品を意地でも使い切ってやる。

 これらはほとんど、近所の人からもらったものばかりだ。

 正直いってありがたいのだが、気味が悪い。


  食パンを二切れずつ皿にのせ、テーブルにあげる。
 驚いたことにセシリアが、犬のごとくよだれを垂らして目を見開いて、
 
「こ、こんなものを食べて良いの……?」

 と、声を震わせて聞いてくる。
 驚いた僕は、

「ど、どうぞ先に食べて下さい……」 

と、反射的に答える……。
 セシリアは皿の上の料理はおろか、食卓すら平らげそうな勢いで口に食べ物を放りこむ。

 見ると、その左右で色の違うその目にはうっすらと涙が浮いている。
 僕が呆然としていると、二人前の夕食を食べ終えたセシリアが、
 
「ご、ごめん!こんなに美味しいもの生まれてはじめて食べたからつい……」

 と言った。
 僕は、料理は上手くはない。むしろ下手な方だろう。
 それでも平らげるとは、よっぽどお腹が空いていたか、とてつもない程の劣悪な環境を今まで生きてきたのだろう。
 
「お腹は膨れましたか?」
 
と、僕が聞く頃にはセシリアさんは寝ていた……。
 訳の分からない人だが、この驚異的な睡眠時間にもなにか理由があるのかもしれない……。

 そう考えながら、セシリアをベットに運び、食器を洗う。

 数年ぶりに屋根裏を開けると、そこは一面クモの巣が張り巡らされ、一種の防犯装置のようにすらなっていた。

 
 こんなところで寝たら、明日のクモの朝食になりかねない。

僕は屋根裏で寝るのを断念し、タオルを敷いてキッチンで横になる。

明日からは、長い旅になる。早めに寝なくては……。
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