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一章.魔法使いと人工キメラ
七話目-忘れ形見と対人戦
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「本当にあれが戦争を止めたんですか?」
「うん。もちろん。 嘘じゃないよ。 それに……」
「それをこの目で見たしね……」
「!?」
嘘だろ……。
この人戦争から生きて帰ってきたのかよ……。
僕はまじまじとその人を見つめる……。
が、古傷はほとんど見られなかった。
一騎当千の古兵と言われても信憑性など全く感じられないほどだ。
むしろ新卒の一等兵と言われた方がしっくり来る。
「おいおい、まさか疑っているのかい?」
「宮廷魔法使いだった両親がその戦争で無くなっているので……にわかには信じがたいです……」
「 本当かい?さっきの話!?」
心当たりでもあるのだろうか、先程までアルカイックスマイルを維持していた警護兵はいきなり驚愕の色を浮かべる。
「はいもちろん。 二人とも炎魔法使いでした」
「それなら間違いないだろう……君に渡したいものがある。 少し待っていてくれ」
そう言い残すと慌てて部屋を出て行った。
急に部屋は静かになった。
耳に入ってくるのは振り子時計の秒針の規則正しい音とセシリアの寝息ぐらいだ。
……こいつ、いつから寝てたんだろ?
まさか話の初盤の方から寝てたのか?どうやら長話とか子守歌とかですぐ寝れるタイプだったようだ。
しばらくするとドアが開いた。だが出てきたのは傷だらけの巨漢である。
「お前らもしかしてあのオーガをひっ捕らえた奴か?」
「はい、そうですが……」
「なら俺と手合わせしろ! 久々に強い奴と戦いたくてなぁ……」
思ったより三倍ほど脳筋だった。
「安心しな。これは俺の普段使ってる剣じゃない。何も子供相手に本気を出す俺でもないぜ」
と言って、背中から引き抜いたのはその巨久と同じくらいの大剣である。
確実に室内で振り回すものではないのは確かだ。
「分かりました。あまり戦いたくは無いですが……」
断ったら高確率で死ぬ未来が見える。
「よし!じゃあいくぞ!」
信じられないほどのスピードで巨漢が迫ってくる。最早その姿は壁というべきだろうか、歩く破壊兵器と言うべきだろうか。
相手が一歩進む毎に地響きが起こる……。
……まずは大剣を溶かした方がいいだろう。
足の先から毒を出して飛び上がる。
瞬時に大男の頭上に位置どった。
もらった。そう思い威力控えめの紫毒の腕で剣をつかむ……が溶けない……。
……溶けない!?
一体何で出来てるんだよ……。
「あぁそうそう、この剣はなオリハルコンでできている。生半可な魔法だと弾かれるぞ」
オリハルコンであれほどの大剣を作るって……。
一体幾らしたのだろう……。
オリハルコンは腕一本ぐらいのが一塊あれば天井なしの値段で売れるぞ……それがあれだけって……あぁダメだ!集中しろイーヴォ!集中っ!
だか相手はオリハルコン……大男も言った通り大概の魔法は寄せ付けない最硬の金属である。
何を撃てば溶けるのだろう……。
取り敢えず赤毒をぶつけてみるしかないか……。
先程と同じように毒をぶつける。が、大男の振るう剣に弾かれた。
「効かぬわ……まさかこの程度とはな……拍子抜けしたぞ! まあなにか策があるのだろうな!」
あの大男を痺れさせるのも考えてはみたが、相手は鎧を纏っている。
繋ぎ目に入れるのも良いが、適正量を間違えれば一発であの世行きだ……。
あとなにか対抗手段は……リスクしかないがやるだけやるか……。
もうこれは気合い無しではとてもできそうもないが……。
「ウワァァァァァ!」
僕は持ち合わせのナイフで自分の右手を貫いた。
なぜこんなことをって?次使う魔法には血が要るからだ。
痛くないのかって?めちゃくちゃ痛い。
感覚麻痺の毒使おうかなと思ったけど、僕の毒は僕自身には効かなかった……。
「どうした!血迷ったか!」
痛みが少し落ち着いたところで手の平に意識を集める。
毒に血が混ざり、一気にどす黒くなった……。
小さい頃の思い出なのだが、近所の子供に石を投げられ頭から血が出たことがあった。
その頃はまだ戦争が終結しておらず、親もいなければ偏見も残っていた。
その時怒りのままに出したのは、この黒い毒だった。
その毒は扱いが難しく、小さい頃はろくに操作ができずただ流していたが、それだけでも近くの物をすべて溶かし、殺し、気付けば周りの地面は丸く抉れていた。
その後無事近くの村人に助けられたのだが、その子供たちは三日三晩飲まず食わずはおろか、ずっと寝続けていたとその子供の親から聞いた。
……まあその話はさておき、それを腕に鎧よろしく身に付ける。
少し痺れや痛みがある……。
やはり相当強い毒のようだ。
僕はこのまま真っ正面に先程のようにジャンプした。大剣をその腕で殴ると、その部分はすぐさま消失し、五秒かからず大剣は消え去った。
「!?貴様ぁ!」
即座に大男に殴られ地面に叩き付けられる。
「ゲハッ……」
腕についていた毒はとれ、右手からは血が吹き出す。
さっきの拳がクリーンヒットしていたら間違いなく内臓か肋骨が無事ではなかったろう……。
だが、普通に痛い……。
這って逃げていると、いつの間にか壁際に追い詰められた。
「安心しろ。頭を一発で潰してやる……」
男が拳を振り上げたその時、
「セシリアキーック!」
セシリアの右膝が敵の頭をとらえその巨久を吹き飛ばした。
その体は宙に舞い、落ち、ピクリとも動かなくなった……。
……死んでないよな……?
「イーヴォなにやってんの!?あんなの毒で溶かせたでしょ!? それにこの傷!早く手当てしないと!」
「セシリア? 毒で溶かしたら人だろうと何だろうと死ぬんだよ……? 」
「全く!私のお手柄ね!後でスイーツ!忘れないでよね!」
と言いながら荷物の中から包帯を取り出し巻いてくれた。
「分かってるよセシリア、ありがとう助けてくれて」
「良いのよ!後でご馳走してくれれば!」
どんなときでも食べ物で頭が一杯、胃は空っぽのようだ。
まあ本当に今回は助けられた。龍人の力恐るべしである。
しばらくすると警護兵が戻ってきた。
「どうしたの!?何があったの!?ってナーガじゃないか……」
「ナーガ?」
「そっちに倒れてる大男だよ。あいつ力自慢しようとして返り討ちにあったのか……ほんと君たち強いね……あいつにも後できつく言っとかなきゃ……」
「もちろんよ!」
胸を張るセシリア。今回はいつになく得意気だ。
「あ!そうそう、名前はイーヴォ君で良かったね?」
「はい、そうです」
「君の両親が用意しておいたものらしいよ。いつか渡そうとして……僕はこれを二人の死に際に預かったんだ……」
「そうだったんですか……」
「済まないね……僕が駆けつけたときにはもう手当てできる状況じゃなかった……」
そう言って大きな箱をくれた。
「開けてみてくれるかい?」
「はい……」
その箱のなかには厚めの魔法書が一冊、大きめのホウキが一本、そしてドールハウスのようなものが入っていた。
「なにこれ!?小さい家ねー!でもよくできてるわ!」
セシリアが家を持ち上げて窓から中を覗く。
「ああこれはね呪文を唱えると簡易式の家になるよ」
すごく便利なものが来たお陰で宿代が浮いた。
「少しずつ買って、箱にいれて埋めてたんだけど、もう渡せそうもないから場所を伝える。この街にアルビノの毒魔法を使う少年が来たらその子に渡してくれって言われてね」
「あと、遺言も預かってるけど聞くかい?」
「はいお願いします……」
そう言うと、おもむろに水晶のかけらを取り出して僕の前に置いた。
「述べよ!答えよ!あのときの記憶を!あのときの記録を!」
警護兵がそう言うと水晶が光った。
「イーヴォ……この話が聞けているということは、私たち抜きで……生きることが出来たということね……本当……に大きく……なったわね……まだ幼い……あなた……を村に……置いて……しまっ……てごめんなさ……いね……」
「私たちは……長くお前と一緒にいれなかったことを……後悔している。だが……案ずることもなさそう……だな。 私たちに縛られず……強く……生きているのだからな……。 いくつか……渡したいものがあったが……どうやら私たちには……そんな時間が……ないようだ……本当に済まない。 では……そろそろ私も……限界のようだ……。気の置ける友を見付けて……頑張りなさい……。 先に……向こうで……待って……いる……。私……たちの……よう……に……急いで……来る……んじゃ……ないぞ……」
「……メッセージハ、 イジョウデス」
宝石からそんな声がして光が消えた……と思う。視界がぼやけてよく見えない。
乱暴に目を擦って辺りを見回す、隣にいるセシリアも泣きじゃくっていた。
「い゛っじょ゛に゛い゛ぎま゛じょ゛う゛。ぶだり゛の゛……ヒック……ぶん゛も゛……」
セシリアが手を差し伸べた。
セシリア……なんでお前はそんなにも他人に優しくなれるんだ……?
僕は手を取り、セシリアに負けないぐらい大声で泣いていた。
「も゛ぢろ゛ん゛。…… ヒック……」
僕らが泣き止んだのはその三十分後位である。
「すみません警護兵さんありがとうございました」
「良いんだよ。 僕も預かりものが一つ減ったしね。 気をつけて!祭にいくなら楽しんでおいで!」
しばらく歩くと、手頃な空き地があった。
家の説明書をよく見ると、空き地の立て札に木箱があるところであれば使ってもよいとかかれていた。
そこに一晩あたり千ゴールドの貸し賃を入れてくれれば良いらしい。
宿よりも相当安い値段ですみそうだ。
家を空き地に置くとセシリアが、
「私が呪文読みたい!」
と言う。
「ああいいよ。説明書の最後にかいてるよ」 「じゃあいくよ……。再びもとに戻れ、かつての姿に、もとの姿に……」
「もうすこしなかったっけ?」
「イーヴォやっぱ代わって、読めない」
全力でずっこけた。まあ……良いか。
「再びもとに戻れ……かつての姿に……もとの姿
に……再び戻れ昔のままに……憑かれる前に……」
どうやら解呪魔法のようだ。
するとみるみるうちに家は大きくなり、かつての我が家よりも大きくなった。
「デカっ!」
「おぉっ!これで当分は家に困らないわね!」
僕は看板下の箱に千ゴールドをいれ、中に入った。
中にはしっかりと家具が備わっており、キッチンやら風呂や、トイレまでしっかりとあった。
「すごーっ!」
セシリアは目を輝かせて、とてつもなく楽しそうに走り回っている。
あ、本を読んでいなかった……。
ホウキは空を飛ぶためだろうが、本は一体なんのために有るのだろう……。
えっと……「PoisonBlackbook」?と題され、表紙には紫色の宝石と模様がついている。
開いてみると……外国語で書かれていると思いきや……読めた。
「この本は使い手によって成長するグリモワールです。魔法の詠唱、及びコントロールが可能です。この本は使い手の少ない希少な毒魔法について記されております。これを他の魔法使いが使っても効果はありませんが、もしも毒魔法使いが扱う際には細心の注意をお払いください。 その魔法は一国を容易に滅ぼします。」
第一章「基礎的な毒魔術」
第二章「応用」
第三章「白紙」
グリモワール……僕が最初図書館に行こうとしたのは無論これを探すためであった。
「イーヴォ!お祭りに行こう!そろそろ日が暮れてきたよ!」
セシリアにぐいぐいと引っ張られ、荷物を持ち、鍵をかけ、僕らは大通りへと向かった。
「うん。もちろん。 嘘じゃないよ。 それに……」
「それをこの目で見たしね……」
「!?」
嘘だろ……。
この人戦争から生きて帰ってきたのかよ……。
僕はまじまじとその人を見つめる……。
が、古傷はほとんど見られなかった。
一騎当千の古兵と言われても信憑性など全く感じられないほどだ。
むしろ新卒の一等兵と言われた方がしっくり来る。
「おいおい、まさか疑っているのかい?」
「宮廷魔法使いだった両親がその戦争で無くなっているので……にわかには信じがたいです……」
「 本当かい?さっきの話!?」
心当たりでもあるのだろうか、先程までアルカイックスマイルを維持していた警護兵はいきなり驚愕の色を浮かべる。
「はいもちろん。 二人とも炎魔法使いでした」
「それなら間違いないだろう……君に渡したいものがある。 少し待っていてくれ」
そう言い残すと慌てて部屋を出て行った。
急に部屋は静かになった。
耳に入ってくるのは振り子時計の秒針の規則正しい音とセシリアの寝息ぐらいだ。
……こいつ、いつから寝てたんだろ?
まさか話の初盤の方から寝てたのか?どうやら長話とか子守歌とかですぐ寝れるタイプだったようだ。
しばらくするとドアが開いた。だが出てきたのは傷だらけの巨漢である。
「お前らもしかしてあのオーガをひっ捕らえた奴か?」
「はい、そうですが……」
「なら俺と手合わせしろ! 久々に強い奴と戦いたくてなぁ……」
思ったより三倍ほど脳筋だった。
「安心しな。これは俺の普段使ってる剣じゃない。何も子供相手に本気を出す俺でもないぜ」
と言って、背中から引き抜いたのはその巨久と同じくらいの大剣である。
確実に室内で振り回すものではないのは確かだ。
「分かりました。あまり戦いたくは無いですが……」
断ったら高確率で死ぬ未来が見える。
「よし!じゃあいくぞ!」
信じられないほどのスピードで巨漢が迫ってくる。最早その姿は壁というべきだろうか、歩く破壊兵器と言うべきだろうか。
相手が一歩進む毎に地響きが起こる……。
……まずは大剣を溶かした方がいいだろう。
足の先から毒を出して飛び上がる。
瞬時に大男の頭上に位置どった。
もらった。そう思い威力控えめの紫毒の腕で剣をつかむ……が溶けない……。
……溶けない!?
一体何で出来てるんだよ……。
「あぁそうそう、この剣はなオリハルコンでできている。生半可な魔法だと弾かれるぞ」
オリハルコンであれほどの大剣を作るって……。
一体幾らしたのだろう……。
オリハルコンは腕一本ぐらいのが一塊あれば天井なしの値段で売れるぞ……それがあれだけって……あぁダメだ!集中しろイーヴォ!集中っ!
だか相手はオリハルコン……大男も言った通り大概の魔法は寄せ付けない最硬の金属である。
何を撃てば溶けるのだろう……。
取り敢えず赤毒をぶつけてみるしかないか……。
先程と同じように毒をぶつける。が、大男の振るう剣に弾かれた。
「効かぬわ……まさかこの程度とはな……拍子抜けしたぞ! まあなにか策があるのだろうな!」
あの大男を痺れさせるのも考えてはみたが、相手は鎧を纏っている。
繋ぎ目に入れるのも良いが、適正量を間違えれば一発であの世行きだ……。
あとなにか対抗手段は……リスクしかないがやるだけやるか……。
もうこれは気合い無しではとてもできそうもないが……。
「ウワァァァァァ!」
僕は持ち合わせのナイフで自分の右手を貫いた。
なぜこんなことをって?次使う魔法には血が要るからだ。
痛くないのかって?めちゃくちゃ痛い。
感覚麻痺の毒使おうかなと思ったけど、僕の毒は僕自身には効かなかった……。
「どうした!血迷ったか!」
痛みが少し落ち着いたところで手の平に意識を集める。
毒に血が混ざり、一気にどす黒くなった……。
小さい頃の思い出なのだが、近所の子供に石を投げられ頭から血が出たことがあった。
その頃はまだ戦争が終結しておらず、親もいなければ偏見も残っていた。
その時怒りのままに出したのは、この黒い毒だった。
その毒は扱いが難しく、小さい頃はろくに操作ができずただ流していたが、それだけでも近くの物をすべて溶かし、殺し、気付けば周りの地面は丸く抉れていた。
その後無事近くの村人に助けられたのだが、その子供たちは三日三晩飲まず食わずはおろか、ずっと寝続けていたとその子供の親から聞いた。
……まあその話はさておき、それを腕に鎧よろしく身に付ける。
少し痺れや痛みがある……。
やはり相当強い毒のようだ。
僕はこのまま真っ正面に先程のようにジャンプした。大剣をその腕で殴ると、その部分はすぐさま消失し、五秒かからず大剣は消え去った。
「!?貴様ぁ!」
即座に大男に殴られ地面に叩き付けられる。
「ゲハッ……」
腕についていた毒はとれ、右手からは血が吹き出す。
さっきの拳がクリーンヒットしていたら間違いなく内臓か肋骨が無事ではなかったろう……。
だが、普通に痛い……。
這って逃げていると、いつの間にか壁際に追い詰められた。
「安心しろ。頭を一発で潰してやる……」
男が拳を振り上げたその時、
「セシリアキーック!」
セシリアの右膝が敵の頭をとらえその巨久を吹き飛ばした。
その体は宙に舞い、落ち、ピクリとも動かなくなった……。
……死んでないよな……?
「イーヴォなにやってんの!?あんなの毒で溶かせたでしょ!? それにこの傷!早く手当てしないと!」
「セシリア? 毒で溶かしたら人だろうと何だろうと死ぬんだよ……? 」
「全く!私のお手柄ね!後でスイーツ!忘れないでよね!」
と言いながら荷物の中から包帯を取り出し巻いてくれた。
「分かってるよセシリア、ありがとう助けてくれて」
「良いのよ!後でご馳走してくれれば!」
どんなときでも食べ物で頭が一杯、胃は空っぽのようだ。
まあ本当に今回は助けられた。龍人の力恐るべしである。
しばらくすると警護兵が戻ってきた。
「どうしたの!?何があったの!?ってナーガじゃないか……」
「ナーガ?」
「そっちに倒れてる大男だよ。あいつ力自慢しようとして返り討ちにあったのか……ほんと君たち強いね……あいつにも後できつく言っとかなきゃ……」
「もちろんよ!」
胸を張るセシリア。今回はいつになく得意気だ。
「あ!そうそう、名前はイーヴォ君で良かったね?」
「はい、そうです」
「君の両親が用意しておいたものらしいよ。いつか渡そうとして……僕はこれを二人の死に際に預かったんだ……」
「そうだったんですか……」
「済まないね……僕が駆けつけたときにはもう手当てできる状況じゃなかった……」
そう言って大きな箱をくれた。
「開けてみてくれるかい?」
「はい……」
その箱のなかには厚めの魔法書が一冊、大きめのホウキが一本、そしてドールハウスのようなものが入っていた。
「なにこれ!?小さい家ねー!でもよくできてるわ!」
セシリアが家を持ち上げて窓から中を覗く。
「ああこれはね呪文を唱えると簡易式の家になるよ」
すごく便利なものが来たお陰で宿代が浮いた。
「少しずつ買って、箱にいれて埋めてたんだけど、もう渡せそうもないから場所を伝える。この街にアルビノの毒魔法を使う少年が来たらその子に渡してくれって言われてね」
「あと、遺言も預かってるけど聞くかい?」
「はいお願いします……」
そう言うと、おもむろに水晶のかけらを取り出して僕の前に置いた。
「述べよ!答えよ!あのときの記憶を!あのときの記録を!」
警護兵がそう言うと水晶が光った。
「イーヴォ……この話が聞けているということは、私たち抜きで……生きることが出来たということね……本当……に大きく……なったわね……まだ幼い……あなた……を村に……置いて……しまっ……てごめんなさ……いね……」
「私たちは……長くお前と一緒にいれなかったことを……後悔している。だが……案ずることもなさそう……だな。 私たちに縛られず……強く……生きているのだからな……。 いくつか……渡したいものがあったが……どうやら私たちには……そんな時間が……ないようだ……本当に済まない。 では……そろそろ私も……限界のようだ……。気の置ける友を見付けて……頑張りなさい……。 先に……向こうで……待って……いる……。私……たちの……よう……に……急いで……来る……んじゃ……ないぞ……」
「……メッセージハ、 イジョウデス」
宝石からそんな声がして光が消えた……と思う。視界がぼやけてよく見えない。
乱暴に目を擦って辺りを見回す、隣にいるセシリアも泣きじゃくっていた。
「い゛っじょ゛に゛い゛ぎま゛じょ゛う゛。ぶだり゛の゛……ヒック……ぶん゛も゛……」
セシリアが手を差し伸べた。
セシリア……なんでお前はそんなにも他人に優しくなれるんだ……?
僕は手を取り、セシリアに負けないぐらい大声で泣いていた。
「も゛ぢろ゛ん゛。…… ヒック……」
僕らが泣き止んだのはその三十分後位である。
「すみません警護兵さんありがとうございました」
「良いんだよ。 僕も預かりものが一つ減ったしね。 気をつけて!祭にいくなら楽しんでおいで!」
しばらく歩くと、手頃な空き地があった。
家の説明書をよく見ると、空き地の立て札に木箱があるところであれば使ってもよいとかかれていた。
そこに一晩あたり千ゴールドの貸し賃を入れてくれれば良いらしい。
宿よりも相当安い値段ですみそうだ。
家を空き地に置くとセシリアが、
「私が呪文読みたい!」
と言う。
「ああいいよ。説明書の最後にかいてるよ」 「じゃあいくよ……。再びもとに戻れ、かつての姿に、もとの姿に……」
「もうすこしなかったっけ?」
「イーヴォやっぱ代わって、読めない」
全力でずっこけた。まあ……良いか。
「再びもとに戻れ……かつての姿に……もとの姿
に……再び戻れ昔のままに……憑かれる前に……」
どうやら解呪魔法のようだ。
するとみるみるうちに家は大きくなり、かつての我が家よりも大きくなった。
「デカっ!」
「おぉっ!これで当分は家に困らないわね!」
僕は看板下の箱に千ゴールドをいれ、中に入った。
中にはしっかりと家具が備わっており、キッチンやら風呂や、トイレまでしっかりとあった。
「すごーっ!」
セシリアは目を輝かせて、とてつもなく楽しそうに走り回っている。
あ、本を読んでいなかった……。
ホウキは空を飛ぶためだろうが、本は一体なんのために有るのだろう……。
えっと……「PoisonBlackbook」?と題され、表紙には紫色の宝石と模様がついている。
開いてみると……外国語で書かれていると思いきや……読めた。
「この本は使い手によって成長するグリモワールです。魔法の詠唱、及びコントロールが可能です。この本は使い手の少ない希少な毒魔法について記されております。これを他の魔法使いが使っても効果はありませんが、もしも毒魔法使いが扱う際には細心の注意をお払いください。 その魔法は一国を容易に滅ぼします。」
第一章「基礎的な毒魔術」
第二章「応用」
第三章「白紙」
グリモワール……僕が最初図書館に行こうとしたのは無論これを探すためであった。
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