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一章.魔法使いと人工キメラ
九話目-かつての戦火と警護兵
しおりを挟む「イーヴォ起きて!何があったの!?」
セシ……リア ?で良いんだよな?
どうやらここは病院の一室のベットの上のようだ……。
ゆっくりと体を起こす……が、痛みは一切無い。
流石ゾーノの医療技術……ここまですぐに完治しているとファントムの存在が全て白昼夢だったような……そんな気さえする。
「あなた……イーヴォさんって言うんですね? 」
眼鏡をかけ、白衣を身に付けた水色のスライムがナース姿の人狐が押すサービスワゴンみたいなのに乗っかったまま話しかけてきた。
「はい……そうですが?」
「君ね……あと少し斜めに倒れてたり、乱雑に運ばれたり、手当てが遅れてたら死んでたよ?」
「え?」
「え?じゃないよ……。この龍人ちゃんに感謝するんだよ? 君に救急車を呼んでくれたのは、他ならぬ彼女自身だからね?」
下を向き、はにかむセシリア。僕は助けたのではなく今度は助けられたようだ……。
「完治こそしたけど、くれぐれも無理はするんじゃないよ? 」
「済みません……ありがとうございました」
「お礼はそっちの子に言うのが先だろう? 私は医者として当然のことをしたまでさ……では、回診があるから先に失礼するよ。 お大事に……。」
そう言ってスライムと、人狐は出ていった。
このスライム滅茶苦茶イケメンじゃねぇかよ……。
「セシリア、本当にありがとね……」
「……一発殴らせなさい……」
「ファッ!?」
血管が浮き出るほど彼女は両拳を握り締め、静かに腕を引いた。俗に言うファイティングポーズである……。
セシリアさん……?目がマジですよ……? ダメだこれ殺しに来ていやがる……。
「私がどれだけ心配したかわかってんの? ほんとはあの時点では、あの化け物に勝てるような魔法なんて持ってなかったんでしょ? この大嘘つきっ!」
途端、セシリアの左ストレートが僕の左頬を掠め、そして壁にめり込んだ。
「ズドーン!」
そしてゆっくりと拳を引き抜く。パラパラと建材が僕の首や肩に落ちる……下手したらファントムの比じゃ無いくらい怖い……。
「まだ二日間しか一緒にいないけど……私だって考えてるのよ……? もし、お母さんが死んでたらとか……そうしたら私は天涯孤独なのよ?」
……確かではないし……僕の口から言うのはよくない筈だ……。それにその事をセシリアに言ったら間違いなく壊れてしまうだろう……。
「それに、さっきは……イーヴォが倒れてて動かないし……イーヴォすらも私の側から居なくなるかもって思ったのよ……?」
「お願い……これ以上……私に寂しい思いをさせないで……イーヴォは私の唯一無二の友達で……今は家族じゃないの……!」
僕は独りであり続けたせいで、残されたセシリアの思いなど考えてもみなかった……きっと立ち直り、強く生きてくれるだろうと勝手に想像していた……。
寂しさは僕にだってある。
……だが死人に会えない苦しみと、消息不明の人に会えない苦しみでは……訳が違う……。
「セシリア……ごめん……」
「何泣いてんのよ……ぶち殺すわよ……」
言われて初めて気がついた。泣いている。
それも号泣している……。
かくいうセシリアも泣いている。泣きじゃくっている。
「さて! お祭りは終わっちゃったけど今日はイーヴォの好きなことをする日でしょ? 付き合ったげる!」
「いや良いよ。何か……パフェかなにか食べに行こうよ。 お祭り、行きたかったけど、潰れちゃったでしょ?」
「……そうね! それで良いなら喜んでそうさせてもらうわ!」
仲直り……出来たんだろうか? 友達の一人も居たことがないから分からないが……ってうん?
「さーてグズグズしてる暇はないわよ!早く行きましょ!」
「セシリア? ここの壁は……どうする気なんだい?」
「え?あっ!」
「考えてなかったのか!」
その後先程のスライム先生(どうやら院長だったらしい……)に正直に謝り、必ず全額支払うという条件付きで僕らが手に職をつけ、お金が貯まるまで待っていてくれる事になった……本当にスライムの鑑だな……。
僕らが病室を出るとすぐそこにいたのは、車椅子に乗った腰から下の無い警護兵の姿だった。
「済まないね!助かったよ!」
元気そうに右手を振る……が、その手の指も二本無かった……。
「こっちこっち! 話したいことがあってね!」
しばらく進み、僕らは休憩室の様なところにつ
いた。
「ふう……車椅子ってのは慣れないと疲れるなー!」
「一時はどうなるかと思ったけど、 元気そうでよかったわ!」
この人……気丈に振る舞ってはいるが内心何を思っているか気が知れない……。
「一つだけお伺いしたいことがあります」
「なんだい?」
「なぜ貴方は……ファントムに狙われていたんです?」
途端、表情が険しくなる。だが、テンポを落とさず続けた。
「戦争を終わらせるために、ファントムと交渉した。下半身はその代償だよ……」
「戦争はファフニールが終わらせたんじゃないんですか?」
「順を追って説明するよ……」
一気に場の空気が変わった……
「はい……」
「まず、あの戦争の発端はファントムだ。あいつがピュアオーガをかつての表舞台に立たせるという名目でそそのかしたんだ……「ピュアオーガはそれに乗じてこのゾーノに攻めいった……「もとからここは様々な種族が共生していてね……人口も多かった……「僕たち警護兵や宮廷魔法使い、龍騎士たちが来る頃にはもう全てが遅かった……「僕らは戦った。戦い続けた。一人の犠牲者も出さないように細心の注意を払いながらね「そうしてこのまま押しきれると確信したとき……あいつは現れた「人を徹底的に誘惑し、追い詰め、惨殺した……惨いものだったよ……「だが、私はそいつに頼んだ。私の体のどの部分でもくれてやろう!ただし、私に力を授けろってね……「奴は愚かだと笑いながら僕に龍の言葉がわかるようにし、凄まじい怪力と、再生力を与えた……三年という期限つきで満了になり次第僕を殺しに来ると言ってね……「僕は町の中心だったところに行って、 結界に守られてた祠に頭を下げてファフニールを呼んだ「ピュアオーガはファフニールによって何度も文明が滅びかけている……みれば逃げ出す筈だからね……「こうして戦争は実質ファントムの独り勝ちで終わったんだ……「これをもとに太竜祭も行われるようになったんだ……」
「これがこれまでの話だ……」
成る程……これなら無傷でも古兵と言えるわけだ……。
「僕は昨日、力が急激に抜けるのに気がついた……いきなり這い寄ってくる恐怖に堪えられなくて路地に逃げた……決心はついてたはずなんだけどね……」
苦笑いしながら警護兵は言う。
「そこに偶然君たちがやって来た……済まないね……こんなことに巻き込むなんて……」
「いえ……良いんです。 僕は五体満足ですし、セシリアは無傷です」
ようやく警護兵の顔に笑みが戻る。
「そうか……だけどこれから気を付けるんだよ?」
「君らはもうすでに見られている。あいつが目をつけて無事だったやつなんて聞いたことが無いからね……」
「重々承知しています。それではお大事に……」
「あ!あと!」
セシリアを起こそうとすると呼び止められた。
「はい?」
「その子君に付きっきりで一睡もしてなかったから寝かせてあげな……フフッ……」
仕方ない……おぶっていくか……。
「ではお元気で!」
「うん!じゃあね!」
僕はひとまず予め建てていた家へと向かった……。
セシリアを僕がベットに運ぶことができたのは既に日が空高く昇っている頃だった。
久しぶりに体を酷使した気がする……。
するとまもなく、
「おっはよー!」
と、飛び起きたセシリア。
「よく寝たわ!さて!ご飯でも食べに行きましょ! もうお腹がペコペコよ!」
いつものセシリアだ。本当に良かった……!
「目星付けてるとこ有るからさっそく行くわよ!」
セシリアは走る気満々のようだ。またあれで移動するのかよ……。
寿命が音を立てて削れていきそうだった……。
「歩いていこうよ普通に。その間にお腹ももうちょっとは空くでしょ……? お腹が空いたあとのご飯は美味しいよ!」
「それもそうね!そうしましょう!」
チョロい……。
そんなこんなで僕らはゆっくりと歩いていくことになった。
「いやー!暖かくて良いわね!」
「そうだねー……ところでどの辺りにそのお店あるの?」
「直ぐそこだよ!」
お腹も空きそうもない……。
「ほら! 着いたよ!」
そう言われて看板を見上げると「レストラン・ゾタクア」の文字。あまり大きなレストランでもなさそうだ。
入ってみると昼を完全に過ぎていることもあり、店内はがらんとしていた。
「いらっしゃいませー!」
肉付きのいい店主らしき人が出迎えた。
ひとまずセシリアにメニューを手渡す。
「シチューもいいなー、グラタンもいいなー! うん? オムライスもある! どれにしよう!」
これは三品全部頼むな。間違いない。
「イーヴォは何にするの?」
セシリアからメニューが渡されたもう決まったようだ。
「えっと……じゃあ僕は、とクリームシチューとパンにするかな」
「じゃあ私もそれ!」
嘘だろ!
「いやいやいや何があろうと足りないぞセシリア! 僕は足りるかもしれないがセシリアには少ないんじゃ……」
などと言っているうちにセシリアは店員を呼んでいた。
「済みませーん! クリームシチューと、パンのセット!」
マジで頼んだ!?
「四人前!」
……まあ……なんか知ってた……。
「いろいろと悩んだけど……私料理自体良く分かんなかった!」
「またあとでレストランとかに食べに行けばいいよ。 それか作ってご馳走するよ」
「やった!」
本当にあの簡易式の家にキッチンがあってよかった。
まもなくウェイターがやって来て
「クリームシチューとパンのセット四人前です。 お熱いのでお気をつけて召し上がりください」
といってシチューの皿を四枚、パンが十個は入っているであろう籠を目の前に置いた。
「わぁ……! ってうん? これが本物のシチューなの?」
「うん。そうだけどどうしたの?」
「いや、何でもないの。 忘れて!」
首を横に振るセシリア、故郷でのなにかを思い出したのだろうか……。
「いただきます!」
「いただきます」
セシリアは相変わらずすごい勢いで食べている。
皿はおろかテーブルすら無くなりそうだ……。
「はぶっ!ふぃーふぉふぉふぁふぁふふぁへふぁふお!」
「落ち着いて食べればいいのに……」
少し啜ってみる。
「美味しい!」
「でしょ! 事前にリサーチした甲斐が会ったってもんよ! 」
こいついつの間にそんなことをしてたんだろ……。
僕らは三十分ほどで食べ終わるとそそくさと店を出た。
家に戻り、荷物をまとめてようやく家を畳むことができた。
セシリアには自分のバッグもそうだが服も新たに買った方がいいだろう。
「ねぇ!次の町にはどうやっていくの?」
「ホウキに乗っていくよ」
「それ……本当に大丈夫?」
「大丈夫!……多分……」
最後にホウキに乗ったのなんていつぶりだろうか……まあ、何ら問題はないだろう。
僕らは、僕の両親が遺したホウキにまたがる。
確か魔法をある程度使うことができれば勝手に浮くんだっけ?
ふんわりと僕らを乗せたホウキは浮き上がり、僕らがやって来たのとは反対方向へと軌跡を描きながら進む。
次の目的地は【イゴロノス】……。
芸術と文化、そして本の街だ。
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