毒魔法使いの異世界探訪!

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
17 / 35
一章.魔法使いと人工キメラ

十四話目-古い文化とその名残

しおりを挟む
「ほう……戦闘力は向上しているようだな……だが……」
 
 右手に持った杖だったものを手から離した。
 
 刹那、セシリアは反対方向に吹き飛ばされ、凄まじい勢いで樽の山にぶつかりそこら中に木片を飛ばした……。
 
「!!?」

 瞬時にペストマスクは両手に持っている物を離し、左手でセシリアを殴ったようだ……。

 何て状況判断能力なのだろう……だが、

 「ふむ……毒魔法……それも威力は確かなようだ……」
 
 ペストマスクは、肘から先が消えた左腕をまじまじと見つめる。 

 「痛たた……鎧があって助かったよ……」
 
 同時にセシリアが起き上がる。

 ……逆に何故お前は傷一つ負ってないんだ?
 僕の作った鎧のある胴体ならまだしも顔にすらかすり傷もついてないんだ?
 
……まあ、怪我がなくて何よりだが……。

 「面白い……この街には他の用事が有ったが……あいにく私は刹那主義だ。 実験に協力してもらおう……!」

 ペストマスクはポケットから小さな木箱を取り出し、器用に蓋を開けた。

 さて……回復薬をそろそろ飲もう。

 「いだだだだだだだ!」
 「どうしたの!?」

 これまで呆気にとられていて忘れていたが、僕が黒い毒を使うために必要なのは僕自身のだ。
 
 先程もナイフを右手に突き立ててから魔法を使ったのだが……どうやら深く刺さりすぎたようだ……。
 
 鞄から小瓶を取り出す。
 もとの家から取ってきたものだ。
 キャップを取って一気に飲み干すと、みるみるうちに傷が治った。
 
「あー……痛かった……」
「イーヴォは私と違って体が貧弱なんだから……」
「辛辣すぎるよセシリア……」

 そうしていると、

「さてと……始めようか……」

 ペストマスクは右手に注射器を携えた。
 首を傾け、鈍く輝くそれを勢い良く病的に白い首筋に突き立てた……。
 
 ペストマスクの親指が完全に手に隠れたころ、奴の首筋には青々と血管が浮き出ていた。

 「さーて……実験が終わり次第お前らを持ち帰り、この街の本も戴こう……」
 
 ペストマスクは先の欠けた左腕をサッと広げる……。
 すると瞬間的に五指の付いた腕の先が戻った……が、何かかおかしい……?
 凄まじく骨の軋む音と共に鋭く血で染まったかのような赤黒い爪、見ているだけで呑まれそうになる真っ青な皮膚、そしてそれはとても大きく、太く、恐ろしく変化した……。

 「完璧な仕上がりだ……書物の通りの出来栄え……素晴らしい……」 

 恍惚としたような声色で、その腕を愛で続けるペストマスク……その覆面の上からでもうっとりとしたその表情が嫌というほど伝わってくる……。

 「ヤバイっ! 逃げるよイーヴォ!」
 「え! ちょっ!」
 
 前に飛び上がりながらセシリアは、ぐいっと僕の襟首を掴むと、僕を投げ飛ばした……!

 咄嗟に粘土の高い神経毒をだし、どうにか体制を立て直して綺麗に着地……とは行かなかったが九死に一生を得た……。

 と思っていると、ペストマスクは飛び上がりながら腕を振り下ろした……。

 さっきまで立っていた地点に衝撃波が一直線に走り、煉瓦造りの地面が割れてその先の噴水が木っ端微塵になった……。

 セシリア ナイス……!

 「うーむ……あまり制御は出来んな……まあいい……」
 「あんたたち……まだそんなの作ってたの!?」

 セシリアは苦虫を噛み殺したような顔をしながらそう言う……。

 「私の興味の赴くままに作っているのだよ……他人が口を挟むな……」
 「邪神だか魔王だか忘れたけど……そんなのを復活させてどうするのよ!」

 魔王!?  いや……文献すらもはや残ってないんじゃないのか……?
 この文明社会で独裁者など……ましてや魔族が力によって治めた記録など微塵も残っていない……。
 絵本や小説でも僕が知っている作品の中でそんなのが出てくるのなど二冊……有っただろうか……?

 そんなことを考えていたら横入りするように若い男の声が聞こえた。

 「おい! お前ら!なにやってんだ!」

 噴水の辺りに男の影があった……!
 
加勢してくれるのだろうか……?
ありがたい……やはり、どんなところにも優しい人は……

 「お前らのような異端者にいる場所など有ると思うな! 今すぐに立ち去れ!」

 ……え?

 すると横から老人も杖を振り上げ声荒げる……。
 
「忌み子……それも毒魔法使いだと! 立ち去れ! わしらの町を滅ぼす気じゃろ!」

 気付けばそれらが二人、三人と増え……いつの間にかデモ隊となっていた……。

 「あんたは何よ! そこの……黒い鎧の……うわっ! 気持ち悪い……人? 龍……? 奇病も有るものね……とっとと出ていきなさい!」
 「ああ汚らわしい! お前らのような奴等が居るからいつまで経っても平和にならないんだ!」
 「さてはお前ら……本泥棒か! 町も壊しやがって! とっとと出て行け! 」

 もう……駄目だ……こいつら僕はともかく、セシリアを……セシリアを……!
 
 僕はゆっくりと深呼吸を始めた……怒りを落ち着けないと……。

 「煩いなぁ……蝿は消えろ……」

 ペストマスクは左手で群衆を捉えると……手を一気に握る……!
 
「うっ!」
「ぐぁっ……!」

 何人かが男の手の動きと共に宙に浮くと同時に苦しみ始めた……。

 「ひっ! あのペスト医者! 地面を割ったやつだ!」
 
 おいこらお前、現場見てるなら最後に喋った奴に喋ってやれよ!
 
「ああ忌々しい! 全て忌み子が連れてきたんだ!」
 
 落ち着け……落ち着け……イーヴォ……お前が戦中にやられた迫害を思い出せ……。
 
 ……ああ! 思い出したら余計ムカついてきた! もうこいつら神経毒で黙らせて良いかな!?
 
するとセシリアが寄ってきた。

「イーヴォ……次の町に行こう……服とかは次の町とかで見れるし……さ!」

 セシリアは笑顔だ……鼻の辺りが真っ赤になるまで涙を流してはいるが……。
 
「そう……だね! まずこいつをどうにかしないとだけど……」

 すると若者の一人が駆け出し、僕の襟を掴んだ。

 「お前ら!いい加減にしろ! 障気が舞ってんだよ! とっとと出てけ! 」

  勢い良くふりおとされ体に鈍い衝撃が走った。

 「イーヴォ! 大丈夫!?」

 ふぅ……こういうときは円満に済ませないと……。

 「お前らっ!いい加減にしろ! 貴様らは遅れてんだよ! 」

 ……うん?  この声は僕の……声……だ?

 「忌み子が何を言うか!」
 「これ以上何かを言うと貴様らを……いや……この街を溶かす!」

 何をいってんだ!? 自分だよな、これ?

 「きっ……貴様! 衛兵を呼ぶぞ!」
 「呼ぶなら勝手にしろ! 折角ペストマスク野郎から町を救ってやろうとしたのに……!」
 
 すると……まじで衛兵が来た……。

 「おい! 君たち! 無益な争いはやめ……」
 「僕は忌み子だ! セシリアはキメラだ! 外見が違うだけだろうが! 」

 いやぁ……二重人格? でもはっきりと意識はある……。 勝手に口が動いている感じだ……。

 「うぅ……っ貴様らは……貴様らは穢れを呼ぶと昔から言われておって……」
 「ああ! 貴様らは古臭いんだ! 汚れているのはお前らの人間性じゃないのか!」

 群衆が完全に引いてる……これはヤバイ……止まれ!
 
「それでも町中で戦うのはどうなんだぁ? お前らの方が倫理観がないんじゃあないか? どうだ言い返せないだろ!」
 「お前らは僕らがペストマスクと戦っているのを見て、 あいつが襲ってきた事ぐらい分からないのか?」
 「そ……それは……」
 「そこまで言うなら自分等で自分の町を守れよ。 ああだこうだと見てばかりかお前らは!」
 
  ……後でお菓子折りでも持っていって謝ろう。 無意識とはいえ、やっていいこととやってはならないことがある……。
 
「ああ……早くしてくれないか? 退屈なんだよ……浮かせたやつも死んじまったし……」
 
 群衆に目を向けるとそこには何人かの死体が転がっていた……。

 「わかった……セシリア……戦える?」
 「まあ……まずまず……」
 
僕は群衆に向かって一礼した。

「先程は無礼な真似をして申し訳ありません……これからあのペストマスクが暴れるのでどうか避難してください……あいつを倒したら出ていきますから……」

 町民は皆困惑していた……。
 まあ、それもそうだよな……さてと……。

 「セシリア! 殺るよ!」
 「任しときなさい!」

  僕らは何をしているんだろう?
 もうじき出なくてはならない町で……?
 まあいい!

 僕は集中を高め、セシリアは気合いを入れた。
 眼前のペストマスクを倒すために……いや……イゴロノスの町とその住人を守るために!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...