毒魔法使いの異世界探訪!

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
20 / 35
一章.魔法使いと人工キメラ

十七話目-食事処と再出発

しおりを挟む
 「うわぁぁぁっ!」

  速いっ!速いっ!

  セシリアは風を切り、僕を地につけることなくぐんぐんと加速する。

 「イーヴォ! もうちょっと待って! この角曲がったあたりから美味しいものの匂いがする!」
 「鼻良すぎるだろお前!」

 そしてセシリアは赤い登りの店の前で自動車さながらの[キキーッ]というブレーキ音とともに急停止した。
 
 僕は勢いそのまま地面に転がった。

 
 こんなのが毎日続いたら命が何個あっても足りない……。


 「さあ! 入るわよ!」

 店先の看板には《中華料理処 九龍》の文字が。
 
 勢い良くセシリアが引き戸をガラガラと開ける。

 すると、にこやかな笑顔の青年が待ち構えていた。
  
「いらっしゃーせ!……うん? あ! 大将! 例のお客、うちに来ましたよ!」
 
 そう言って青年は店主らしき、寸胴のような体格の男性に話しかけた。

 「何だって! これでうちの評判も鰻登り……いや龍門登りだな! 丁重に接待してやれ!」
 「はい!」

 スタスタと青年は近づき僕らに話しかけた。

 「君たちだろう? この街を救ってくれた二人組ってのは?」
 「もっちろんよ!」
 「まあ……結果的にそうなりましたね……」
 「それじゃあ奥の方に。 付いてきて」

 僕らは導かれるままに店内を歩いた。
 
 店の中は薄暗く、その中に浮いているかのように真っ赤な提灯が天井から垂れ、うっとりとするほど華やかである。

 僕らは対面形式の端の席に案内され、ゆっくりと腰を下ろした。

 「それじゃあ、その辺にいるから何にするか決まったら呼んでね」
 「はい。ありがとうございます」

 見渡すと店内には昼前だと言うのに結構な人が居て、各々料理を美味しそうにつついていた。

 「さてと……何にしましょう?」
 「僕に聞いてるのそれ?」
 「だって中華料理って言ってもどんなのが有るのかわかんないもん……」
 
 こいつ己の嗅覚に全てを委ねたのかよ……。

 本当に予測不可能だな……。

 「じゃあひとまずメニュー見てみよ」
 「そうね!そうしましょ!」
 
 メニューをセシリアに見えるように手渡すと、

 「おにーさーん! これとこれとこれ! 二つずつ!」
 「もう決まったの!? それなら僕は炒飯で!」

すると青年はセシリアに聞き返す。
 
「え!? この量ほんとに食べるの……?」
 「うん! もちろん!」
 「……よし……中華料理屋 九龍の誇りにかけて作ってくるよ……!」

 
……何だって?

 
「おい……セシリア……今なら怒らないから何頼んだか喋ってご覧?」
 「えーっと……これとこれとこれ!」

 
セシリアが指差したのは……「青椒肉絲チンジャオロース」、「麻婆豆腐」、「超メガ盛り! 九龍の本気 テラ・ラーメン!」……。


 うん普通だな……最後のやつを除いて……。

 
 しばらくすると炒飯が一皿、麻婆豆腐と青椒肉絲が二皿ずつ、そして山という他ない冒涜的な何かが二つ運ばれてきた……。
 

 「……セシリア……このラーメン? みたいなの……明らかにお前の身長越してるよな?」
 「むぅ……! 私の方が大きいもん!」


 そうじゃない。
 僕が言いたいのは、明らかにこれはお前の容積を物理的に超えてるだろってことだよ……。


 「失礼しちゃうわね! いっただきまーす!」
 
 
セシリアがパチンという音を立てて割り箸をわった。
 

 さてと……僕も何か食べないとな……。
 
 僕がレンゲを片手に炒飯の皿を取り、「いただきます」と言い終えた瞬間、その山は片方消え失せていた……。


 「セシリア……この量を食べたの?」
 「早くしないと麺が伸びちゃうじゃないの」

 僕は一応のためもう一山を見て具材を見てみると、そこには甲殻類が丸ごと乗っていたり、メンマやチャーシューすら通常の三倍はあろうかという大きさをしていた……。


 「じゃあこっちも貰うね! 」


 セシリアが麺をズズズ……と音を立てて啜ると、みるみるうちに山は高さを失い、やがてそこにはどんぶりしか残っていなかった……。

 慌てて店員がやってくる。

 「すみません……大盛りチャレンジのやつ計り忘れてて……あの……テラ盛りラーメンどうされました?」
 「美味しかった!」
 

セシリアは満面の笑みでそう返した。


 「はぁ!? まだ十年間成功者一人もいないんですよ!? それを一人で二皿……素晴らしい……なんて素晴らしい食べっぷり!」

 疑わないんだ……。


 僕は目の前で繰り広げられる光景を見つつ炒飯を食べる……。


  大きめに切られたチャーシュー、微かではあるもののしっかりと主張しているニンニクとネギの香り……それらが混ざり合い、絡まり合う事で 初めて真価を発揮するパラパラに炒められたお米……。

 美味しい……口の中が蕩ける……。

 

 そんな僕を見て、セシリアが恥ずかしそうに喋り出した。

 
 「ねえ……イーヴォ……?」
 「どうしたの?」
 「もし構わないのなら……今食べてる炒飯分けてもらっていい?」

 
 ……え? でもまだ何かしらあったはず……。


 机を見るも、そこには料理など影も形もなかった……。

  「仕方ない……あげるよ」
  「あーん」
  「……へ?」


 セシリアは口を大きく開け、その中に炒飯を入れろと指差している……。


 まあいいや……。 付き合ってあげよう……。

 「はい、あーん」
 

 セシリアは勢いよくレンゲに噛みつき、炒飯を頬張った。
 
 とても幸せそうにほっぺたを押さえ、

 「美味しぃ!でもラーメンは啜れば全部一気に食べれるけど、お米とかのやつはちょっとずつ食べないとなんないからめんどくさいのよねぇ」
 
最後の一言で台無しだよ……。

 「もっとちょうだい!」
 「仕方ないなぁ……」

 
 僕ら(と言うより九割方セシリア)は食事をあっという間に終えた。

 「あの……お会計よろしいですか?」

 
すると店主らしき男、

 「お代? んなもん要らねぇよ……俺は嬢ちゃんの
食いっぷりに惚れちまったよ……」
 「やだもう! 照れるわよ……」


 満更でも無さそうにセシリアは答える。

  「いつか嬢ちゃんが[もう食べられない!]って言うような特盛料理、振舞ってやるよ! それまで首を洗って待ってろよ!」
 「望む所よ!」

 
そんなこんなで僕らはタダでご飯にありつけた……。

 
「さてと……図書館に行くよ!」
 「もちろんよ!」
 

 僕らは図書館に向かって歩き始めた。
 
 
するとセシリア、


 「……あ!」
 「どうしたの?」 
 「あのゴールデンスライム?だっけかの換金どうするの?」
 「あ! ……帰ってきてからにしよう!」
 「それもそうね」


 先が思いやられはするが……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...