いろはにほへとちりぬるを……

とうるくん

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六手目◇待った!

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「余とにとって生まれて始めて出来た同年代の友と言うのは、もちろん倫子ともこ、お前のことなのだ。
 だが倫子や、それはお前にとっても恐らく同じことなのだろう?
 お祖父吉宗様に連れられて浜御殿に通う回数が増えていくといつのまにやら、お前は色々と自分の事を喋ってくれるようになっていたなぁ。
 お互い色々なことを話したものだが、その中でも余が最も驚いたのは、お前の道中のことであったぞ。
 お前は確か、2月の寒空の中、京都をたち江戸に来るまでに約一ヶ月の旅路であったと言っていた。
 あの時、余は平静を装いつつお前の話を聞いておったが……
 当時の余は、江戸城から出たことなどほとんどなかったのだ。
 そして、余に外の話などを聞かせてくれるものは誰もいない。
 だから、お前の話してくれた旅での出来事と言うのが、余にとっては新鮮な話で仕方がなかったんだ。
 本当は、お前の話を聞けば聞くほど、訪ねたいと思うことと言うのが増えてきてなぁ。
 二人で駆けた浜御殿の外周と倫子が歩いてきた旅路はどちらが長いの?とか
 浜御殿の寒さと京都の寒さはどちらが寒いの?とか
 浜御殿の日暮れと京都の日暮れはどちらが綺麗なの?とかなぁ
 そんなことを考えていたんだよ。
 驚いただろう?
 当時は心の中では聞くことと訪ねること、どちらを優先していいのか日々葛藤しておった。
 結局は聞く方を優先してしまったのだが、その時はそれで良かったとも思っておったんだ。
 だがなぁ、そうは言っても時なんていうのは限られているものだからなぁ当然、満足できるほどの長い時などを共に刻むことなど出来はせん。
 それになぁ、お前の嬉しそうに話してくれる顔を見ると、余も同じ気持ちを味わえたのかなと思ってしまってなぁ、いつのまにやら夕暮れとお祖父様の影があり、時がいつも以上に飛んでしまったということも多くあったぞ。
 そんな時、余は恐らく顔に出ていたのであろうなぁ。
 そんな事を余が思う時、倫子お前はいつも余の手を取り、決まって『また会えますから』と言ってくれたよなぁ。
 それを聞きながら余はいつしかお前に会う時が自分の中で最良の時となっていたのだが、それは倫子、お前の中でも一緒だったかい?
 結局、その気持ちも聞けなかったなぁ。
 今となっては聞くことは出来ないが出来ることであれば、当時の余に対して今ここで『待った!』をかけてやりたい気持ちでいっぱいなのだ。
 恐らくお前のことだ、そんな余の言葉を聞いたら今ごろは黄泉の国にて腹を抱えて笑いそうになっているのを堪えていることであろうなぁ。
 生前、『待ったは行儀が悪いですよ』と余にあれほど言ってきたお前だけになぁ。
 そんなのは知っておるわ。
 だがな知っておるのだが……
 お願いだから……
 もう一度だけでいい……
 もう一度、余に言ってきてはくれんか……」

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