姉の物を奪いたい妹と、等価交換の法則に従って行動する姉

マーサ

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12.おまけ2(父親視点)

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感想欄でおまけの続きを多くご要望いただきましてありがとうございます。
非常に嬉しかったので、急ぎ書いてみました。
自分の中で完結したつもりの話しを続けるのは難しかったのですが、頑張ってみました。
どうかお楽しみいただけますよう。


==================================



「バルバラがハンナを連れ出して街に買い物に行っただと!?」
 侍女から報告が入る。
 
「ハンナは今日からイレーナと一緒に勉強を始めると言っといただろうが! 人をやって連れ戻せ!」
 指示をしたもののあの妻が使用人の言うことを聞くとは思えない。つい先日までの自分がそうだったからよく分かる。

 ハンナにアレコレ買い与えるつもりだろうがそうはいくか!!
 その企み、全力で潰しにいくぞ。

「ヨハン! ヨハンは居るか!?」
 先代の時から我が家に仕えている老執事を呼ぶ。

「急いで街の服飾店や宝飾店、レストランなど我が家と関係がある店に通達を出せ!

 本日よりヴィルタ伯爵家はツケ払いをとりやめ、その場での現金払いのみにするとな。伯爵家の名前でツケ払いを求められたら誰であっても断って構わんと急ぎ伝えよ」

「奥様やお嬢様方のドレスなどを買われる度に大きな額を持ち運ぶ事になりますがよろしいのですか?」

 そうか、大金を持ち運んでいる事が広まれば盗賊に馬車を襲われる可能性もある、という事か。
 その位の事は私だって思い浮かぶぞ。本当だぞ?

「大きな買い物の時は店の者を邸に呼び寄せればよかろう」
「かしこまりました、すぐに手配いたします」

「書面の目立つところにな、『いつもニコニコ現金払い! 安心のヴィルタ伯爵家!』と大きく書いておけよ?」

「は? はい、かしこまりました」

 少々怪訝な顔をされたがまぁ良い。長くダラダラした文章より短く簡潔な方が伝わりやすいからな。



◇◇◇◇◇◇



「旦那さま! 服飾店に向かわせた者からの報告です! すでに奥様とお嬢様はツケ払いで買い物を済ませられたとのこと!!」

「まぁ、服飾店は真っ先に向かうだろうと想定していた所だ、仕方ない。宝飾店には先回りできていると良いのだが……」

「旦那さま! 宝飾店でも既に買い物が済んでいた模様!!」

「くっ! 間に合わなかったか!!」

 考えろ……、考えるんだ! バルバラが次に向かう先はどこだ……?

「旦那さま! 御者のハンスがレストランで食事をしているお二人を発見したそうです! 街で面倒を見ている子供達を使って監視しているので指示がほしいとのこと!」

 なんか本筋と違うところで気になる報告だな……。
「ハンスの奴が面倒みてるとはどういう事だ? 自分の子供ではないんだろう?」

「御者は待機時間が長いですからね。その間に街の子供達と交流を持っているようです。身寄りのない子供達も多いようで、スリなどの犯罪に手を染めなくても自立できるように力になっているんだとか」

 そうか……、前世(?)の私はハンナの望むがままに高価なドレスや宝飾品を与えていたが、その宝石一つ分のお金でそういった子供達がどれほど救われるのか考えてもみなかったな……。
 前世(?)のイレーナは商会での報酬からそういう子供達への支援をしていたんだろうか?
「今まで稼いだお金をすべて家に入れなさい!」なんて、今にして思えば恥ずかしい。今世(?)では絶対に言わないように気をつけよう。

「話しに聞く限りでは、そのような子供達が集まり『少年探偵団』という組織を作って街の様々な問題を解決して住民達の役に立っているんだとか。ハンスが子供達のために組織したとか言ってましたよ」

 な!? ハンスとは一体何者なんだ!? 平民で単なる御者じゃないのか?
「それで旦那さま、ハンスへの指示はいかがしましょうか?」

「そうだな、そういえばバルバラ達の馬車の御者は誰が付いてるんだ? その者に接触し、2人が馬車に乗ったところでそのまま邸に戻るように伝えよ」


 
◇◇◇◇◇◇


 
「ちょっと! 何で邸に戻ってるのよ! まだ行きたい所があったのに!」

 えぇい、喧しいやつだ。耳が痛くなる。

「バルバラよ、今日からハンナの勉強を始める予定だったのだぞ。それを連れ出すとは……」

「ハンナに勉強はまだ早いです!」
「イレーナは5歳から始めて今立派になっているではないか」
「イレーナとハンナは違います。それぞれの子に合わせた育て方でいいんです!」

「それで前回失敗したではないか!!」

「え? 前回とは……?」

「あ、いや、スマン。私はそういう失敗事例を知っていると言いたかったのだ。とにかく、ハンナを連れ出した罰としてお前は今日の夕飯抜きだ!」

「なんですって!? なんでアナタにそんな事を決められないといけないのよ!!」

「ふん! お前だって散々イレーナの食事を抜い……、いや、なんでもない」
いかんいかん、興奮するとつい前世(?)の記憶をそのまま叫んでしまうな。 

「ハンナも今日は勉強の約束を破ったんだ、罰として今夜のおかずに人参グラッセを付ける! ちゃんと食べるように!」
 
「え~!? ニンジン嫌い~」
「ニンジンはな、甘くて栄養たっぷりでとても美味しいものなんだ。食べるといいことずくめだぞ!」
 半泣きのハンナの偏食を無くしてやりたくて話してきかせる。
 見れば小さな箱を大事に抱えている。宝石でも買ってもらったのだろう。まだ5歳なんだからキラキラ光ってればガラス玉でも十分だろうに。
 その金をハンスに渡してやりたいもんだ。

「ハンナ。今日は姉様と勉強をすると言っておいただろう? 出かける時に母様にそう言わないと」
「でも、ハンナ勉強やりたくない……」
「いいか、父様はな、勉強しなかった令嬢がどんな悲惨な目に遭うのかよ~く知ってるんだ。周りから白い目で見られて、婚約者どころか友達もできなくて、一人寂しく生きてくんだぞ」
「やぁ~! そんなのやだ!」

「さ、ハンナ、その箱を置いて姉様のところに行って一緒に勉強してきなさい」

「はぁ~い。でも、この箱はハンナの物だから渡せないよ!!」


これは……、悪い兆候が出てきているな。
悪の芽は早々に摘まねば……。



そのやり取りを見ていたバルバラが言ってくる。
「ちょっとアナタ、昨日から人が変わったみたいでおかしいわよ。頭でも打ったの?」

「そんなんじゃない。私はな、『真実の愛』に目覚めたんだよ!」

「はぁ!? 浮気ってこと!? その顔とそのお腹で!?」

「なんだ失礼だな。家族への愛、領民への愛、恵まれない子供達への愛という事だ。どうだ? 詩的だろう?」

「ちょ! 変な事を言うから私の美しい肌に鳥肌が立ったじゃないの!」

「私は気付いたんだ。世の中には身よりもなくスリなどの犯罪に手を染めてしまう子供も居るんだ。ハンナに買った宝石一つでどれだけの子供が救えるか……」
 完全にハンスの受け売りを自分の考えのように言うが許してほしい。

「そんなの平民に生まれた境遇が悪いのよ。ハンナは貴族に生まれたんだから、貴族らしい生活をするのは当たり前じゃない!」
「貴族に生まれただけで貴族になれる訳じゃない。それに相応しい教養と振る舞いをして初めて貴族と呼べるんだぞ。……それでパーティの場で醜態を晒して社交界から消えていった令嬢を知っているんだ」

「あなた、本当にダミアン? 別人みたいだけど……」
「もういい。お前も今夜は自室で自分の行いを振り返り、真実の愛について考えてみなさい」

ひとまず侍女に部屋まで送らせたが……、どうしたらバルバラにも気付いてもらえるだろうか……。
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