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50話:会いたくない面子と再会しました

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「ライラ、知ってました?」

大公が去った後、ライラにカードを渡して尋ねてみる。多分知っていたなら、ラニットに教えていたはずだけどね。

「……知らなかっタ。成る程、ふぅ~ん……」

「どうしたんです?」

「レイルの世話ヲ担当してた奴らっテ、ボクも含めて他の使用人とは別棟デ寝泊まりしてるのサ。変だなぁって思ってタラ、こーいうコト」

情報の制限をかけてたのかな……。じゃあ、ライラが知らなくても仕方ない。

「ライラ、魔界に戻ってラニットへ伝達できますか?」

ライラは僕にカードを返しながら肩を竦めてみせた。

「今はムリ。大公が目を光らせてるからネ」

そして耳に手を当てると、フムと独り言ちて頷いた。

「各国の要人達も明日まで立ち入らせないみたい。領地内の屋敷を充てがってるってサ」

盗聴?夢魔の力の一部かな?

「そうですかぁ……」

対策を立てる事ができないな……。その事も当然想定して、大公はこんなギリギリに僕に知らせたんだろう。
ポイッとカードをテーブルに放り投げると、僕は両腕をぐぐぐっと伸ばした。

「じゃ考えるだけ無駄ですね。当日十分に注意しましょう」

「………時々キミって魔族より大雑把に感じるヨ」

呆れたように笑うライラに、僕も笑い返した。

「仕方ないでしょう?だって僕、人間だから非力なんです。いざとなったらラニットを呼び出すから、いいんですよ」

「その、最終的に力業に持ち込むトコ、ホントにラニット様にそっくり……。キミ達似てきたんじゃナイ?」

「本当?だったら凄く嬉しいです」

思わず顔を見合わせてクスクス笑う。
確かに明日どうなるか気になるけど、心配はしてない。
窓の外に目を向けて、僕は魔界にいるラニットに思いを馳せた。


★☆★☆


「そうやって着飾ると、やはり貴方は見映えしますね」

翌日の昼過ぎに部屋を訪れた大公は、パーティー用の衣装を着た僕を見てそう言った。
準備された衣装はジャケットもパンツもシャツも黒で揃えられていて、僕の白い髪が凄く目立つ。スリムフィットのジャケットには艶のある黒の刺繍糸で、左の肩と袖口、右の二の腕部分に蔦の様なデザインが施されていた。

測ったかのようにピッタリな衣装は、肌触りもよくて高級素材をふんだんに使っているのが分かる。

「準備していただいて、ありがとうございます」

社交辞令として礼を告げると、大公はふと懐かしいものを見るかのように眦を細めた。

「その白い髪は、本当に美しい…………」

すっと手を伸ばして僕の髪を一房掬い取ると、愛しむ様に指で優しく撫でる。でも次の瞬間には苦しげに瞑目して顔を背け、髪から手を離し拳にするとギュッと力を籠めた。

「ーーーー大公?」

ソロリと名を呼ぶと、彼は苦く嗤って僕を見た。

「失礼した。懐かしくて、つい………な」

彼が懐かしむ白い髪の持ち主。三百年前に人間に殺されてしまった大公の大事な人の事だろう。
彼の大事な思い出を踏み荒らす様な真似をしたくなくて沈黙を守る。そんな僕を見て、大公は珍しく優しさの滲む笑みを浮かべた。

「そういう所は本当にラウムとよく似ている。審判を下す者に共通する性質なのだろうな……」

ポツリと呟くと彼は気持ちを切り替えたのか笑みを消し、エスコートするために恭しく手を差し出した。

「では新たな魔王よ。貴方を披露する場へと参るとしよう」

その手をじっと眺める。これからが勝負だ。気を抜かないようにしなきゃ……。
コクリと喉を鳴らし、意を決して大公の手に自分の手を重ねた。

「宜しくお願いします」

そう告げると、大公は何故か少しだけ淋しそうに目を細めたのだった。





「新魔王レイル・アルファス様、ご来臨です!」

高らかに告げる声と共に、パーティーフロアへと続く両開きの扉が開かれる。
眩しいくらいにキラキラと光に溢れるフロアに、一瞬目が眩んで立ち止まってしまう。何度か瞬いて目が慣れてくると、広いフロアを埋め尽くす沢山の貴人の姿が視界に飛び込んできた。

チラリと一瞥する。異国情緒溢れる衣装を身に纏うもの、パーティー用の華やかな衣装で身を飾る者と様々だ。
そんな彼らは祝いの言葉を口にしながら、探るように、もしくは推し量るように僕を見ている。

そんな中、一際強い視線を感じてそちらに目を向けると、そこには自国だったアステール王国の国王陛下とナットライム殿下、そしてその背後にひっそりと控えているユオ様の姿があった。
陛下は不安を押し殺すような顔で、殿下は僕を射殺しかねないくらい強い眼差しを向けてくる。

もう僕には関係のない人達との再会に、何の感情も抱く事なく平然としていると、殿下はギリギリと眦を吊り上げて更に睨む目に力を入れていた。ふと視界の端に映るユオ様の姿に違和感を感じる。

「ーーー?」

一体何が………と思い改めて見てみると、護衛騎士であるユオ様の右腕が無くなってしまっていた。
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