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sideウィリテ
3話
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「確か、このへん………」
ガサガサと茂みの葉を揺らしながらベネスを探す。少し薄暗い湿気地を好むベネスは、他の植物にすぐ紛れちゃうから探しにくいんだ。
『コッチ、コッチ……』
鈴を鳴らすような小さな声が、歌うように耳元で響く。僕は、同じ様に腰を屈めてベネスを探しているネオに視線を向けて、気付かれないようにひっそりと唇だけで呟いた。
ーーーーどこ?
『崖の近く』『崖の近くのユーリの木の根本』『ユーリは昨日、たくさんお花付けた』『可愛いって言ってあげて?』『キレイって言ってあげて?』『そうしたら、ユーリ、明日も喜んでベネス守ってくれるよ』
僕の言葉が聞こえたのか、彼らはキャラキャラと嬉しそうに口々に囀った。流石にあまり人の手が入らない森なだけあって緑の精霊が多い。僕はほんのり口元に笑み浮かべた。
ーーーーありがとう。
『いいの』『いいの』『ウィリテだもの』『可愛い私達のウィーだもの』『でも、また来てね?』『顔を見せてね?』『私達の可愛い子』
暖かな愛情を感じて擽ったくなる。僕は腰を伸ばす振りをして離れていく彼らを見送った。そしてクルリと辺りを見渡して、ユーリの花を探す。
ユーリの花はとても小さいけど、鮮やかな赤色で密集して咲くから見付けやすいんだ。そして目の端に赤色が見えて、僕は迷うことなく足を向けた。
「あれ、ウィリテ?何、見付けたの??」
「多分?」
まさか精霊に教えて貰ったなんて言えないから、その辺を探す振りをしながらユーリの木に近付く。
「……あ、有った。…………………っっ!!?」
ユーリの木を掻き分けてベネスの葉を見付けた僕は、ネオに知らせようと頭を上げて……。視界に飛び込んできたモノに思わず息を飲んだ。
そこには一人の男性が倒れていたんだ。
高そうな服に身を包み、肩から胸にかけてザックリと怪我をして血を流している。
「ネ………ネオ!ネオっ!こっちに来て、早く!!」
「どうした、ウィリテ?」
僕の切羽詰まった声にびっくりした顔になったネオは、それでも素早くこっちに向かってくれた。僕は慌てて彼に近付くと上着とシャツをはだけて怪我の具合を見る。
熟れて弾けた果物のように傷口はグチャグチャで、悲惨な様相を呈していた。
「…………っ!」
「ウィリテ、一体なにが………、っ!!」
僕が素早くバッグからハンカチを取り出し傷の周りを拭き始めるのと、ネオが側に来たのが同時だった。
「ネオ、この人、大怪我してる!誰が人を呼んできて!」
「なに?血、止まんないの?先に止血の薬草を……」
「無理!傷がグチャグチャだから、先に洗浄しないと!それに多分……」
僕は上に目を向けた。そこには切り立った崖があって、その途中にヒラヒラと何かが引っ掛かって揺れている。恐らくこの人は滑落したんだと思うんだ。もし頭を打っていたら大変だもの。
「あちこち打撲してるっぽいし、先に応援呼んだほうがいいよ」
釣られて上を見上げたネオは顔を顰めて頷いた。
「服の切れ端が引っ掛かってんな。確かに先に人を呼んだほうが良さそうだ。ウィリテ、ここ任せた!」
そう言い置くと、ネオは街に向けて一気に走り始めた。山羊の獣人のネオは木々や崖をものともせずに走れるから、僕が街に向かうより断然速いはず。
それを見送って、僕は自分のバッグから筒を取り出した。キュポンと音を立てて栓を抜く。そしてガーゼで傷を拭いながら、先程よりもさらに服を開けさせて、肩を顕にした。
本当は袖を脱いだほうが良いんだろうけど、この傷じゃ………。
僕はひっそりと眉を顰めつつ、筒に詰めていた聖水で傷を洗い始めた。
こういう森での採取は何が起きるか分からないからね。万が一を考えて、いつも聖水を持ち歩いてたんだけど、今日はそれが役に立った。
聖水は、少しだけど治癒力があるんだ。あと魔獣に襲われて怪我した時にも、浄化で役に立つ。
そんな聖水をじゃぶじゃぶぶっかけて、傷に入り込んだ小石だとか土だとかを洗い流した。
あらかたキレイになったのを確認して、まっさらなガーゼを引っ張り出して、今度は圧迫して止血を試みる。
その時になってやっと僕は男性をまじまじと見ることができた。
高そうな服を身に着けていた事もだけど、目を閉じていても凄く顔が整っているし、この人絶対貴族だ。
ーーーーでも、何でお貴族様がこんな場所に………。
僕は止血を続けながら、崖を見上げた。
この崖はとても険しくて、生半可な奴では上には行けない。見るところ、この男性は獣人の特徴が何もないから人族だと思うんだけど。
なのに何故、そんなに無理をして登ろうとしたんだろう?
この崖の上には、たった一本の樹が植わっているだけなのに。
その樹は、僕が襲撃を受けた里から逃げる時に拾った枝だった。誰かが逃げる時に伸びた枝を引っ掛けたみたい。
折れ口は荒かったけど、まだ青々と茂る葉を付けていて『もしかしたら……』と思って拾っておいたんだ。
この国に流れ着いた後。
この、人が絶対に登れない崖を見つけて、精霊に指し技をしてもらった。
『森の民』の墓石代わりに…………。
そして、いつか僕の願いを叶えてもらうために………。
僕にとっては大事な樹、でも他の人にとっては唯の樹だ。
「………ダメだよ、危ない事しちゃ……」
ーーーー命はたった一つしかないんだから………。
ポツリと呟く。………と、その時、
「…………ぅ、」
男性が小さく呻き声を洩らした。はっとなって、僕は慌てて彼の顔を覗き込む。
「あ、あの!大丈夫、ですか?」
声に誘われたのか、その男性は顔を顰めながら薄っすらと瞼を開けた。やっぱり頭を打っているのか、視線は定まっていない。
「吐き気とか、ない………………。ぇ?」
状態を確認しようと身を乗り出した僕に、彼は動く方の手を差し伸べてきたんだ。
「………み、は、」
「……え?なに?」
「きみ、は、だ……れ?」
苦しそうに顔を歪めているのに、何故かその瞳には隠しきれない歓喜の色が見て取れた。
何で、そんなに嬉しそうなの?
「……っ!僕の事より、貴方だ。怪我をしてる。もうすぐ助けが来るから頑張って!」
「きみ、は………」
「?」
「わ、たしの………」
ゆるりと彼の指が力なく僕の頬を撫でて……。そして再び意識をなくしてしまったのか、その腕はドサリと草の上に落ちてしまった。
優しく愛おしさを込めたかの様な、その撫でる手つきと感触が頬に残る。
僕はその様子を呆然としながら見ているしかなくて。そしてハッと我に返って初めて、彼の瞳がとても珍しい虹色をしていた事に気付いたのだった。
ガサガサと茂みの葉を揺らしながらベネスを探す。少し薄暗い湿気地を好むベネスは、他の植物にすぐ紛れちゃうから探しにくいんだ。
『コッチ、コッチ……』
鈴を鳴らすような小さな声が、歌うように耳元で響く。僕は、同じ様に腰を屈めてベネスを探しているネオに視線を向けて、気付かれないようにひっそりと唇だけで呟いた。
ーーーーどこ?
『崖の近く』『崖の近くのユーリの木の根本』『ユーリは昨日、たくさんお花付けた』『可愛いって言ってあげて?』『キレイって言ってあげて?』『そうしたら、ユーリ、明日も喜んでベネス守ってくれるよ』
僕の言葉が聞こえたのか、彼らはキャラキャラと嬉しそうに口々に囀った。流石にあまり人の手が入らない森なだけあって緑の精霊が多い。僕はほんのり口元に笑み浮かべた。
ーーーーありがとう。
『いいの』『いいの』『ウィリテだもの』『可愛い私達のウィーだもの』『でも、また来てね?』『顔を見せてね?』『私達の可愛い子』
暖かな愛情を感じて擽ったくなる。僕は腰を伸ばす振りをして離れていく彼らを見送った。そしてクルリと辺りを見渡して、ユーリの花を探す。
ユーリの花はとても小さいけど、鮮やかな赤色で密集して咲くから見付けやすいんだ。そして目の端に赤色が見えて、僕は迷うことなく足を向けた。
「あれ、ウィリテ?何、見付けたの??」
「多分?」
まさか精霊に教えて貰ったなんて言えないから、その辺を探す振りをしながらユーリの木に近付く。
「……あ、有った。…………………っっ!!?」
ユーリの木を掻き分けてベネスの葉を見付けた僕は、ネオに知らせようと頭を上げて……。視界に飛び込んできたモノに思わず息を飲んだ。
そこには一人の男性が倒れていたんだ。
高そうな服に身を包み、肩から胸にかけてザックリと怪我をして血を流している。
「ネ………ネオ!ネオっ!こっちに来て、早く!!」
「どうした、ウィリテ?」
僕の切羽詰まった声にびっくりした顔になったネオは、それでも素早くこっちに向かってくれた。僕は慌てて彼に近付くと上着とシャツをはだけて怪我の具合を見る。
熟れて弾けた果物のように傷口はグチャグチャで、悲惨な様相を呈していた。
「…………っ!」
「ウィリテ、一体なにが………、っ!!」
僕が素早くバッグからハンカチを取り出し傷の周りを拭き始めるのと、ネオが側に来たのが同時だった。
「ネオ、この人、大怪我してる!誰が人を呼んできて!」
「なに?血、止まんないの?先に止血の薬草を……」
「無理!傷がグチャグチャだから、先に洗浄しないと!それに多分……」
僕は上に目を向けた。そこには切り立った崖があって、その途中にヒラヒラと何かが引っ掛かって揺れている。恐らくこの人は滑落したんだと思うんだ。もし頭を打っていたら大変だもの。
「あちこち打撲してるっぽいし、先に応援呼んだほうがいいよ」
釣られて上を見上げたネオは顔を顰めて頷いた。
「服の切れ端が引っ掛かってんな。確かに先に人を呼んだほうが良さそうだ。ウィリテ、ここ任せた!」
そう言い置くと、ネオは街に向けて一気に走り始めた。山羊の獣人のネオは木々や崖をものともせずに走れるから、僕が街に向かうより断然速いはず。
それを見送って、僕は自分のバッグから筒を取り出した。キュポンと音を立てて栓を抜く。そしてガーゼで傷を拭いながら、先程よりもさらに服を開けさせて、肩を顕にした。
本当は袖を脱いだほうが良いんだろうけど、この傷じゃ………。
僕はひっそりと眉を顰めつつ、筒に詰めていた聖水で傷を洗い始めた。
こういう森での採取は何が起きるか分からないからね。万が一を考えて、いつも聖水を持ち歩いてたんだけど、今日はそれが役に立った。
聖水は、少しだけど治癒力があるんだ。あと魔獣に襲われて怪我した時にも、浄化で役に立つ。
そんな聖水をじゃぶじゃぶぶっかけて、傷に入り込んだ小石だとか土だとかを洗い流した。
あらかたキレイになったのを確認して、まっさらなガーゼを引っ張り出して、今度は圧迫して止血を試みる。
その時になってやっと僕は男性をまじまじと見ることができた。
高そうな服を身に着けていた事もだけど、目を閉じていても凄く顔が整っているし、この人絶対貴族だ。
ーーーーでも、何でお貴族様がこんな場所に………。
僕は止血を続けながら、崖を見上げた。
この崖はとても険しくて、生半可な奴では上には行けない。見るところ、この男性は獣人の特徴が何もないから人族だと思うんだけど。
なのに何故、そんなに無理をして登ろうとしたんだろう?
この崖の上には、たった一本の樹が植わっているだけなのに。
その樹は、僕が襲撃を受けた里から逃げる時に拾った枝だった。誰かが逃げる時に伸びた枝を引っ掛けたみたい。
折れ口は荒かったけど、まだ青々と茂る葉を付けていて『もしかしたら……』と思って拾っておいたんだ。
この国に流れ着いた後。
この、人が絶対に登れない崖を見つけて、精霊に指し技をしてもらった。
『森の民』の墓石代わりに…………。
そして、いつか僕の願いを叶えてもらうために………。
僕にとっては大事な樹、でも他の人にとっては唯の樹だ。
「………ダメだよ、危ない事しちゃ……」
ーーーー命はたった一つしかないんだから………。
ポツリと呟く。………と、その時、
「…………ぅ、」
男性が小さく呻き声を洩らした。はっとなって、僕は慌てて彼の顔を覗き込む。
「あ、あの!大丈夫、ですか?」
声に誘われたのか、その男性は顔を顰めながら薄っすらと瞼を開けた。やっぱり頭を打っているのか、視線は定まっていない。
「吐き気とか、ない………………。ぇ?」
状態を確認しようと身を乗り出した僕に、彼は動く方の手を差し伸べてきたんだ。
「………み、は、」
「……え?なに?」
「きみ、は、だ……れ?」
苦しそうに顔を歪めているのに、何故かその瞳には隠しきれない歓喜の色が見て取れた。
何で、そんなに嬉しそうなの?
「……っ!僕の事より、貴方だ。怪我をしてる。もうすぐ助けが来るから頑張って!」
「きみ、は………」
「?」
「わ、たしの………」
ゆるりと彼の指が力なく僕の頬を撫でて……。そして再び意識をなくしてしまったのか、その腕はドサリと草の上に落ちてしまった。
優しく愛おしさを込めたかの様な、その撫でる手つきと感触が頬に残る。
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