お一人様希望なので、その番認定は困ります〜愛されるのが怖い僕と、番が欲しい宰相閣下の話~

飛鷹

文字の大きさ
3 / 29
sideウィリテ

3話

しおりを挟む
「確か、このへん………」

ガサガサと茂みの葉を揺らしながらベネスを探す。少し薄暗い湿気地を好むベネスは、他の植物にすぐ紛れちゃうから探しにくいんだ。

『コッチ、コッチ……』

鈴を鳴らすような小さな声が、歌うように耳元で響く。僕は、同じ様に腰を屈めてベネスを探しているネオに視線を向けて、気付かれないようにひっそりと唇だけで呟いた。

ーーーーどこ?

『崖の近く』『崖の近くのユーリの木の根本』『ユーリは昨日、たくさんお花付けた』『可愛いって言ってあげて?』『キレイって言ってあげて?』『そうしたら、ユーリ、明日も喜んでベネス守ってくれるよ』

僕の言葉が聞こえたのか、彼ら・・はキャラキャラと嬉しそうに口々にさえずった。流石にあまり人の手が入らない森なだけあって緑の精霊が多い。僕はほんのり口元に笑み浮かべた。

ーーーーありがとう。

『いいの』『いいの』『ウィリテだもの』『可愛い私達のウィーだもの』『でも、また来てね?』『顔を見せてね?』『私達の可愛い子』

暖かな愛情を感じて擽ったくなる。僕は腰を伸ばす振りをして離れていく彼らを見送った。そしてクルリと辺りを見渡して、ユーリの花を探す。

ユーリの花はとても小さいけど、鮮やかな赤色で密集して咲くから見付けやすいんだ。そして目の端に赤色が見えて、僕は迷うことなく足を向けた。

「あれ、ウィリテ?何、見付けたの??」

「多分?」

まさか精霊に教えて貰ったなんて言えないから、その辺を探す振りをしながらユーリの木に近付く。

「……あ、有った。…………………っっ!!?」

ユーリの木を掻き分けてベネスの葉を見付けた僕は、ネオに知らせようと頭を上げて……。視界に飛び込んできたモノに思わず息を飲んだ。

そこには一人の男性が倒れていたんだ。
高そうな服に身を包み、肩から胸にかけてザックリと怪我をして血を流している。

「ネ………ネオ!ネオっ!こっちに来て、早く!!」

「どうした、ウィリテ?」

僕の切羽詰まった声にびっくりした顔になったネオは、それでも素早くこっちに向かってくれた。僕は慌てて彼に近付くと上着とシャツをはだけて怪我の具合を見る。
熟れて弾けた果物のように傷口はグチャグチャで、悲惨な様相を呈していた。

「…………っ!」

「ウィリテ、一体なにが………、っ!!」

僕が素早くバッグからハンカチを取り出し傷の周りを拭き始めるのと、ネオが側に来たのが同時だった。

「ネオ、この人、大怪我してる!誰が人を呼んできて!」

「なに?血、止まんないの?先に止血の薬草を……」

「無理!傷がグチャグチャだから、先に洗浄しないと!それに多分……」

僕は上に目を向けた。そこには切り立った崖があって、その途中にヒラヒラと何かが引っ掛かって揺れている。恐らくこの人は滑落したんだと思うんだ。もし頭を打っていたら大変だもの。

「あちこち打撲してるっぽいし、先に応援呼んだほうがいいよ」

釣られて上を見上げたネオは顔を顰めて頷いた。

「服の切れ端が引っ掛かってんな。確かに先に人を呼んだほうが良さそうだ。ウィリテ、ここ任せた!」

そう言い置くと、ネオは街に向けて一気に走り始めた。山羊の獣人のネオは木々や崖をものともせずに走れるから、僕が街に向かうより断然速いはず。

それを見送って、僕は自分のバッグから筒を取り出した。キュポンと音を立てて栓を抜く。そしてガーゼで傷を拭いながら、先程よりもさらに服を開けさせて、肩を顕にした。

本当は袖を脱いだほうが良いんだろうけど、この傷じゃ………。

僕はひっそりと眉を顰めつつ、筒に詰めていた聖水で傷を洗い始めた。
こういう森での採取は何が起きるか分からないからね。万が一を考えて、いつも聖水を持ち歩いてたんだけど、今日はそれが役に立った。

聖水は、少しだけど治癒力があるんだ。あと魔獣に襲われて怪我した時にも、浄化で役に立つ。
そんな聖水をじゃぶじゃぶぶっかけて、傷に入り込んだ小石だとか土だとかを洗い流した。

あらかたキレイになったのを確認して、まっさらなガーゼを引っ張り出して、今度は圧迫して止血を試みる。

その時になってやっと僕は男性をまじまじと見ることができた。
高そうな服を身に着けていた事もだけど、目を閉じていても凄く顔が整っているし、この人絶対貴族だ。

ーーーーでも、何でお貴族様がこんな場所に………。

僕は止血を続けながら、崖を見上げた。
この崖はとても険しくて、生半可な奴では上には行けない。見るところ、この男性は獣人の特徴が何もないから人族だと思うんだけど。
なのに何故、そんなに無理をして登ろうとしたんだろう?

この崖の上には、たった一本の樹が植わっているだけなのに。
その樹は、僕が襲撃を受けた里から逃げる時に拾った枝だった。誰かが逃げる時に伸びた枝を引っ掛けたみたい。
折れ口は荒かったけど、まだ青々と茂る葉を付けていて『もしかしたら……』と思って拾っておいたんだ。

この国に流れ着いた後。
この、人が絶対に登れない崖を見つけて、精霊に指し技をしてもらった。

『森の民』の墓石代わりに…………。
そして、いつか僕の願いを叶えてもらうために………。

僕にとっては大事な樹、でも他の人にとっては唯の樹だ。

「………ダメだよ、危ない事しちゃ……」

ーーーー命はたった一つしかないんだから………。

ポツリと呟く。………と、その時、

「…………ぅ、」

男性が小さく呻き声を洩らした。はっとなって、僕は慌てて彼の顔を覗き込む。

「あ、あの!大丈夫、ですか?」

声に誘われたのか、その男性は顔を顰めながら薄っすらと瞼を開けた。やっぱり頭を打っているのか、視線は定まっていない。

「吐き気とか、ない………………。ぇ?」

状態を確認しようと身を乗り出した僕に、彼は動く方の手を差し伸べてきたんだ。

「………み、は、」

「……え?なに?」

「きみ、は、だ……れ?」

苦しそうに顔を歪めているのに、何故かその瞳には隠しきれない歓喜の色が見て取れた。

何で、そんなに嬉しそうなの?

「……っ!僕の事より、貴方だ。怪我をしてる。もうすぐ助けが来るから頑張って!」

「きみ、は………」

「?」

「わ、たしの………」

ゆるりと彼の指が力なく僕の頬を撫でて……。そして再び意識をなくしてしまったのか、その腕はドサリと草の上に落ちてしまった。
優しく愛おしさを込めたかの様な、その撫でる手つきと感触が頬に残る。

僕はその様子を呆然としながら見ているしかなくて。そしてハッと我に返って初めて、彼の瞳がとても珍しい虹色をしていた事に気付いたのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです

飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。 獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。 しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。 傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。 蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角@書籍化進行中!
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

処理中です...