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俺、平民ですけど?
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「ふ……ん…、ぁ………」
何だ……?
気持ちいい………。
瞼を閉じたまま、何処とも知れない場所で、ゆるゆると揺れる。
『気持ちいい』波が背筋を揺蕩いながら這い上って、俺の感覚の全てを支配していく。
「……ん、んぅ………」
何だろ、コレ。気持ちいいし、暖かい。
一際甘く腰が痺れたかと思ったら。腹の奥に熱い飛沫を感じて、息が止まる。
ギュッと快楽が小さく小さく圧縮されたあと、一気にそれが弾けて全身……それこそ髪の先から足の爪まで快楽で満たされていく感じ……。
もうハクハクと意味を成さない自分の呼吸の動き1つすらも、感じてしまって仕方ない。
「ぁ……んッ、っ………」
ああ、そうだ。コレは夢だ。
俺は指一本動かせない状況で、只管気持ち良くて、ただ只管喘ぐだけ。
―――――そんな夢を、俺はもう1か月近く見続けていたんだった。
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「……………ん―――――――………」
大きく身体を伸ばして、そして起き上がる。
今、目覚めたばかりなのに、疲れが取れていないような重怠さが身体に纏わり付く。
最近、寝ても寝てもキツくて仕方ない。
病気かな………。
何か夢を見てた気もするけど、覚えてないんだよなぁ。
今日も良いお天気らしくて、窓から差し込む光は眩しいくらい。そんな朝日を浴びつつ大きく欠伸をして、仕事に行く準備をするべくベッドから降り立った。
このベッドと簡易キッチン、シャワーとトイレがついているだけの、小さな木造の部屋が俺のテリトリー。
この場所で暮らし始めて2ヶ月が過ぎた。
施設育ちで、自分の持ち物なんて何一つ持ってなかったから、この小さ過ぎる職場の寮でも愛しくてたまらない。
「さて、シャワーでも浴びるか」
仕事に行く前に身支度を整える。
さっとシャワーを浴びて、鏡の前で少し血色の悪い自分の顔を眺めた。
正直、俺の顔はかなり良い。
淡い長めの金髪に、少し緑が入った青い瞳。所謂セルリアンブルーと表現される瞳は特徴的で、整った容姿と相まって人目を引いた。
まぁ、両親が腐っても貴族だったから、顔が良いのは当然かもな。
平民が、こんな貴族的な顔を持つと厄介事しか招かない。今までに何度性的悪戯目的に路地裏に引っ張り込まれそうになった事か………。貞操の危機を招く顔なんて、マジでいらんのだけど。
俺の両親は揃って貴族だった。お互いに婚約者が有りながら、『運命の恋人なんだ』と言い張りデキ婚。
母だった女の元婚約者が高位貴族だったこともあり、父も母も責任を取らされ貴族籍から抹消された。
結果、生まれた俺は当然平民。
貴族も何だかんだ色んな責務がありそうだし、俺は平民で良かったと思ってる。
ただ生まれついての貴族だった両親は平民生活に馴染めくて、『あれは勘違いだった』とあっさり離婚。
互いの実家に泣き付くも相手にされず、今はどっかの教会だか修道院だかに身を寄せているらしい。
――――――随分軽い運命だよな。
はん、と鼻で嗤う。
俺はあの二人が離婚した後、施設に入った。両親の製造元は案外マトモな人達だったらしく、行き場が無くなった俺を引き取ろうとしたらしい。
でも、貴族籍を持たない事と、迷惑をかけた元婚約者の手前どうにもならず。
妥協案として、貴族の婚外子やら大商会の頭取の妾の子やらを集めた施設に入る事になった。
望まれてない子供の為の施設だから、待遇は最悪だったけど、それでも学校が併設されてて学べる環境があったことはマジで有り難かった。
やっぱ学がないと、仕事に有り付けないし。
そんな事をつらつら考えながら髪を軽く整え、歯磨きをして…………。
「行ってきます」
愛しい部屋に挨拶をして、職場に向かった。
ここライティグス王国は獅子の獣人を国王に掲げる、獣族の国だ。
獣族の国だけど普通に人族もいる。蛇足だけど貴族も3割くらいが人族だ。
そしてこの時期は恋の季節らしくて、あちこちで獣人達の求愛行動を見かけるが、俺は人族だから全く関係がない話。
種族によって違う求愛行動を横目に見ながら、目的地である職場を目指す。
「おはようございます」
魔法陣で施錠されていた扉を潜る。
王宮の片隅にあるこの部署が俺の職場。
そう、有ろうことか文官として働いてんだよね、俺。
ま、平民だから仕事内容は簡単なものだけどさ。
この仕事に就けたのも、俺の親の製造元のお陰っぽいから、一応感謝しておく。
「あら、レイちゃん、おはよー!今日も可愛いわねぇ」
扉の音に振り返ったルーデルが微笑んでくれた。
オネェ言葉が似合う猫獣人のルーデルは、見た目ほっそりとした美人さんだから、めっちゃ目の保養だ。
「ルーデル先輩、今日も美人さんですね」
「あらぁ、ありがとう」
ふふっと微笑み合っていると、ガンテ室長からの叱責が飛ぶ。
「遊んでないで、働け」
野太い声の主ガンテ室長は、声から容易に想像できる筋肉隆々のマッチョだ。
何でこの人、文官なんだろね?
武官と言われたほうがしっくりくる室長から、今日担当する仕事を受け取り机に向かう。
この部署は代筆作業を担っている。
舞踏会ほど大量ではない招待状とか、機密レベルⅢまでの会議用資料とか、そんな物を黙々と書き上げる地味な部署。
一応機密情報があるから入口の扉は魔法陣で施錠されてて、出入りする人を管理している。
こんな部署に、よく俺みたいな新人放り込んだよな……と、未だに思う。
でも黙々と机に向かって作業するのは好きだから、この仕事は本当に天職だと思ってる。
つらつらと、どうでもいい事を考えながら、仕事に取り掛かった。
「――――お、もうこんな時間か………」
ガンテ室長は耳元に触れながら壁時計に視線を向けた。
時々耳を触っている所を見ると、通信系の魔導具を付けてるのかもしれない。
「よし、昼休みだ。ちゃんと食堂でメシ喰えよ、レイ」
「分かってますって……」
俺は片手を上げて返事をすると、そそくさとその場を後にした。
疲れが抜けなくて、この間昼休みにご飯も食べずに中庭で昼寝をしてたら、ガンテ室長が血相変えて俺を探してたっていう事があり………。
大人しく食堂に向かう事にした。
今はメシより寝ていたいんだけどなぁ……。
ふわわっと欠伸を漏らして食堂のカウンターに並んだ。
胃の調子もあんまり良くないし、軽めの物を食べようとメニューに目を向ける。
あ、ワンプレートランチにキッシュが付いてる!
カボチャのキッシュが大好物の俺は迷わずそれを注文して、ついでに野菜のスープも選択する。
受け渡しカウンターで料理を受け取ると、人でごった返す食堂を見渡した。
どっか空いてる席ないかな……。
キョロキョロと辺りを見渡していると、涼やかな声が俺の名前を呼んだ。
「レイ、こっち」
目を向けると、見目麗しい一人の男性が片手を上げていた。
手入れされた花々が彩る中庭が目を楽しませる、窓際の特等席。
だと言うのに、今はその男性しか座っていない事を不思議に思いつつ、隣の席に腰を下ろした。
「マイナさん、今日もありがとうございます」
「ふふ、いいんですよ。それに今日もちゃんと食事に来て偉いですね」
甘やかに目を細めて褒めてくるけど、食事に来ただけで褒められるって、どんだけ俺の生活レベル低く評価されてんだろ。
ちぇ……とムクレながらキッシュをフォークで突く。
マイナとは、入職して1ヶ月目に出会った。
あの時も食堂の席を探してて、たまたま同席になったのがマイナだったのだ。
多分年の頃は30歳くらい?栗毛の柔らかな髪に虹色の変わった色彩の瞳を持つ人。制服から文官だと分かるけど、その割には腕やら胸やらにしっかり厚みがあって、鍛えてんだろうなって分かる。
容姿端麗な見た目も相まって、マイナがいる時の食堂は見物客でごった返してる状態だ。
マイナはそんなギャラリーに慣れているのか、華麗にスルーしている。というか、寧ろ何ていうか………俺しか視界に入れていない気が、若干………いやかなり、そんな気がするんだけど……。自惚れ、かな?
メチャクチャ格好良いマイナに微笑まれると、本当に落ち着かないし、顔が赤くなるしで困ってしまう。
何でこの人、こんな下っ端の俺なんかに親切にするんだろ?
優しく見守られて食べるメシは、気不味くて正直あんまり味がしない。
くそう……折角の好物のキッシュなのに。
モグモグ食べ進めていると、チラリと俺の皿をみたマイナが溜め息をついた。
「ああ………、今日も食べる量が少なすぎます。そのうち倒れますよ?」
「分かってるけど……、あんまり食欲ない」
少しもたれ気味な胃をさすさす擦りながら、呟いてしまって、直ぐにはっとなって謝罪した。
「あ、俺………。すみません……」
年上の人だし、ちゃんと敬語で話さなきゃと思うけど、つい気を抜くと普段の口調になってしまうんだ。
「良いんですよ。貴方はまだ17歳でしょう。そんなに畏まらないで自由に話してください」
「や、でも……」
「―――その方が、私も嬉しい」
そっと耳元に顔を近付けて、秘密を話すように囁く。かかるか息が擽ったくて、俺は耳を押さえて仰け反った。
「ふふ……」
そんな俺を見て、マイナは口元に人差し指を当てて微笑んだ。
もー何なんだ!その無駄な色気、こっちに向けんのやめてくれ………。
無駄にドキドキする胸を押さえる。
そしてマイナは自分の皿に視線を落として、キレイに盛り付けてあった肉を切り分け、俺の口元に運んだ。
「はい、あーん」
「………………ぇええええ………?」
「これお肉ですけど、凄く柔らかく煮込んであるから食べやすいですよ」
突然の行動に固まった俺に、マイナは「胃への負担は少ないと思いますよ」とにっこり笑う。
だけど、違うよ、そうじゃない!
公衆の面前で、何の羞恥プレイですか………っ。
予想外のマイナの行動に、顔が引き攣る。と、同時に周りの人々も信じられないとざわめき始めた。
その声に、俺はびくんと肩を揺らして後ろに目を向ける。
な……何だ、今の?
マイナが、その見た目に反してお茶目な行動に出た事に驚いた、って反応じゃないよな?
割と近くの席に座っていた人と目が合ったけど、彼はサッと青褪めて視線を反らした。
「ねぇマイナさん、今の………」
不安になって隣を見ると、彼はアルカイックスマイルを浮かべていた。
「ほら、ちゃんと食べないと。あーん」
もう一度促されて、俺は渋々口を開けた。そうしないと、何かヤバい事になりそうな、そんな予感がしたんだ。
ゆっくり俺のペースを見ながら肉を放り込まれて、気付けばマイナのお皿の中身は無くなってしまっていた。
「マイナさんの分、なくなったよ?」
「私は良いんですよ。また後で食べる事もできますし。それよりお腹いっぱいになりました?」
「あ、うん。美味しかった」
「それは良かった」
ふふっとキレイに微笑む。その後もゆっくり食後の紅茶を飲みながら、「仕事には慣れたか」とか「困ってる事はないか」なんて心配されつつ雑談をしていた。
が。予定外にお腹がいっぱいになった俺は、最近の疲れもあり、つい眠気に襲われウトウトと眠り始めてしまっていた。
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「ぁ………ん、ん……」
小さく身じろぐ。俺のモノを長い指がゆるゆると嬲り、快感を引き出そうとしている。
「ゃ……ぁ………、あぁ」
またあの『夢』だ。目が開かないから、誰にナニをされているのか分からない。
クチリ、と濡れた音と共に胸を吸い上げられた。じぃぃん…とした感覚の中に甘い快楽の波を感じ、俺は唇を噛んで必死にその感覚を意識しないように頑張った。
でも夢の中のヤツはそれが気に入らなかったのか、ペロリと唇を何往復か舐めた後、かぷりと噛み付く。
そしてぐりぐりと舌先で唇を刺激して、俺の唇を無理やり開くと傍若無人に口腔内に侵入して蹂躙し始めた。
「は、ぁんん…、ん―――っ……」
相手がやっと離れる頃には、俺は快感でグズグズに溶かされてしまっていた。クタリと力が抜ける。
そんな俺の身体を撫で回しながら、下へ下へと掌が降りていき……。
やがて後穴に辿り着き、周りを優しく愛撫し始めた。時々掠めるように後穴に触れるから、もどかしくなってしまう。
「ふ……あ、ん、ぁぁああ、や、」
今まで幾度となく夢の中で犯された身体は、与えられる快感を知っている。
耐えきれなくなって、腰を揺らしてしまった。
「ん、ぁ、あ……も、う…、ほし……い」
くちっと婬靡な音とがして、雄芯の先端が押し付けられた。浅ましくも喉を鳴らして、次にくる衝撃を期待する。
「――――っは………、可愛い……レイ……っ」
不意に聞こえてきた男の声に、俺はびくんと戦慄いた。
―――――え………?この声……マイナさ……ん?
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「―――――。レイ………、レイ………?」
はっと目を開くと、心配そうな顔のマイナさんが俺を見ていた。どくん、と心臓が大きく脈打つ。
今、俺、寝てた?
夢を見た気がするんだけど………?
――――何でだろう、マイナさんの顔が見れない………。
ふるりと寒気が身体を襲う。起きた時の身体の重さ、怠さ。そしていつも覚えていない『夢』……。
「大丈夫ですか、レイ。こんなに震えて」
「……あ………」
「気分が悪い?医務室に行きましょう」
トンと肩に手を置かれて、俺はマイナさんに目を向けた。彼は心配している気配を醸し出しながらも、その瞳は獲物を捕獲した肉食獣の様に妖しい光を宿していた。
その虹色の瞳の奥の獰猛な光に言いようのない恐怖を感じ、俺は一気に彼が怖くなった。
「や……、い……かない。大丈夫……」
彼は立ち上がると、俺の腕を取り静かに囁いた。
「――――――行きますよ」
「やだ……っ!」
気付けば俺はマイナの手を払い除けて、俺は踵を返して駆け出していた。
あの『瞳』はダメだ!安全な場所、安全な場所に逃げなきゃ……っ!
でも新人の俺には逃げ込める場所は思い当たらなくて、結局自分の部署に駆け戻るだけだった。
「あらぁ、レイちゃんそんなに慌ててどうしたの?」
「ルーデル先輩………」
はぁと扉に背を着けると大きく息を吐いた。
「やだ、大丈夫?顔色悪いわよ?」
「大丈夫、です…………」
心配そうなルーデルに、俺はふと思い付いて口を開いた。
「先輩、文官の中に『マイナ』って人いますか?」
瞬間。ピタリと先輩は口を継ぐんだ。
―――――え?
目を見開いて先輩を眺める。そして、流れでガンテ室長にも視線を向けると、彼は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「いる、と言ったら?」
「その人は………獣人、なんですか?」
ゴクリと唾を飲み込む。見た目はまるっきり人族の姿だけど、あの瞳は異常だ。
「―――――何でそんなことを聞く?」
「………俺……………。」
言葉に詰まって俯くと、ガンテ室長は「はぁぁっ」と大きく溜め息をついた。
「この時期の獣族はデリケートだ。あまり刺激したくないんだが………」
ガシガシと頭を掻き室長は俺を見た。
「暫く……そうだな、10日くらい休んでいい。お前もそろそろ疲れが溜まる時期だ。なれない環境での疲労って事で休みを出してやる」
「え?」
「彼奴は獣人だ。今は求愛シーズンで時期が悪い。物理的に距離を置くのが1番だろ。今日ももう帰っていいぞ」
強面のガンテ室長にしては優しい声で帰宅を促す。
俺は意味が全く分からないまま、でもあの人がいる場所にいることもできずに、帰るしか術がなかった。
パタンと扉が閉まったあと。
ガンテ室長とルーデルがヒソヒソと話し出す。
「レイのあの反応………、彼奴襲ったな」
「襲ったんでしょうね、我慢できずに」
「獣人の性とはいえ、レイも気の毒にな」
冷徹、冷酷と評判の『彼』の姿が2人の脳裏に浮かぶ。
アレが相手では、もう逃げられまい。
できる限り守ってやりたかったが、此処までだろう。
2人は揃って溜め息をついた。
キィ……と少し軋ませて自分の部屋の扉を開ける。
小さな小さな、自分だけの部屋。
ぽふんと床に荷物を落として、そのままうつ伏せにベッドに倒れ込んだ。
「………疲れた」
ポツリと呟く。ふかふかの枕に顔を埋める。
マイナと知り合って1か月。
時々食堂で顔を合わせるだけの、薄い知り合い。なのに彼の側はなんとなく居心地が良くて、偶に会えるのが嬉しかった。
だというのに、今日感じたあの『瞳』への恐怖感………。
今思うとあれは絡め取られ、自由を奪われ、喰われる……という、被食者としての恐怖だと思う。
あの恐ろしい感じを思い出して、ふるりと頭を振った。
ギュッと目を閉じる。
大丈夫。ここは俺の部屋だから、きっと大丈夫……。
―――――と、その時。
コツリ、と音がした。
俺以外、誰もいない筈の、この、部屋で………。
フルフルと全身が震えだす。ギュッと閉じた目は怖くて開けることができない。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……………。
「随分早く帰宅したんですね」
足音は軈てベッドの横で止まる。
キシリとベッドが沈み、彼がベッドに腰を下ろしたのが分かった。
「ガンテも、随分君には甘いな…………」
そう呟くと、サラリと俺の髪を掻き上げてきた。
「ねぇ、貴方の綺麗な瞳を私に見せて?」
俺は恐怖でガチガチに固まった身体を叱咤しながら開眼し、何とか上半身を起こしマイナに目を向けた。
「貴方は、誰?」
その言葉に、マイナはふふっと綺麗に微笑んだ。
「そうか……。ちゃんとした自己紹介がまだでしたね?」
クイッと俺の顎を持ち上げて、不穏な色を宿す虹色の瞳で俺を覗き込んできた。
「では改めて、初めましてレイ。私はマイグレース・ダンカン、公爵位でこの国で宰相の職に就いています」
そこで区切ると、俺の頬に顔を近付けて………。ゆっくりと唇を寄せてきた。
紙一枚ほどの隙間を残して、彼は囁いた。
「――――そして貴方の母君の元婚約者ですよ」
はっとして彼を見る。マイナ……マイグレースは淡く微笑むと、顎を掴んでいた手を離し額に人差し指をそっと突き付けた。そこから先の事は、覚えていない。
目の前が暗転し、俺は意識を失ったのだった。
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「――――ん、」
薄っすらと瞼を開ける。すると見慣れぬ真っ白な天井が目に飛び込んできて、俺は慌てて身を起こした。
「あ……れ……?ここ、何処?」
キョロキョロと辺りを見渡す。どこもかしこも真っ白で、床や壁、天井の境目が分かりにくい。
目の錯覚で部屋は酷く広くも見えるし、恐ろしく狭くも見えて、ちょっとクラクラしてしまった。
「ああ、起きましたね」
声が聞こえてきて振り向くと、さっきまでは無かったテーブルと椅子があり、そこにマイグレースが座って頬杖を付いていた。
「―――――ここ、何処?」
つい身構えてしまう。そんな俺の様子に、彼はふっと笑った。
「そんなに警戒しないでください。ここは私のテリトリー。夢の中ですよ」
「夢……?」
「先ずはテーブルに着きませんか?お茶でも淹れますよ」
俺は改めてぐるりと辺りを見渡したけど、出口らしいものは見当たらない。諦めてマイグレースがいるテーブルに行くために足を下ろし、その時初めての自分がベッドにいた事に気付いた。
これも真っ白………。
シーツは勿論、ベッドのフレームも何もかも白く、すっかり周りに溶け込んでしまっている。
「ここ、何でこんなに真っ白なの?」
ポツリと呟くと、マイグレースは僅かに首を傾げた。
「気に入りませんか?」
「………落ち着かない」
ふふと笑み、パチンと指を鳴らす。するとまたたく間に辺りの景色は一転して、何処かの貴族の屋敷らしき部屋へと様変わりした。
「では、私の部屋にしましょうね。さぁ、どうぞお掛けなさい」
促されて、恐る恐るマイグレースの真向かいの席に座る。
「―――私が怖い?」
微笑んだまま僅かに目を細める彼を見て、ヒヤリとしたモノが背筋を這う。
無言のまま視線を外すと、彼は俺の前にお茶で満たしたカップを差し出した。
「お口に合えばいいんですが。さぁ、どうぞ」
そして優雅な仕草で自身もカップを持ち上げた。そっとカップに唇を当ててお茶を一口飲む。
「さて、少しお話をしましょう」
「……貴方が俺を生んだヤツの元婚約者って、本当?」
「ええ、本当ですよ」
カチリとカップを下ろして、彼は思案顔になった。
「どう話をしましょうか…………。私と貴方の母君は確かに婚約者でした。あれは……私が8歳、彼女が12歳の時に結ばれた縁でしたね」
僅かに首を傾げ、思い出しつつマイグレースは言葉を紡ぐ。
「私はこの世界にあって少し特殊な獣人なんですよ」
「特殊?」
「そう。夢喰いの『獏』、それが私の本体です。獣人と言うより、幻獣ですね。夢を支配し悪夢を食べると言われますが、正確には洗脳や精神支配が本質です」
「洗脳、するの?」
「必要ならば。でもこの力は使い方によっては大変危険なものです。だから神が定めた決まりで、この世に『獏』は同時に3人までしか存在できない様になっています」
綺麗な指を3つ立ててみせる。
「1人は祖父、1人は親である父、そして子である私。『獏』が持つ力は強大かつ尊いもの、だからこそ血脈を繋いでいく義務があるんです」
「えっと、マイグレース……様、」
「いつも通り『マイナ』と」
「でも………」
「呼んで、くれますよね?」
強く念押しされて、俺は言葉に詰まる。や、だって年上だし、公爵で宰相なのに。俺平民なんだけど……。
圧に負けて、コクリと頷いた。相手が良いって言ったんだ。不敬罪とか、ならないよね?
「あのマイナ、さん?そんな話を俺にしても大丈夫?」
「貴方は特別ですから」
ふわっと細めた瞳には愛おしさが溢れていて、昼間に見たあの恐ろしい感じは微塵もない。
「私と貴方の母君との婚約は、私が彼女に運命の番の匂いを感じ取った事から始まります」
その言葉に、ツキんと胸が痛む。
「獣人は様々な方法で運命の番を認識しますが、私は匂いで認識しました。彼女から感じる匂いに愛おしさを覚えて、婚約に至ったんです」
でも、とマイナは話を続ける。
「運命の番であるはずなのに、彼女から感じ取れる匂いは僅かで、私は自分が間違えたのではないかと不安に感じるようになりました」
「俺、人族だからよく分かんないんだけど、間違える事もあるの?」
「普通は有りえませんね。だからこそ私は自分の直感が信じれなくて、彼女から少し距離を置くようにしたんです。それが良くなかったのでしょう。彼女は女性が結婚できる16歳の時に、他の相手を見付けて貴方を身籠ってしまった」
「……悲しかった?」
「ふふ……いいえ、全く。寧ろ歓喜しかありませんでしたよ。お陰で貴方に出会えたのだから」
瞳に滲ませる甘さを深め、そっと手を伸ばしてくる。
そして俺の頬を、大切な宝物に触れるように優しく包んだ。
「貴方が私の番だったんです」
「…………………。え?」
「私の番を生む『妊腹』に、貴方の匂いを感じたようです。道理で彼女からの香りが弱いはずですよね」
切なそうに、恋い焦がれるように、すりっと親指の腹で頬を撫でる。
「貴方が彼女のお腹に宿って初めて、私は自分の思い違いに気付きました。だから婚約破棄は歓迎こそすれ、悲しむものではなかったんですよ」
話しながらずっとスリスリと撫でていた指を止めて、名残惜しそうに手を離す。そしてテーブルに置いていた俺の手を宝玉を戴くように優しく持ち上げて、甲に唇を落とした。
「できれば貴方を引き取り、私の手元で育てたかった……。でもそれは私の父にも、貴方の母君の一族にも止められました。番を前にした獣人の自制心が信用できなかったんでしょうね」
ふっ、と目の前のテーブルが消える。そして俺の手をグイッと引っ張り抱き寄せてきた。
――――まぁ、それも強ち間違ってはいませんが……。と耳元で囁く。
「貴方が成人した折にも、再度貴方を望みましたが却下されて、挙げ句に………」
忌々しそうに舌打ちする音が聞こえる。
「陛下に上申して、男性が妊む事ができる18歳まで王宮預かりとしたんですよ」
待って、待って、待って………!!
情報量が多すぎ!!
何とか頭を回転させて理解しようとするけど、現状マイナに抱き締められてて、それどころじゃない!
「えっと、じゃ、俺が王宮で働いてるのは………」
「貴方のお祖父様の差し金ですよ。知りませんでした?」
ふっと笑む。
「ガンテ室長、貴方の母君の兄……伯父にあたる人間ですよ」
「!!!?」
は?あのマッチョ室長が?俺の、伯父?
「私が貴方に会うのを許されたのは、人目がある昼の休憩時間のみ」
混乱している俺を余所に、マイグレースはぐいぐい身体を密着させてくる。
「そんな条件を唯々諾々と承知なんてできませんよね?」
いや、『ね?』と言われても!
マイナさん、近い、近い!顔!めっちゃ近いんですけど!
ちゅっとリップ音をたてて頬にキスをする。
「だから、夢の中で貴方を頂く事にしたんです」
「もしかして……夜寝る度に疲れちゃうのって……」
「淫夢に翻弄される貴方は本当に可愛らしくて、ついつい……。手加減できなくて、申し訳なかったです」
ねっとりと耳を嫐られて身体が竦んだ。
「え、あ、の?」
「貴方に怖がられるのは本意では有りませんが。この求愛の時期に、もうすぐ18歳になる番の香りを前にして我慢なんてできない……」
掠れた声で囁かれると腰が甘く疼くし、お腹の奥がきゅっとなる感じがして焦る。
「我慢、できないんですよ……レイ」
熱に浮かされたように呟くと、枷が外れたのか覆い被さるように口付けてきた。
唇ってこんな性的な接触で気持ち良くなれる場所なの?
「ん…、んふぅ…ん、っ……」
鼻に抜けるような、自分の甘えた声を遠くに聞きながら、必死にマイグレースの蹂躙に耐える。
次第に頭はぼーっとしてくるし、膝はガクガクになるしで、つい彼の服の袖を掴んだ。
「――――ん、」
漸く唇が離れる。マイグレースは欲に潤む瞳で、俺を舐めるように眺めた。
「夢は所詮精神世界ですからね。ここで貴方を抱いても子供を授かる事はありません。だから――――」
――――好きな様に淫れてくださいね。
そんなに優しげに微笑んでも、ヤろうとしてる現状変わらないよね?
「勿論、結婚式が終わって初夜を迎えた暁には………」
腹をゆっくり淫靡に撫で擦る。
「現実世界でココに、たくさん子種を注いであげる」
ぐっとマイグレースの体重がかかり、後方に倒れ込む。
「わ!!」
ビックリするけど、いつの間にかそこにベッドが出現していて、倒れ込んだ俺たちを優しく受け止めてくれた。
「取り敢えず、今はこの部屋で私の性欲を受け止めてくださいね?」
にんまりと笑む宰相閣下を前に、俺はもう貪り喰らわれる未来しか見えなかったけど。
一途な愛を捧げてくる獣人と番になれて、もしかしたら幸せなのかもしれない。
何だ……?
気持ちいい………。
瞼を閉じたまま、何処とも知れない場所で、ゆるゆると揺れる。
『気持ちいい』波が背筋を揺蕩いながら這い上って、俺の感覚の全てを支配していく。
「……ん、んぅ………」
何だろ、コレ。気持ちいいし、暖かい。
一際甘く腰が痺れたかと思ったら。腹の奥に熱い飛沫を感じて、息が止まる。
ギュッと快楽が小さく小さく圧縮されたあと、一気にそれが弾けて全身……それこそ髪の先から足の爪まで快楽で満たされていく感じ……。
もうハクハクと意味を成さない自分の呼吸の動き1つすらも、感じてしまって仕方ない。
「ぁ……んッ、っ………」
ああ、そうだ。コレは夢だ。
俺は指一本動かせない状況で、只管気持ち良くて、ただ只管喘ぐだけ。
―――――そんな夢を、俺はもう1か月近く見続けていたんだった。
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「……………ん―――――――………」
大きく身体を伸ばして、そして起き上がる。
今、目覚めたばかりなのに、疲れが取れていないような重怠さが身体に纏わり付く。
最近、寝ても寝てもキツくて仕方ない。
病気かな………。
何か夢を見てた気もするけど、覚えてないんだよなぁ。
今日も良いお天気らしくて、窓から差し込む光は眩しいくらい。そんな朝日を浴びつつ大きく欠伸をして、仕事に行く準備をするべくベッドから降り立った。
このベッドと簡易キッチン、シャワーとトイレがついているだけの、小さな木造の部屋が俺のテリトリー。
この場所で暮らし始めて2ヶ月が過ぎた。
施設育ちで、自分の持ち物なんて何一つ持ってなかったから、この小さ過ぎる職場の寮でも愛しくてたまらない。
「さて、シャワーでも浴びるか」
仕事に行く前に身支度を整える。
さっとシャワーを浴びて、鏡の前で少し血色の悪い自分の顔を眺めた。
正直、俺の顔はかなり良い。
淡い長めの金髪に、少し緑が入った青い瞳。所謂セルリアンブルーと表現される瞳は特徴的で、整った容姿と相まって人目を引いた。
まぁ、両親が腐っても貴族だったから、顔が良いのは当然かもな。
平民が、こんな貴族的な顔を持つと厄介事しか招かない。今までに何度性的悪戯目的に路地裏に引っ張り込まれそうになった事か………。貞操の危機を招く顔なんて、マジでいらんのだけど。
俺の両親は揃って貴族だった。お互いに婚約者が有りながら、『運命の恋人なんだ』と言い張りデキ婚。
母だった女の元婚約者が高位貴族だったこともあり、父も母も責任を取らされ貴族籍から抹消された。
結果、生まれた俺は当然平民。
貴族も何だかんだ色んな責務がありそうだし、俺は平民で良かったと思ってる。
ただ生まれついての貴族だった両親は平民生活に馴染めくて、『あれは勘違いだった』とあっさり離婚。
互いの実家に泣き付くも相手にされず、今はどっかの教会だか修道院だかに身を寄せているらしい。
――――――随分軽い運命だよな。
はん、と鼻で嗤う。
俺はあの二人が離婚した後、施設に入った。両親の製造元は案外マトモな人達だったらしく、行き場が無くなった俺を引き取ろうとしたらしい。
でも、貴族籍を持たない事と、迷惑をかけた元婚約者の手前どうにもならず。
妥協案として、貴族の婚外子やら大商会の頭取の妾の子やらを集めた施設に入る事になった。
望まれてない子供の為の施設だから、待遇は最悪だったけど、それでも学校が併設されてて学べる環境があったことはマジで有り難かった。
やっぱ学がないと、仕事に有り付けないし。
そんな事をつらつら考えながら髪を軽く整え、歯磨きをして…………。
「行ってきます」
愛しい部屋に挨拶をして、職場に向かった。
ここライティグス王国は獅子の獣人を国王に掲げる、獣族の国だ。
獣族の国だけど普通に人族もいる。蛇足だけど貴族も3割くらいが人族だ。
そしてこの時期は恋の季節らしくて、あちこちで獣人達の求愛行動を見かけるが、俺は人族だから全く関係がない話。
種族によって違う求愛行動を横目に見ながら、目的地である職場を目指す。
「おはようございます」
魔法陣で施錠されていた扉を潜る。
王宮の片隅にあるこの部署が俺の職場。
そう、有ろうことか文官として働いてんだよね、俺。
ま、平民だから仕事内容は簡単なものだけどさ。
この仕事に就けたのも、俺の親の製造元のお陰っぽいから、一応感謝しておく。
「あら、レイちゃん、おはよー!今日も可愛いわねぇ」
扉の音に振り返ったルーデルが微笑んでくれた。
オネェ言葉が似合う猫獣人のルーデルは、見た目ほっそりとした美人さんだから、めっちゃ目の保養だ。
「ルーデル先輩、今日も美人さんですね」
「あらぁ、ありがとう」
ふふっと微笑み合っていると、ガンテ室長からの叱責が飛ぶ。
「遊んでないで、働け」
野太い声の主ガンテ室長は、声から容易に想像できる筋肉隆々のマッチョだ。
何でこの人、文官なんだろね?
武官と言われたほうがしっくりくる室長から、今日担当する仕事を受け取り机に向かう。
この部署は代筆作業を担っている。
舞踏会ほど大量ではない招待状とか、機密レベルⅢまでの会議用資料とか、そんな物を黙々と書き上げる地味な部署。
一応機密情報があるから入口の扉は魔法陣で施錠されてて、出入りする人を管理している。
こんな部署に、よく俺みたいな新人放り込んだよな……と、未だに思う。
でも黙々と机に向かって作業するのは好きだから、この仕事は本当に天職だと思ってる。
つらつらと、どうでもいい事を考えながら、仕事に取り掛かった。
「――――お、もうこんな時間か………」
ガンテ室長は耳元に触れながら壁時計に視線を向けた。
時々耳を触っている所を見ると、通信系の魔導具を付けてるのかもしれない。
「よし、昼休みだ。ちゃんと食堂でメシ喰えよ、レイ」
「分かってますって……」
俺は片手を上げて返事をすると、そそくさとその場を後にした。
疲れが抜けなくて、この間昼休みにご飯も食べずに中庭で昼寝をしてたら、ガンテ室長が血相変えて俺を探してたっていう事があり………。
大人しく食堂に向かう事にした。
今はメシより寝ていたいんだけどなぁ……。
ふわわっと欠伸を漏らして食堂のカウンターに並んだ。
胃の調子もあんまり良くないし、軽めの物を食べようとメニューに目を向ける。
あ、ワンプレートランチにキッシュが付いてる!
カボチャのキッシュが大好物の俺は迷わずそれを注文して、ついでに野菜のスープも選択する。
受け渡しカウンターで料理を受け取ると、人でごった返す食堂を見渡した。
どっか空いてる席ないかな……。
キョロキョロと辺りを見渡していると、涼やかな声が俺の名前を呼んだ。
「レイ、こっち」
目を向けると、見目麗しい一人の男性が片手を上げていた。
手入れされた花々が彩る中庭が目を楽しませる、窓際の特等席。
だと言うのに、今はその男性しか座っていない事を不思議に思いつつ、隣の席に腰を下ろした。
「マイナさん、今日もありがとうございます」
「ふふ、いいんですよ。それに今日もちゃんと食事に来て偉いですね」
甘やかに目を細めて褒めてくるけど、食事に来ただけで褒められるって、どんだけ俺の生活レベル低く評価されてんだろ。
ちぇ……とムクレながらキッシュをフォークで突く。
マイナとは、入職して1ヶ月目に出会った。
あの時も食堂の席を探してて、たまたま同席になったのがマイナだったのだ。
多分年の頃は30歳くらい?栗毛の柔らかな髪に虹色の変わった色彩の瞳を持つ人。制服から文官だと分かるけど、その割には腕やら胸やらにしっかり厚みがあって、鍛えてんだろうなって分かる。
容姿端麗な見た目も相まって、マイナがいる時の食堂は見物客でごった返してる状態だ。
マイナはそんなギャラリーに慣れているのか、華麗にスルーしている。というか、寧ろ何ていうか………俺しか視界に入れていない気が、若干………いやかなり、そんな気がするんだけど……。自惚れ、かな?
メチャクチャ格好良いマイナに微笑まれると、本当に落ち着かないし、顔が赤くなるしで困ってしまう。
何でこの人、こんな下っ端の俺なんかに親切にするんだろ?
優しく見守られて食べるメシは、気不味くて正直あんまり味がしない。
くそう……折角の好物のキッシュなのに。
モグモグ食べ進めていると、チラリと俺の皿をみたマイナが溜め息をついた。
「ああ………、今日も食べる量が少なすぎます。そのうち倒れますよ?」
「分かってるけど……、あんまり食欲ない」
少しもたれ気味な胃をさすさす擦りながら、呟いてしまって、直ぐにはっとなって謝罪した。
「あ、俺………。すみません……」
年上の人だし、ちゃんと敬語で話さなきゃと思うけど、つい気を抜くと普段の口調になってしまうんだ。
「良いんですよ。貴方はまだ17歳でしょう。そんなに畏まらないで自由に話してください」
「や、でも……」
「―――その方が、私も嬉しい」
そっと耳元に顔を近付けて、秘密を話すように囁く。かかるか息が擽ったくて、俺は耳を押さえて仰け反った。
「ふふ……」
そんな俺を見て、マイナは口元に人差し指を当てて微笑んだ。
もー何なんだ!その無駄な色気、こっちに向けんのやめてくれ………。
無駄にドキドキする胸を押さえる。
そしてマイナは自分の皿に視線を落として、キレイに盛り付けてあった肉を切り分け、俺の口元に運んだ。
「はい、あーん」
「………………ぇええええ………?」
「これお肉ですけど、凄く柔らかく煮込んであるから食べやすいですよ」
突然の行動に固まった俺に、マイナは「胃への負担は少ないと思いますよ」とにっこり笑う。
だけど、違うよ、そうじゃない!
公衆の面前で、何の羞恥プレイですか………っ。
予想外のマイナの行動に、顔が引き攣る。と、同時に周りの人々も信じられないとざわめき始めた。
その声に、俺はびくんと肩を揺らして後ろに目を向ける。
な……何だ、今の?
マイナが、その見た目に反してお茶目な行動に出た事に驚いた、って反応じゃないよな?
割と近くの席に座っていた人と目が合ったけど、彼はサッと青褪めて視線を反らした。
「ねぇマイナさん、今の………」
不安になって隣を見ると、彼はアルカイックスマイルを浮かべていた。
「ほら、ちゃんと食べないと。あーん」
もう一度促されて、俺は渋々口を開けた。そうしないと、何かヤバい事になりそうな、そんな予感がしたんだ。
ゆっくり俺のペースを見ながら肉を放り込まれて、気付けばマイナのお皿の中身は無くなってしまっていた。
「マイナさんの分、なくなったよ?」
「私は良いんですよ。また後で食べる事もできますし。それよりお腹いっぱいになりました?」
「あ、うん。美味しかった」
「それは良かった」
ふふっとキレイに微笑む。その後もゆっくり食後の紅茶を飲みながら、「仕事には慣れたか」とか「困ってる事はないか」なんて心配されつつ雑談をしていた。
が。予定外にお腹がいっぱいになった俺は、最近の疲れもあり、つい眠気に襲われウトウトと眠り始めてしまっていた。
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「ぁ………ん、ん……」
小さく身じろぐ。俺のモノを長い指がゆるゆると嬲り、快感を引き出そうとしている。
「ゃ……ぁ………、あぁ」
またあの『夢』だ。目が開かないから、誰にナニをされているのか分からない。
クチリ、と濡れた音と共に胸を吸い上げられた。じぃぃん…とした感覚の中に甘い快楽の波を感じ、俺は唇を噛んで必死にその感覚を意識しないように頑張った。
でも夢の中のヤツはそれが気に入らなかったのか、ペロリと唇を何往復か舐めた後、かぷりと噛み付く。
そしてぐりぐりと舌先で唇を刺激して、俺の唇を無理やり開くと傍若無人に口腔内に侵入して蹂躙し始めた。
「は、ぁんん…、ん―――っ……」
相手がやっと離れる頃には、俺は快感でグズグズに溶かされてしまっていた。クタリと力が抜ける。
そんな俺の身体を撫で回しながら、下へ下へと掌が降りていき……。
やがて後穴に辿り着き、周りを優しく愛撫し始めた。時々掠めるように後穴に触れるから、もどかしくなってしまう。
「ふ……あ、ん、ぁぁああ、や、」
今まで幾度となく夢の中で犯された身体は、与えられる快感を知っている。
耐えきれなくなって、腰を揺らしてしまった。
「ん、ぁ、あ……も、う…、ほし……い」
くちっと婬靡な音とがして、雄芯の先端が押し付けられた。浅ましくも喉を鳴らして、次にくる衝撃を期待する。
「――――っは………、可愛い……レイ……っ」
不意に聞こえてきた男の声に、俺はびくんと戦慄いた。
―――――え………?この声……マイナさ……ん?
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「―――――。レイ………、レイ………?」
はっと目を開くと、心配そうな顔のマイナさんが俺を見ていた。どくん、と心臓が大きく脈打つ。
今、俺、寝てた?
夢を見た気がするんだけど………?
――――何でだろう、マイナさんの顔が見れない………。
ふるりと寒気が身体を襲う。起きた時の身体の重さ、怠さ。そしていつも覚えていない『夢』……。
「大丈夫ですか、レイ。こんなに震えて」
「……あ………」
「気分が悪い?医務室に行きましょう」
トンと肩に手を置かれて、俺はマイナさんに目を向けた。彼は心配している気配を醸し出しながらも、その瞳は獲物を捕獲した肉食獣の様に妖しい光を宿していた。
その虹色の瞳の奥の獰猛な光に言いようのない恐怖を感じ、俺は一気に彼が怖くなった。
「や……、い……かない。大丈夫……」
彼は立ち上がると、俺の腕を取り静かに囁いた。
「――――――行きますよ」
「やだ……っ!」
気付けば俺はマイナの手を払い除けて、俺は踵を返して駆け出していた。
あの『瞳』はダメだ!安全な場所、安全な場所に逃げなきゃ……っ!
でも新人の俺には逃げ込める場所は思い当たらなくて、結局自分の部署に駆け戻るだけだった。
「あらぁ、レイちゃんそんなに慌ててどうしたの?」
「ルーデル先輩………」
はぁと扉に背を着けると大きく息を吐いた。
「やだ、大丈夫?顔色悪いわよ?」
「大丈夫、です…………」
心配そうなルーデルに、俺はふと思い付いて口を開いた。
「先輩、文官の中に『マイナ』って人いますか?」
瞬間。ピタリと先輩は口を継ぐんだ。
―――――え?
目を見開いて先輩を眺める。そして、流れでガンテ室長にも視線を向けると、彼は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「いる、と言ったら?」
「その人は………獣人、なんですか?」
ゴクリと唾を飲み込む。見た目はまるっきり人族の姿だけど、あの瞳は異常だ。
「―――――何でそんなことを聞く?」
「………俺……………。」
言葉に詰まって俯くと、ガンテ室長は「はぁぁっ」と大きく溜め息をついた。
「この時期の獣族はデリケートだ。あまり刺激したくないんだが………」
ガシガシと頭を掻き室長は俺を見た。
「暫く……そうだな、10日くらい休んでいい。お前もそろそろ疲れが溜まる時期だ。なれない環境での疲労って事で休みを出してやる」
「え?」
「彼奴は獣人だ。今は求愛シーズンで時期が悪い。物理的に距離を置くのが1番だろ。今日ももう帰っていいぞ」
強面のガンテ室長にしては優しい声で帰宅を促す。
俺は意味が全く分からないまま、でもあの人がいる場所にいることもできずに、帰るしか術がなかった。
パタンと扉が閉まったあと。
ガンテ室長とルーデルがヒソヒソと話し出す。
「レイのあの反応………、彼奴襲ったな」
「襲ったんでしょうね、我慢できずに」
「獣人の性とはいえ、レイも気の毒にな」
冷徹、冷酷と評判の『彼』の姿が2人の脳裏に浮かぶ。
アレが相手では、もう逃げられまい。
できる限り守ってやりたかったが、此処までだろう。
2人は揃って溜め息をついた。
キィ……と少し軋ませて自分の部屋の扉を開ける。
小さな小さな、自分だけの部屋。
ぽふんと床に荷物を落として、そのままうつ伏せにベッドに倒れ込んだ。
「………疲れた」
ポツリと呟く。ふかふかの枕に顔を埋める。
マイナと知り合って1か月。
時々食堂で顔を合わせるだけの、薄い知り合い。なのに彼の側はなんとなく居心地が良くて、偶に会えるのが嬉しかった。
だというのに、今日感じたあの『瞳』への恐怖感………。
今思うとあれは絡め取られ、自由を奪われ、喰われる……という、被食者としての恐怖だと思う。
あの恐ろしい感じを思い出して、ふるりと頭を振った。
ギュッと目を閉じる。
大丈夫。ここは俺の部屋だから、きっと大丈夫……。
―――――と、その時。
コツリ、と音がした。
俺以外、誰もいない筈の、この、部屋で………。
フルフルと全身が震えだす。ギュッと閉じた目は怖くて開けることができない。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……………。
「随分早く帰宅したんですね」
足音は軈てベッドの横で止まる。
キシリとベッドが沈み、彼がベッドに腰を下ろしたのが分かった。
「ガンテも、随分君には甘いな…………」
そう呟くと、サラリと俺の髪を掻き上げてきた。
「ねぇ、貴方の綺麗な瞳を私に見せて?」
俺は恐怖でガチガチに固まった身体を叱咤しながら開眼し、何とか上半身を起こしマイナに目を向けた。
「貴方は、誰?」
その言葉に、マイナはふふっと綺麗に微笑んだ。
「そうか……。ちゃんとした自己紹介がまだでしたね?」
クイッと俺の顎を持ち上げて、不穏な色を宿す虹色の瞳で俺を覗き込んできた。
「では改めて、初めましてレイ。私はマイグレース・ダンカン、公爵位でこの国で宰相の職に就いています」
そこで区切ると、俺の頬に顔を近付けて………。ゆっくりと唇を寄せてきた。
紙一枚ほどの隙間を残して、彼は囁いた。
「――――そして貴方の母君の元婚約者ですよ」
はっとして彼を見る。マイナ……マイグレースは淡く微笑むと、顎を掴んでいた手を離し額に人差し指をそっと突き付けた。そこから先の事は、覚えていない。
目の前が暗転し、俺は意識を失ったのだった。
※※※※※※※※※※☆★☆※※※※※※※※※
「――――ん、」
薄っすらと瞼を開ける。すると見慣れぬ真っ白な天井が目に飛び込んできて、俺は慌てて身を起こした。
「あ……れ……?ここ、何処?」
キョロキョロと辺りを見渡す。どこもかしこも真っ白で、床や壁、天井の境目が分かりにくい。
目の錯覚で部屋は酷く広くも見えるし、恐ろしく狭くも見えて、ちょっとクラクラしてしまった。
「ああ、起きましたね」
声が聞こえてきて振り向くと、さっきまでは無かったテーブルと椅子があり、そこにマイグレースが座って頬杖を付いていた。
「―――――ここ、何処?」
つい身構えてしまう。そんな俺の様子に、彼はふっと笑った。
「そんなに警戒しないでください。ここは私のテリトリー。夢の中ですよ」
「夢……?」
「先ずはテーブルに着きませんか?お茶でも淹れますよ」
俺は改めてぐるりと辺りを見渡したけど、出口らしいものは見当たらない。諦めてマイグレースがいるテーブルに行くために足を下ろし、その時初めての自分がベッドにいた事に気付いた。
これも真っ白………。
シーツは勿論、ベッドのフレームも何もかも白く、すっかり周りに溶け込んでしまっている。
「ここ、何でこんなに真っ白なの?」
ポツリと呟くと、マイグレースは僅かに首を傾げた。
「気に入りませんか?」
「………落ち着かない」
ふふと笑み、パチンと指を鳴らす。するとまたたく間に辺りの景色は一転して、何処かの貴族の屋敷らしき部屋へと様変わりした。
「では、私の部屋にしましょうね。さぁ、どうぞお掛けなさい」
促されて、恐る恐るマイグレースの真向かいの席に座る。
「―――私が怖い?」
微笑んだまま僅かに目を細める彼を見て、ヒヤリとしたモノが背筋を這う。
無言のまま視線を外すと、彼は俺の前にお茶で満たしたカップを差し出した。
「お口に合えばいいんですが。さぁ、どうぞ」
そして優雅な仕草で自身もカップを持ち上げた。そっとカップに唇を当ててお茶を一口飲む。
「さて、少しお話をしましょう」
「……貴方が俺を生んだヤツの元婚約者って、本当?」
「ええ、本当ですよ」
カチリとカップを下ろして、彼は思案顔になった。
「どう話をしましょうか…………。私と貴方の母君は確かに婚約者でした。あれは……私が8歳、彼女が12歳の時に結ばれた縁でしたね」
僅かに首を傾げ、思い出しつつマイグレースは言葉を紡ぐ。
「私はこの世界にあって少し特殊な獣人なんですよ」
「特殊?」
「そう。夢喰いの『獏』、それが私の本体です。獣人と言うより、幻獣ですね。夢を支配し悪夢を食べると言われますが、正確には洗脳や精神支配が本質です」
「洗脳、するの?」
「必要ならば。でもこの力は使い方によっては大変危険なものです。だから神が定めた決まりで、この世に『獏』は同時に3人までしか存在できない様になっています」
綺麗な指を3つ立ててみせる。
「1人は祖父、1人は親である父、そして子である私。『獏』が持つ力は強大かつ尊いもの、だからこそ血脈を繋いでいく義務があるんです」
「えっと、マイグレース……様、」
「いつも通り『マイナ』と」
「でも………」
「呼んで、くれますよね?」
強く念押しされて、俺は言葉に詰まる。や、だって年上だし、公爵で宰相なのに。俺平民なんだけど……。
圧に負けて、コクリと頷いた。相手が良いって言ったんだ。不敬罪とか、ならないよね?
「あのマイナ、さん?そんな話を俺にしても大丈夫?」
「貴方は特別ですから」
ふわっと細めた瞳には愛おしさが溢れていて、昼間に見たあの恐ろしい感じは微塵もない。
「私と貴方の母君との婚約は、私が彼女に運命の番の匂いを感じ取った事から始まります」
その言葉に、ツキんと胸が痛む。
「獣人は様々な方法で運命の番を認識しますが、私は匂いで認識しました。彼女から感じる匂いに愛おしさを覚えて、婚約に至ったんです」
でも、とマイナは話を続ける。
「運命の番であるはずなのに、彼女から感じ取れる匂いは僅かで、私は自分が間違えたのではないかと不安に感じるようになりました」
「俺、人族だからよく分かんないんだけど、間違える事もあるの?」
「普通は有りえませんね。だからこそ私は自分の直感が信じれなくて、彼女から少し距離を置くようにしたんです。それが良くなかったのでしょう。彼女は女性が結婚できる16歳の時に、他の相手を見付けて貴方を身籠ってしまった」
「……悲しかった?」
「ふふ……いいえ、全く。寧ろ歓喜しかありませんでしたよ。お陰で貴方に出会えたのだから」
瞳に滲ませる甘さを深め、そっと手を伸ばしてくる。
そして俺の頬を、大切な宝物に触れるように優しく包んだ。
「貴方が私の番だったんです」
「…………………。え?」
「私の番を生む『妊腹』に、貴方の匂いを感じたようです。道理で彼女からの香りが弱いはずですよね」
切なそうに、恋い焦がれるように、すりっと親指の腹で頬を撫でる。
「貴方が彼女のお腹に宿って初めて、私は自分の思い違いに気付きました。だから婚約破棄は歓迎こそすれ、悲しむものではなかったんですよ」
話しながらずっとスリスリと撫でていた指を止めて、名残惜しそうに手を離す。そしてテーブルに置いていた俺の手を宝玉を戴くように優しく持ち上げて、甲に唇を落とした。
「できれば貴方を引き取り、私の手元で育てたかった……。でもそれは私の父にも、貴方の母君の一族にも止められました。番を前にした獣人の自制心が信用できなかったんでしょうね」
ふっ、と目の前のテーブルが消える。そして俺の手をグイッと引っ張り抱き寄せてきた。
――――まぁ、それも強ち間違ってはいませんが……。と耳元で囁く。
「貴方が成人した折にも、再度貴方を望みましたが却下されて、挙げ句に………」
忌々しそうに舌打ちする音が聞こえる。
「陛下に上申して、男性が妊む事ができる18歳まで王宮預かりとしたんですよ」
待って、待って、待って………!!
情報量が多すぎ!!
何とか頭を回転させて理解しようとするけど、現状マイナに抱き締められてて、それどころじゃない!
「えっと、じゃ、俺が王宮で働いてるのは………」
「貴方のお祖父様の差し金ですよ。知りませんでした?」
ふっと笑む。
「ガンテ室長、貴方の母君の兄……伯父にあたる人間ですよ」
「!!!?」
は?あのマッチョ室長が?俺の、伯父?
「私が貴方に会うのを許されたのは、人目がある昼の休憩時間のみ」
混乱している俺を余所に、マイグレースはぐいぐい身体を密着させてくる。
「そんな条件を唯々諾々と承知なんてできませんよね?」
いや、『ね?』と言われても!
マイナさん、近い、近い!顔!めっちゃ近いんですけど!
ちゅっとリップ音をたてて頬にキスをする。
「だから、夢の中で貴方を頂く事にしたんです」
「もしかして……夜寝る度に疲れちゃうのって……」
「淫夢に翻弄される貴方は本当に可愛らしくて、ついつい……。手加減できなくて、申し訳なかったです」
ねっとりと耳を嫐られて身体が竦んだ。
「え、あ、の?」
「貴方に怖がられるのは本意では有りませんが。この求愛の時期に、もうすぐ18歳になる番の香りを前にして我慢なんてできない……」
掠れた声で囁かれると腰が甘く疼くし、お腹の奥がきゅっとなる感じがして焦る。
「我慢、できないんですよ……レイ」
熱に浮かされたように呟くと、枷が外れたのか覆い被さるように口付けてきた。
唇ってこんな性的な接触で気持ち良くなれる場所なの?
「ん…、んふぅ…ん、っ……」
鼻に抜けるような、自分の甘えた声を遠くに聞きながら、必死にマイグレースの蹂躙に耐える。
次第に頭はぼーっとしてくるし、膝はガクガクになるしで、つい彼の服の袖を掴んだ。
「――――ん、」
漸く唇が離れる。マイグレースは欲に潤む瞳で、俺を舐めるように眺めた。
「夢は所詮精神世界ですからね。ここで貴方を抱いても子供を授かる事はありません。だから――――」
――――好きな様に淫れてくださいね。
そんなに優しげに微笑んでも、ヤろうとしてる現状変わらないよね?
「勿論、結婚式が終わって初夜を迎えた暁には………」
腹をゆっくり淫靡に撫で擦る。
「現実世界でココに、たくさん子種を注いであげる」
ぐっとマイグレースの体重がかかり、後方に倒れ込む。
「わ!!」
ビックリするけど、いつの間にかそこにベッドが出現していて、倒れ込んだ俺たちを優しく受け止めてくれた。
「取り敢えず、今はこの部屋で私の性欲を受け止めてくださいね?」
にんまりと笑む宰相閣下を前に、俺はもう貪り喰らわれる未来しか見えなかったけど。
一途な愛を捧げてくる獣人と番になれて、もしかしたら幸せなのかもしれない。
応援ありがとうございます!
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