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1~10話

10a、私は応援のタイミングをわかっていない

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 時間が経つと次第に人が増えベンチが埋まりはじめる。
 見渡すかぎり、そのほとんどは十代から二十代の若い女性だ。

 開始時刻になり整列した騎士達は、号令がかかると統率のとれた動きで訓練を開始した。

 百人近い騎士達を束ねる号令の声は、聞き慣れたガルのよく通る低音だ。
 隊長とも呼ばれていたし、ガルは実は随分偉い人なのではないだろうか。


 騎士達が何か行うたび、ベンチでは着飾った女性達がきゃあきゃあと黄色い声を上げる。
 同年代の女の子達が楽しそうに盛り上がっている空気は元の世界での学校生活を彷彿とさせ、自分もどことなく楽しい気持ちになってきた。

 中でも一際声援を集めているのは、以前ガルの屋敷の庭で見かけた事のある明るい茶髪の騎士だった。

「キャー! フェンベック様ぁー!」
「訓練されるお姿も素敵ですわー!」

 本人も声が上がるたびに微笑み返したり手を振ったりとファンサービスに余念がない。なるほど、チャラい。
 一方のガルはと言えば、いつも通りの難しい表情で素振りする騎士達の動きを確認している。

 何とも対照的な二人だ。

 基礎トレーニングや素振りなどを一通りこなした後は、一対一での模擬試合が組まれていた。手前と奥の二面を使って、二組ずつ試合が行われる。

 客席の熱狂ぶりがすごいので、これが公開訓練の目玉なのだろう。
 使用するのは刃を潰した剣で、今日の模擬試合では魔法は使用しないとの説明が見物客向けになされた。

 よかった。それなら血は流れなさそうだ。

 戦いなんて無縁の平和な国で育ったのだ。目の前で流血沙汰を見せられる訳ではないことにほっと胸を撫で下ろす。
 魔法を見られないことはほんの少し残念に思うけれど、ついさっき異世界を実感して足元が揺らいだばかりだ。急にCG映画のような光景が眼前で繰り広げられたなら、自分がどうなってしまうかわからないという恐怖もあった。
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