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61~70話

64c、ご主人様は人目をわかっていない

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「マヤ……」

俺を受け入れるだけでなく、俺の買い与えた服さえも大事に思ってくれるのか……。

込み上げる愛しさのままゆっくりと唇を寄せ―――

「ガル様っ! この前見られなかった街の続き、見に行きたいです!」

唇から逃れるようにガバッと俺の首に抱きついたマヤが、早口に言った。

「……では、そうするとするか」

話が変わったことでマヤがホッと緊張を解くのを感じる。
あまりのわかりやすさに頬が緩みそうになるのを抑え、何でもない風を装って声をかけた。

「ところでマヤ、あの店は知っているか?」

「え?」

ちゅっ

俺の言葉に釣られて顔を起こしたマヤの唇を、素早く掠め取る。

「!!」

マヤは再び首筋に顔を埋めると、ぺしぺしと俺の肩を叩いた。

首筋に触れる頬が熱い。きっと羞恥に頬を染めてむくれているのだろう。
マヤの真っ赤なむくれ顔を想像し、その愛らしさに込み上げる笑いを噛み殺した。




抱き上げられたまま身を乗り出すマヤを、落ちないようしっかりと支えてやりながら店を巡る。
マヤはキョロキョロとあちこちに視線をやっては、興味深そうに目を輝かせている。

……しかし不満だ。

屋台の並ぶ広場で立ち止まると、マヤの顎を摘みクイとこちらに向かせる。

「?」

「マヤ……もう少し俺のことも見てくれ」

店ばかり見て、先ほどから俺に向けられているのはマヤの横顔や後頭部ばかりだ。
きょとんと目を瞬いたマヤが、言われた言葉を理解してみるみる頬を染めた。
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