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31~40話

32d、誰にも言わないでね!?

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 翌朝、鍛練を終えたグレニスの腕の中。

 マニーには脈ありだ行ける行ける押せ押せと盛大に焚きつけられたけれど、積極的なアプローチは解雇の危険が伴うのでひとまず置いておくことにして。とりあえずは、グレニスの好みを知るところから始めてみようと思う。

「……旦那ふぁま」

「うん?」

「旦那ふぁまの一番好きなものってなんれふか?」

「一番好きなもの? そうだな……いて言えば、この『国』だろうか」

「……」

 そう来たか。
 えっと、この場合どうなんだろう? この国の国民であることはアピールポイントになるのだろうか……??

「えっと……じゃあ『国民』も好きれふか?」

「ああ、もちろん」

 よし!
 うん……、たぶんよしっ!

「リヴの一番好きなものは———」

 えっ、まさかここで聞き返されるとは。
 私が今一番好きなものといえば、間違いなく……

、だったな?」

「っ———ッゲホッゴホ」

 グレニスの言葉にひゅっと息を吸い込んだ拍子、喉が詰まってゲホゲホとむせ込む。
 厚い胸に突っ伏して咳込む私の背中を、大きな手のひらがいたわるようにさすってくれる。

「なっ……、なんれそれを……」

「何をそんなに驚くことがある。以前自分で言っていただろう。俺のことが『何よりも一番好き』だと」

 え、えぇぇ? そんなこと言っただろうか?
 グレニスの言葉が事実だとすれば、過去の自分はとんでもないことを言ってくれたものだ。

「……それとも、今は違うのか? もう一番ではなくなったとでも?」

 グレニスの声のトーンが下がる。
 なんだろう。気温は高いはずなのに、背筋にほのかな寒気が。

「…………いえ、違わないです……。一番好き、です……」

 最大限に顔を俯け、頭頂部をグレニスの胸に押し当てながら小声でもごもごと答える。
 ああ、グレニスの好みを知りたいだけだったのに、なんでこんなことに……。

「そうか」

 聞こえてくれなくても一向に構わなかったのに。
 ちゃんと聞き取れてしまったらしいグレニスは、満足げにそう言ってぎゅっと私を抱きしめた。
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