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31~40話
34c、痛くなんてない。大丈夫。
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家のために政略結婚をしなさいと言うタイプではなかったし、ちょっと抜けているところはあるけれど、人の気持ちを思いやってくれる優しい人だったはずなのに。
断るなんて選択肢も与えられないほど格上の相手だった?
言い忘れていたとばかり便箋の終わりに詰め込まれた文章には、相手の名前さえも書かれてはいない。
実家からこの屋敷まで、馬車で順調にいって八、九日。手紙だけなら五日ほどで届くだろう。
逆算すれば、グレニスとのお出かけを楽しんでいたちょうどその頃、お父様は結婚承諾の返事を済ませてこの手紙を書いていたことになる。
———私は誰かの婚約者になったことも知らず、呑気にグレニスと過ごしていたのか。
初めてのデートだと、あんなに浮かれて。
涙は出ない。
代わりに、滑稽な自分がおかしくて乾いた笑いが洩れた。
「あは……。明日は火妖日だけど、もうお休みするしかないわね。メイド長にも明日、辞めますって話しに行かなくっちゃ」
「リヴっ!! 親に決められてどうにもならなくたって、辛いときに泣くくらいは自由なんだからね!?」
涙を溢れさせるマニーに力一杯ぎゅっと抱きしめられ、微かに目頭が熱くなる。
「うん……ありがとうマニー。……ねぇ、もしこの先うちの領地に遊びに来ることがあれば、いつでもうちの実家に泊まっていって? 私は嫁いでいないかもしれないけど、両親にも言っておくわ。大切な友人だから最高のおもてなしをして、って」
「……私、庶民なのに貴族のお屋敷でもてなされちゃうの……?」
「ええ、このお屋敷ほど立派じゃないけどね」
「絶対よ? うーんと期待して行くんだから!」
尽きることない悲しみを紛らわせるように、二人して下手くそな笑みを浮かべた。
断るなんて選択肢も与えられないほど格上の相手だった?
言い忘れていたとばかり便箋の終わりに詰め込まれた文章には、相手の名前さえも書かれてはいない。
実家からこの屋敷まで、馬車で順調にいって八、九日。手紙だけなら五日ほどで届くだろう。
逆算すれば、グレニスとのお出かけを楽しんでいたちょうどその頃、お父様は結婚承諾の返事を済ませてこの手紙を書いていたことになる。
———私は誰かの婚約者になったことも知らず、呑気にグレニスと過ごしていたのか。
初めてのデートだと、あんなに浮かれて。
涙は出ない。
代わりに、滑稽な自分がおかしくて乾いた笑いが洩れた。
「あは……。明日は火妖日だけど、もうお休みするしかないわね。メイド長にも明日、辞めますって話しに行かなくっちゃ」
「リヴっ!! 親に決められてどうにもならなくたって、辛いときに泣くくらいは自由なんだからね!?」
涙を溢れさせるマニーに力一杯ぎゅっと抱きしめられ、微かに目頭が熱くなる。
「うん……ありがとうマニー。……ねぇ、もしこの先うちの領地に遊びに来ることがあれば、いつでもうちの実家に泊まっていって? 私は嫁いでいないかもしれないけど、両親にも言っておくわ。大切な友人だから最高のおもてなしをして、って」
「……私、庶民なのに貴族のお屋敷でもてなされちゃうの……?」
「ええ、このお屋敷ほど立派じゃないけどね」
「絶対よ? うーんと期待して行くんだから!」
尽きることない悲しみを紛らわせるように、二人して下手くそな笑みを浮かべた。
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