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天文学部の肝試し

白昼夢?

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暗闇の中で声がする。
聞き覚えのある声…

…京子ちゃんの声だ。


「マコちゃん!マコちゃん!!
返事してってば!
そーいうの悪質だって!!」


気がつくと私は鏡の前に立ち尽くしていた。
京子ちゃんはそんな私を激しく揺さぶり、
懸命に声をかけていた。


「えっ…??あ、京子ちゃん?!
どこ行ってたの?!!
私!大変だったんだから!」


私は京子ちゃんの
肩を掴んで問い詰める。
こんな場所に
置き去りにするなんて流石に酷い…!

けれど京子ちゃんは謝るでもなく、
怪訝そうな顔をした。


「どこって、ずっとここに居たよ!!
マコちゃん、鏡見ながらボーッと
突っ立っちゃってさ!

もう10分くらい私の事
無視するんだもん!超怖かったよ!!」


「え??」


??…どういう事??
京子ちゃんは確かに居なくなってたし、
声なんてしなかった。

困惑する私を尻目に京子ちゃんは
プンスカ怒っている。


「イタズラならホントひどいよ!
今回は許すけど!もうやっちゃダメ!」


「…うん」


一応、生返事をしたものの
納得いかない。
だって確かにさっきまで彼女はいなかった。
私は反論しようと口を開く。
そこであることに気づいた。


「でも…!


…ん??」


手を見ると落とした筈の
懐中電灯が手に握られているのだ。
鏡に書かれた赤い文字もない。


「………」


「マコちゃん!なにしてるの!
先輩達もきっと心配してるよ!もう行こ!」


「あっ待って京子ちゃん!」


私は望遠鏡を担ぎ込むと
京子ちゃんを追う様にその場を走り去った。


校門前に行くと天文学部の
みんなが集まっていて
それぞれの報告をしていた。

誰も霊なんて見ていないし
何も起こらなかったそうだ。


噂は噂なのだと、
残念そうにみんなは笑う。
私はそれを見て黙り込むしか無かった。


「……」


…"あれ"はなんだったんだろう…。


私はみんなの輪から外れて
旧校舎を見上げた。
2階の窓から非常灯の緑の光が漏れている。

何かが立っていたのはあそこだ
…もちろん、今は誰もいない。


「…」


じっと旧校舎を眺めていると
急に後ろから肩をトンッと叩たかれた。


「うわあ!!?」


「泉?どうした?帰るぞ!」


私が凄く驚いたのを不思議に思ったのか
首を傾げながらも
祈先輩は私に笑いかけた。


「あ…そうですね帰りましょうか」


…あれは…夢…??だったのかな。
うん。きっとそうだ。

怖かったから、きっとそのせいで
鏡の前で立ったまま白昼夢を見たんだ。


そうじゃないと説明がつかない。
そうに決まってる。


うん、そう!!


私は変な考えを振り払って
祈先輩にワザと意地悪く笑いかけた。


「幽霊が出なくて残念でしたね!
祈先輩!」


それを聞いて
先輩は苦笑いしながら頭をかく、


「ああ、ホント残念だったよ…まぁ、
俺は諦めないけどな!」


話しながら
それとなく私達は校門を出ていく

私と先輩は家の方向が同じなので
部活帰りは一緒のことが多い。

そのいつも通りの帰路と 
いつも通りの祈先輩に安心感を覚えた。

さっき起こった奇妙な出来事が遠く、
夢の様に思える。


いや、夢だったに違いない。


この日
私は部活をして、いつも通りに帰った。 

…この時はまだ、そう思えた。


明日から起こる
更に奇妙な出来事のことなど
予想すらしていなかった…









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