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第二章⑤
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ギネヴィアは、すぐに見つかった。
魔術も剣術も優れているギネヴィアが本気で逃げてしまっていたら、こう簡単には探し出すことは出来なかっただろう。
ということは、ギネヴィアは間違ってしまった俺のことを嫌ってはいないということ……だと思いたい。
眩しさに目を瞑ったのを見て、キスの了承だと勘違いした俺は、ギネヴィアに嫌われてしまっても仕方ない。
だが、嫌われたままは嫌だった。
正直に言って謝ろう。
だけど、あの時ギネヴィアを可愛いと思って、キスがしたくなったことは俺の本心だ。
だから、許してくれるまで何度でも謝って、謝り倒すしか俺には出来ないだろう。
それに、ギネヴィアは俺のこと嫌いになっていないと……思う。
何故そう思うのかと言えば、理由は簡単だった。
ギネヴィアがいた場所が、二人の思い出の場所だったからだ。
夕日が沈みかけた白い花畑が広がる丘。
ここは、三年前、北部の経済が安定し始めた時、初めてサラン村で感謝の宴が開かれたときに二人で訪れた場所だ。
あの時、白い花畑で俺はギネヴィアに北部をどの領地よりも豊かな場所にすると誓い、ギネヴィアも俺に力を貸してくれると約束してくれたのだ。
それまで必死だった。
無知な俺はギネヴィアから教わることを一つ残さずに自身に叩き込み、領主として領民を導き、家臣になってくれた者たちを纏める為、本当に必死だった。
だから、結婚して三年の月日が経って初めて気が付いたのだ。
初めてあった時は、俺よりも背が高く体も大きいと思っていたギネヴィアが、とても細く小さな人だということにだ。
ギネヴィアの頭の先が俺の顎あたりにあって、白い肌の両手は小さく、折れそうなほど華奢で。
風にふわりと揺れるスカートから覗く白い足もとても細く、村からこそこそな距離のあるここまで歩かせて、足は痛くないだろうかと心配になるほどだった。
薄い胸、細い首筋、幼くも美しい顔。
十八歳になる女性には見えなかった。出会った当時から変わらない、十歳くらいの女の子にしか見えなかった。
それなのに、大人びた話し方、美しい所作、甘い香り、ふとした瞬間に見せる大人の女性のような色香の漂う表情。
とても不思議な人だと思った。
そして、彼女のことを何も知らない自分に気が付く。
彼女は自分のことをあまり話してくれない。
だから、隠れるように彼女の経歴を調べたが、それは表面的な物だけだった。
フェンサー伯爵の隠し子。平民の女性から生まれた庶子。現在十八歳で、俺の妻。
頭がよくて、複雑な魔術も使える。
剣術が並の剣士よりも優れていて、短期戦なら俺でも勝てそうにないほどの強さがある。
好き嫌いはなく、誰にでも優しい。
だが、フェンサー伯爵に引き取られるより前の経歴がどうやっても出てこなかった。
気になるのなら聞けばいいのに、聞けないまま三年も経ってしまい、こそこそ調べていたことなど格好悪くて知られたくなかった。
それでも、幼く見える妻を知りたいとこの時強く思ったのだ。
だから俺は……。
「ギネヴィア……」
「なあに?」
「君のことを知りたい」
俺がそう言うと、ギネヴィアは困ったような表情で言ったのだ。
「旦那様の妻で、貴方を誰よりも大切だと思っていますよ」
「そうじゃなくて!」
「ふふ。どうしたんですか? わたしのことですか? そうですね。食べ物に好き嫌いはありません。体を動かすことが好きです。旦那様のことも大好きですよ」
「……。俺も、俺もギネヴィアが好きだよ」
見えない壁を感じた。
拒絶ではないが、確かな壁を感じたのだ。
だから、深く聞くことを躊躇い、深く聞いて、触れてはいけない何かに触れてしまい、ギネヴィアがいなくなってしまうことを恐れて、俺はそれ以来何も聞くことが出来ないでいたのだ。
だけど、そんな弱い男ではギネヴィアの夫として失格だな……。
だが、今はあの時とは違う。
十年間。夫婦として過ごして来た絆が俺とギネヴィアの間にはある。
俺は、ギネヴィアのことをちゃんと知って、その上で本当の夫婦になりたいんだ。
魔術も剣術も優れているギネヴィアが本気で逃げてしまっていたら、こう簡単には探し出すことは出来なかっただろう。
ということは、ギネヴィアは間違ってしまった俺のことを嫌ってはいないということ……だと思いたい。
眩しさに目を瞑ったのを見て、キスの了承だと勘違いした俺は、ギネヴィアに嫌われてしまっても仕方ない。
だが、嫌われたままは嫌だった。
正直に言って謝ろう。
だけど、あの時ギネヴィアを可愛いと思って、キスがしたくなったことは俺の本心だ。
だから、許してくれるまで何度でも謝って、謝り倒すしか俺には出来ないだろう。
それに、ギネヴィアは俺のこと嫌いになっていないと……思う。
何故そう思うのかと言えば、理由は簡単だった。
ギネヴィアがいた場所が、二人の思い出の場所だったからだ。
夕日が沈みかけた白い花畑が広がる丘。
ここは、三年前、北部の経済が安定し始めた時、初めてサラン村で感謝の宴が開かれたときに二人で訪れた場所だ。
あの時、白い花畑で俺はギネヴィアに北部をどの領地よりも豊かな場所にすると誓い、ギネヴィアも俺に力を貸してくれると約束してくれたのだ。
それまで必死だった。
無知な俺はギネヴィアから教わることを一つ残さずに自身に叩き込み、領主として領民を導き、家臣になってくれた者たちを纏める為、本当に必死だった。
だから、結婚して三年の月日が経って初めて気が付いたのだ。
初めてあった時は、俺よりも背が高く体も大きいと思っていたギネヴィアが、とても細く小さな人だということにだ。
ギネヴィアの頭の先が俺の顎あたりにあって、白い肌の両手は小さく、折れそうなほど華奢で。
風にふわりと揺れるスカートから覗く白い足もとても細く、村からこそこそな距離のあるここまで歩かせて、足は痛くないだろうかと心配になるほどだった。
薄い胸、細い首筋、幼くも美しい顔。
十八歳になる女性には見えなかった。出会った当時から変わらない、十歳くらいの女の子にしか見えなかった。
それなのに、大人びた話し方、美しい所作、甘い香り、ふとした瞬間に見せる大人の女性のような色香の漂う表情。
とても不思議な人だと思った。
そして、彼女のことを何も知らない自分に気が付く。
彼女は自分のことをあまり話してくれない。
だから、隠れるように彼女の経歴を調べたが、それは表面的な物だけだった。
フェンサー伯爵の隠し子。平民の女性から生まれた庶子。現在十八歳で、俺の妻。
頭がよくて、複雑な魔術も使える。
剣術が並の剣士よりも優れていて、短期戦なら俺でも勝てそうにないほどの強さがある。
好き嫌いはなく、誰にでも優しい。
だが、フェンサー伯爵に引き取られるより前の経歴がどうやっても出てこなかった。
気になるのなら聞けばいいのに、聞けないまま三年も経ってしまい、こそこそ調べていたことなど格好悪くて知られたくなかった。
それでも、幼く見える妻を知りたいとこの時強く思ったのだ。
だから俺は……。
「ギネヴィア……」
「なあに?」
「君のことを知りたい」
俺がそう言うと、ギネヴィアは困ったような表情で言ったのだ。
「旦那様の妻で、貴方を誰よりも大切だと思っていますよ」
「そうじゃなくて!」
「ふふ。どうしたんですか? わたしのことですか? そうですね。食べ物に好き嫌いはありません。体を動かすことが好きです。旦那様のことも大好きですよ」
「……。俺も、俺もギネヴィアが好きだよ」
見えない壁を感じた。
拒絶ではないが、確かな壁を感じたのだ。
だから、深く聞くことを躊躇い、深く聞いて、触れてはいけない何かに触れてしまい、ギネヴィアがいなくなってしまうことを恐れて、俺はそれ以来何も聞くことが出来ないでいたのだ。
だけど、そんな弱い男ではギネヴィアの夫として失格だな……。
だが、今はあの時とは違う。
十年間。夫婦として過ごして来た絆が俺とギネヴィアの間にはある。
俺は、ギネヴィアのことをちゃんと知って、その上で本当の夫婦になりたいんだ。
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