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第九話 初戦闘

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 冒険者ギルドでキリルさんに見立ててもらった討伐系の依頼は、コボルトの牙を10個集めるというものだった。
 コボルト自体は、王都を出て少し先の場所にいるそうだ。そして、Fランクの冒険者でも討伐できるくらいに弱い魔物だという。
 
 さっそくコボルト討伐に向かった訳だけど、この世界での実践は今回が初めてだ。
 僕は、コボルトが出ると教えてもらったポイントに向かう間に、一生に気になっていたことを聞いた。
 
「なぁ、一生の職業って結局なんだったんだ?」

 そうなんだよ。実は、相棒の職業を僕は知らなかったのだ。
 僕の職業は、意味わからないものだったから、もしかすると一生も?
 そう考えると、なかなか聞くに聞けなかったんだよな。
 そんな僕の気遣いなんて必要なかったみたいで、一生はあっさりと自分の職業を教えてくれた。
 
「俺は侍だ。剣道やってたし、俺に合った職業だよ。陽騎もそう思うだろ?」

 確かに。一生は、剣道部のエースだった男だ。
 僕から見ても、一生の竹刀捌きは凄かった。
 
「なるほどな。てかさ、一生? 武器はあるのかよ?」

「あー、それな。武器屋見たんだけど、刀ってすごく高くて今の俺には手が出せなかった」

「えっ? まさか素手で戦う気かよ?」

 まさかの無手戦法に僕は、歩みを止めていた。
 僕は、鬼姉によって無手での戦い方も叩き込まれているけど、剣道一筋だった一生に無手戦法は色々ときついだろうと思ったのだ。
 だけど、一生もバカではなかったみたいで。
 
「心配すんな。武器ならちゃんと考えてる」

「そうなのか? まぁ、何かあったら僕が―――」

「陽騎は戦っちゃだめだ。俺が守るから、陽騎は俺の後ろにいて」

 まさかの戦闘参加拒否に僕はあんぐりと口を開いてしまっていた。
 
「な、なに言ってんだよ!! 僕も戦うからな!」

「だーめ。だって、陽騎の職業は嫁でしょ? だったら大人しく俺に守られなさい」

 くっ、ここであの謎の職業を口に出すなんてズルい。しかし、ここで引き下がっては男が廃るってもんだ。
 
「嫁だろうが何だろうが、僕は戦うからな!!」

「はぁ。分かった。でも、先頭には俺が立つ。陽騎は後ろから援護してくれるだけでいいよ。というか、後ろで俺のこと応援してくれるだけでいいから」

「はああ?? 何言ってんの? 頭大丈夫?」

 一生の言いように、僕は思わず呆れた声を上げてしまっていた。
 何それ、応援だけでいい? ふざけんな!
 僕だって戦えるんだってところ見せてやるって気が心底湧いてきた。
 だけど、そんなこと言うと揉めそうだったので、ここはひとまず一生の言うことに頷くことにしておいた。
 
「はあああぁ。分かった、今回は様子見ってことで……。でも何かあれば僕も戦うからな」

 最後は小声で付け足す。
 くっくっく。一生のやつ、僕が大人しく引き下がったとこれで思ったことだろう。
 
「くすくす。はいはい。応援頼むよ」

「おう、任せろ」

 こうしている内に、教えてもらったポイントについていた。
 周囲を警戒しつつ見まわすと、2匹のコボルトが視界に入った。
 ハンドサインで一生が僕に合図を送ってきた。
 僕はそれに頷いて、態勢を低くして一生の出方を見守ることにした。
 
 しかし、ここで予想外の行動を一生がとったことで僕は焦りに焦ったのだ。
 
「うおおおおおおお!!!」

 一生は何を思ったのか、僕から距離を取った場所まで駆け出したと思ったら、咆哮を上げていたのだ。
 そんな事をすればあそこに見えるコボルト以外の魔物も寄ってきてしまう。
 僕は慌てて一生の助太刀に向かおうとしたけど、それは一生によって止められてしまった。
 
「陽騎は来るな! 陽騎はそこで大人しく俺を応援してくれればいいから!!」

 そんなことを言いながら、周囲に潜んでいたであろう10匹は超える数のコボルトと応戦していた。
 コボルトは、僕には目もくれず一生に群がっていた。
 そして、一生によってあっという間に血祭りにあげられていた。
 
 僕が呆気に取られている間も、一生は定期的に咆哮を上げて周囲の魔物を引き寄せては、そいつらを血祭りに上げていったのだった。

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