上 下
13 / 13

最終話 気持ちを伝える勇気

しおりを挟む
 ジグが好きすぎて書類婚をしたというユーリと、ユーリが好きでその身を差し出したジグ。
 ジグは、自分が遠回りしていただけなのだと、この時初めて理解したのだ。
 自分のやらかした恥ずかしい行為に、ジグは死ぬほど恥ずかしいと全身を真っ赤に染めていた。
 両手で顔を覆ったジグは、素直に真実を口にしていた。
 
「わたしも、殿下が好きです……。ごめんなさい。イヴァンは、殿下とわたしの子です……」

 小さくそう口にするジグの告白に、ユーリは目を丸くする。
 
「俺もジグリールが好きだ! でも……、俺は、お前とそういう行為をした覚えがないのだが……。俺との子とはどういうことだ?」

 身に覚えがないと言いつつも、ジグの言葉を信じてくれるユーリ。そんなユーリを好きだと思いつつも、ジグは、震える声で恥ずかしそうに呟くのだ。
 
「えっと……。殿下は覚えていないと思いますが……。魔王は消え去る前に、最後の力で殿下に呪いをかけたんです……。それで、暴走した殿下と……」

 そう言って、顔を赤くするジグを見て、ユーリは頭を机に打ち付けるようにして叫ぶように言ったのだ。
 
「ごめん!! 覚えていないが、俺が無理やりジグリールの処女を散らしたんだな! ごめん! ちゃんとやり直そう! 今度はやさしく―――」

 ごちっ!!
 
 鈍い音とともに、ユーリは床に崩れ落ちる。
 オーエンが、興奮していろいろ欲望を垂れ流そうとするユーリを黙らせたのだ。
 そして、疲れたように言うのだ。
 
「はあ。お前たちは、お互いに言葉が足りないんだよ。ちゃんと、話して、気持ちを伝え合え。たくっ」

 そう言われたジグとユーリは、お互いに恥ずかしそうに視線を合わせた後に、微笑み合い、同時に言うのだ。
 
 
「殿下。お慕いしております」

「ジグリール。好きだ。愛してる」

 思いを伝えあった二人は、照れくさそうに微笑み合ったのだった。
 
 
 その後のユーリの行動は早かった。
 次の日、目を覚ましたイヴァンに、自分が父親だと名乗りを上げたのだ。
 しかし、イヴァンは、ユーリを嫌そうに見た後に、ジグに抱き着いて言うのだ。
 
「まぁま、へんなおじんがいる~」

「へ、へん?! おじん?!」

 イヴァンに拒否されるだけではなく、おじさん呼ばわりに傷ついたユーリはその場で膝を付いて項垂れるのだ。
 そんな、イヴァンを抱きしめたジグは、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに言うのだ。
 
「イヴァン。今までごめんね。パパがいなくて寂しい思いをさせてしまって。殿下がイヴァンのパパなのよ」

「ううん。イヴ、まぁまがいればいいの!! ぱぁぱもおじんもいらないの!!」

 そう言って、ジグにびったりと抱き着いたイヴァンは、足元で悲しげに見上げてくるユーリにだけ見えるように、べっと舌を出したのだ。
 
 それを見たユーリは、いろいろと理解していた。
 利発な我が子が、母親であるジグを愛していることを。
 ユーリは、予感したのだ。この先、息子と愛するジグを取り合う日が来ることを。
 いや、ジグ争奪戦がすでに始まっていて、自分が劣勢に立たされていることに気づいてしまったのだ。
 
 それは、思いが通じ合い、離れて暮らすことはないとユーリがジグを王都に連れて行こうとした時だった。
 イヴァンは、友達と離れたくないと泣いたのだ。
 それを見たジグは、引っ越しを躊躇ったのだ。
 そんなやり取りが続き、ジグが王都に来たのは、だいぶ後になってからだった。
 その間ユーリは、何頭もの馬を乗り換えて、何度も遠い王都とハジーナ村を行き来していたのだ。
 
 結局、ジグとイヴァンがユーリの元で暮らすようになるまで、一年ほどの月日を要したのだ。
 
 その後、ジグとユーリは周囲に祝福されながら正式な結婚式を挙げたのだ。
 そして、ジグを愛するユーリとイヴァンの間でのジグ争奪戦は、王宮での名物となっていくのだ。
 
 ジグは、思いを口にすることの大切さを知ってからは、恥ずかしくても思ったことを口にするようになっていた。
 それは、ユーリも同じだった。
 お互いに言葉が足りず、行き違いをして遠回りをしてしまった二人は、今ではなんでも言い合うようになっていた。
 その所為で、喧嘩をすることもあったが、そのたびに仲直りそして、前よりもその絆を深めていったのだ。



『聖女様から「悪役令嬢竹生える」と言われた男爵令嬢は、王太子の子を身籠ってしまったので、全力で身を隠すことにしました。』 おわり

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

約束を守れなかった私は、初恋の人を失いました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:334

大嫌いな幼馴染(バツイチ)と結婚することになりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:2,185

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:979pt お気に入り:15

ある国の王の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,108pt お気に入り:99

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:12,112pt お気に入り:4,077

【完結】浮気の証拠を揃えて婚約破棄したのに、捕まってしまいました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:447pt お気に入り:3,468

処理中です...