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ファイルⅡ:誘拐事件
#7
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四年前の夏。あたしは何か欲しいわけでもなかったが、家に帰るのが億劫で最近は途中駅で降り一時間程ぶらついてから帰るのが日課になっていた。母は一八時過ぎにならないと帰ってこない。勤め先も外回りのルートも知って居る。だからと言って、変なところで降りたところを同じ学校の人に見られたら、後々厄介になる。だから多少遠回りにはなるが、多少の言い訳で何とかなる様なルートを通っている。本当に家に帰りたくないという理由だけなので、道草を食うようなことはほとんどなかった。
今日も今日とて寄り道するために、この駅で下車した。駅から家までは普通に歩けば、十五分程だが、敢えて裏路地や回り道をして、家路に着く。駅の繫華街から数本目の路地を曲がり、百メートルほど歩くと小さい公園の様な広場に出る。公園というよりは空き地に近い。
お目当ては、この時間、この公園で日向ぼっこを満喫している、数匹の猫だった。当然撫でることもあるが、大体は彼らに交じって、暫くボーっとしている。
この公園には、三台ベンチがあるが、その中の一台、木陰になっていて、風通しも良いのがある。猫たちはそのベンチの周りにしばしば、各々の寛ぎ方で眠っている。最初こそは警戒もされたが、何回か通えば彼らも顔か匂いを覚えるのか、今では特に気にしていない用だった。何なら隣で薄目を開けてゴロゴロしているキジトラは、「はよ撫でんかい」みたいな顔でこちらを見つめている。
この子は、鼻先から髭をなぞる様に指で擦られるのが好きらしく、十回ほど繰り返すと、満足する。
彼等は家がないがそれでも生きていける。寿命は当然人間の方が長いが、彼等も彼等なりに逞しい。この間も、あたしを仲間だと思ったのか、捕まえたばかりの鳥を足もとに持ってきたことがあった。それは彼等が生きていくための方法であり、無駄な殺生ではない。生きていくには、何かを殺さねばならない。それはあたし達人間にも言えることだった。
日常的に生活するために、家畜や魚等の生物を殺し、その命を頂いている。
その家畜や人間に害を及ぼす虫や細菌、ウイルスなどは駆除対象になる。
生き物だけじゃない。
遥か昔、科学を生かすために魔法や怪奇現象という類を否定してきた。
自由な暮らしをするために奴隷を雇い、使えなければ殺害した。
日本にも悪事を働いた者には終身刑や極刑などがある。
そして、あたしみたいな常軌を逸した存在は、社会的に殺される。いじめや虐待、差別など、精神的にじわじわと首を絞めていく…。
家がなくとも生きていける猫の彼等と、家に帰りたくないが帰らないと生きていけない人間のあたしが一緒に居る光景は、余りにも滑稽だろう…。
そんなことを毎日思っているが、何かが変わったことはないし、変わることもなかった。女子高生だろうか、表の方の繁華街から聞こえる、黄色い声はあたしには、届かない。
「お嬢ちゃん、何してるの?その制服、西中のだよね?」
公園の奥の方から五人組の男が近づいてくる。服装はアロハシャツやTシャツなどで、一見は大学生かそういう人たちだろうが、背丈や筋肉の付き方、声の高さ等から多分高校生なのだろう…。
「別に、疲れたから休憩。」
五人組から目を逸らしながら、ぶっきら棒に答えた。
「ふ~ん、じゃぁこれから暇?」
「暇じゃないです、これから帰るので。」
「ちょっとだけだからさ。」
この人たちは、他人の話は聞いているのだろうか…。暇じゃないと言っているのに、諦めの悪い連中だ。急いでベンチから離れる。猫たちはもう既に散ってしまった…。
「ダメです。」
「そんな事言わずにさ…。」
いつの間にか囲まれてしまっていた。親より怖いものはないと思っていたが、流石にこの状況はまずい…。繁華街から目立たない位置を選定したのが間違いだった…。心底後悔した。
そうこうしている間に、腕を掴まれ、無理矢理連れていかれる。助けを呼んだって誰も来ない…。心配してくれる親も友だちも居ない…。
誰か…助けて…。
「何してるんだ?」
背後の方から、この五人とは違う男性の声がした。振り返ると、夏だというのに、黒いミリタリージャケットを着こんだ男が立っていた。
今日も今日とて寄り道するために、この駅で下車した。駅から家までは普通に歩けば、十五分程だが、敢えて裏路地や回り道をして、家路に着く。駅の繫華街から数本目の路地を曲がり、百メートルほど歩くと小さい公園の様な広場に出る。公園というよりは空き地に近い。
お目当ては、この時間、この公園で日向ぼっこを満喫している、数匹の猫だった。当然撫でることもあるが、大体は彼らに交じって、暫くボーっとしている。
この公園には、三台ベンチがあるが、その中の一台、木陰になっていて、風通しも良いのがある。猫たちはそのベンチの周りにしばしば、各々の寛ぎ方で眠っている。最初こそは警戒もされたが、何回か通えば彼らも顔か匂いを覚えるのか、今では特に気にしていない用だった。何なら隣で薄目を開けてゴロゴロしているキジトラは、「はよ撫でんかい」みたいな顔でこちらを見つめている。
この子は、鼻先から髭をなぞる様に指で擦られるのが好きらしく、十回ほど繰り返すと、満足する。
彼等は家がないがそれでも生きていける。寿命は当然人間の方が長いが、彼等も彼等なりに逞しい。この間も、あたしを仲間だと思ったのか、捕まえたばかりの鳥を足もとに持ってきたことがあった。それは彼等が生きていくための方法であり、無駄な殺生ではない。生きていくには、何かを殺さねばならない。それはあたし達人間にも言えることだった。
日常的に生活するために、家畜や魚等の生物を殺し、その命を頂いている。
その家畜や人間に害を及ぼす虫や細菌、ウイルスなどは駆除対象になる。
生き物だけじゃない。
遥か昔、科学を生かすために魔法や怪奇現象という類を否定してきた。
自由な暮らしをするために奴隷を雇い、使えなければ殺害した。
日本にも悪事を働いた者には終身刑や極刑などがある。
そして、あたしみたいな常軌を逸した存在は、社会的に殺される。いじめや虐待、差別など、精神的にじわじわと首を絞めていく…。
家がなくとも生きていける猫の彼等と、家に帰りたくないが帰らないと生きていけない人間のあたしが一緒に居る光景は、余りにも滑稽だろう…。
そんなことを毎日思っているが、何かが変わったことはないし、変わることもなかった。女子高生だろうか、表の方の繁華街から聞こえる、黄色い声はあたしには、届かない。
「お嬢ちゃん、何してるの?その制服、西中のだよね?」
公園の奥の方から五人組の男が近づいてくる。服装はアロハシャツやTシャツなどで、一見は大学生かそういう人たちだろうが、背丈や筋肉の付き方、声の高さ等から多分高校生なのだろう…。
「別に、疲れたから休憩。」
五人組から目を逸らしながら、ぶっきら棒に答えた。
「ふ~ん、じゃぁこれから暇?」
「暇じゃないです、これから帰るので。」
「ちょっとだけだからさ。」
この人たちは、他人の話は聞いているのだろうか…。暇じゃないと言っているのに、諦めの悪い連中だ。急いでベンチから離れる。猫たちはもう既に散ってしまった…。
「ダメです。」
「そんな事言わずにさ…。」
いつの間にか囲まれてしまっていた。親より怖いものはないと思っていたが、流石にこの状況はまずい…。繁華街から目立たない位置を選定したのが間違いだった…。心底後悔した。
そうこうしている間に、腕を掴まれ、無理矢理連れていかれる。助けを呼んだって誰も来ない…。心配してくれる親も友だちも居ない…。
誰か…助けて…。
「何してるんだ?」
背後の方から、この五人とは違う男性の声がした。振り返ると、夏だというのに、黒いミリタリージャケットを着こんだ男が立っていた。
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