探偵注文所

八雲 銀次郎

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ファイルⅥ:詐欺捜査

#18

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 キーホルダーを持っていたからとは言え、必ずしも演奏者とは限らない…。人数制限で溢れてしまった、控えのメンバーかもしれない。
 しかも、彼女は『手練れた奏者』と言い切った。
 確かに、サックスを吹けていた時期は、唇が切れていたり、右手の親指にタコができていたりと、少し観察すれば、分かったが、今はない…。
 「目に見えての傷や怪我は、時間が経てば当然、分からなくなるものです。
 ですが、身体に沁みこまれた、習慣や癖は、中々抜けるものじゃありません。」
 そう言うと、京子さんは自分の胸元に手を置き、大げさに2・3度、深呼吸をした。
 当然だが、肩が上下に動き、肺に空気が入っていくのが分かる…。
 「あ…。」
 「そうです、大概の呼吸法は胸式呼吸と言い、胸や肩を膨らませて呼吸します。
 ですが、スポーツ選手や音楽家と言った、酸素を多く使う人にとっては、お腹を膨らませて呼吸する、腹式呼吸の方が、効率が良いです。
 真田さんは、無意識の内に、腹式呼吸を日常的にしているのは、昼に外で話している時に、気が付きました。」
 昨日の電車でもそうだったが、彼女らの観察眼は鋭い…。質問に答えている間に、京子さんは、私の無意識に気が付いていた。
それだけでも凄いのに、彼女の言葉は、まだ止まらない。
 「それと、昼の外気温度は30℃以上あったにも関わらず、貴女は少し汗を掻いた程度で、済んでいました。
昔、知人から聞いたんですが、コンサートホール等のステージ上は、季節や時間によっては、40度を超えることもあるそうです。
 それ程、ステージに立つことになれた人物になります。
 そして、極めつけは今の貴女の座り方です。」
 京子さんは軽く指で私の腰回りを示し、更に続ける。
 「サックスという楽器は、身体の前に構える方法と横に構える方法があるらしいですね。
 貴女が、ベンチの右側に座っているのは、横に構えた際に、楽器が椅子の淵に当たらない様にするため。
 違いますか?」
 最後の言葉は、一番口調が強かった。自信があったのか、得意げな表情も見せていた。
 「御見それしました…。お察しの通り、私は、中学の頃は、全国大会に二度出場した、吹奏楽部のサックス奏者です。
 ただ、ある病気の所為で、楽器が吹けなくなり、今に至ります…。」
 「それも調べました。私たちのメンバーにそういうことに詳しい人いるので…。
 ですが、それは今は置いておきましょう。目の前の事が最優先です。」
 それを言い終えた後、まるでタイミングを見計らったかの様に、公園の入り口に大きな黒い車が停車した。
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