【完結】捨てられた薬師は隣国で王太子に溺愛される

青空一夏

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19 失墜する偽聖女とギルベルト

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 それは、聖なる祝祭のはずだった。

 王国でもっとも尊き儀式――国王陛下の生誕を祝うその日、王城の大広場には、貴族と市民が幾重にも列をなし、厳粛な空気が満ちていた。

 空は、まだ夜明けの余韻を残していた。だが、朝日が顔を出すはずの東の空は、灰色の雲に覆われ、冷えた風がビュウビュウと吹きつけている。

 それでも誰もが信じていた。
 聖女が「快晴」と予言したのだから、と。
 あの“邪なる者”――リーナを追放した今こそ、神の祝福が戻るのだと。

 その瞬間は、開式の合図とともに訪れた。
 第一の鐘が鳴り響いたそのとき――空が、割れた。

 まばゆい閃光が雲の裂け目を走り、雷鳴が王都全土を震わせる。
 稲妻は、まっすぐに聖女が立つ神殿の塔を貫いた。

 尖塔が砕け落ち、石片が空を舞う。白煙とともに、崩れた破片が聖女の背後に降り注いだ。

 騒然とする民衆の中、誰もが見た。――ミレイユの手から滑り落ちた“聖杖”が、雷の余波を受け、黒く焦げ、砕けていく様を。火の粉を散らして、神の象徴は音もなく崩れたのだ。

 その光景は、疑いようのない“神の否”。

「……これは神の罰だ!」
「偽りの聖女め、神の怒りが天より下ったのだ!」
「偽者を捕らえろ! 神の名を穢した罪人だ!」

 貴族たちは顔をしかめながらミレイユを睨み、民衆は口々に罵声を浴びせながら、聖女を指差した。ミレイユは顔面蒼白となり、膝から崩れ落ちた。

 ◆◇◆

 雷が落ちたその日の午後、王宮の大広間には、沈痛な空気が流れていた。神殿の崩落とともに、“聖女ミレイユ”が偽りの聖女であったことが明らかになった今、王国の混乱は頂点に達していた。貴族たちは顔色を変え、王と重臣たちは、沈黙の中で重く裁定の時を迎えていた。

 玉座の間の中央に、ミレイユとギルベルトが引き出された。ミレイユは顔色を失い、うつむいたまま。ギルベルトは顔をこわばらせながらも、自分は無関係だと言いたげな表情を浮かべていた。

「この国が神の加護を失ったのは、誰の咎か――」

 国王の静かな声が、玉座の間に響く。

「オリオル国より届けられた、マクシミリアン王太子殿下の使者の報告により、真の聖女の所在は明らかとなった」

 侍従が手にした巻物を広げる。そこには、“淡いミントの髪とエメラルドの瞳を持つ女性が神獣を従え、数々の奇跡を起こした”という記録が、はっきりと記されていた。侍従がそれを読み上げると、玉座の間に緊張が走る。

「リーナが……本当の聖女?」

 ギルベルトが思わず名を漏らした。

 国王はその声に目を細める。

「その者こそ、かつて貴様が婚約を破棄した相手であったな? 聖女にして、今や隣国オリオルの王太子妃と噂される女性――その者を追放した罪。国に混乱をもたらした責は、重い」

 ミレイユが震えながら声をあげる。
「私は……神の声を……聞いたはずなのです……私こそが聖女です……」

「黙れ。神の名を語るに値しない。貴様は偽物だ! 陛下を欺きおって!」
 重臣のひとりが、吐き捨てるように言った。

「貴様が“聖女の名を偽り、王家を欺いた罪”は明白。更に、ギルベルト。貴様もまた、虚偽の聖女と共に王家の信を損なわせた。貴様らが真の聖女にした仕打ちに、神はお怒りになったのだ。その咎、免れること能わず」

 ギルベルトは反論しようと口を開いたが、すでに誰も彼を見ていなかった。

「両名の罪は、神をも欺いた重罪に等しい。よって、本日をもって両名の名と籍を抹消し、合法国エルノスへ

 その瞬間、ミレイユが悲鳴をあげ、ギルベルトが膝をつく。
「いやよ! そんな……私は聖女なのよ……っ。ど、? あんまりだわ」

 その日、かつてこの国を神の加護に導いたと謳われた偽聖女と、その恋人とされたギルベルトは、誰にも見送られることなく、馬車に乗せられて宮殿を去った。となるために……


 。:+* ゚ ゜゚ *+:。。:+* ゚ ゜゚ *+:。
 ※次回、ふたりの視点で地獄の奴隷生活です。それから、リーナ視点となり、甘い生活を描き、完結となります。引き続きお楽しみください。

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