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4-3 ライモンド・パッチーニ男爵視点

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「残念ですよ、父上。もし、心から母上に謝罪する態度が見られたら、少しは結果も違ったかもしれません。だが、母上と再婚すると言い出したり、アントニエッタまで捨てようとするとか、あなたの言動にはがっかりです。しかも終いには、わたしをナイフで刺そうとした。本当に残念です」

「ゆ、許してくれ。殺人未遂なんて・・・・・・そんなつもりじゃなかったんだ。つい逆上してしまって、殺すつもりなんてもちろんない」
 床に頭をこすりつけながらわたしは泣いた。

「可哀想な人ですね。こんな親でも学費を払ってくれたことには感謝しています。ですから罪人にまではしませんよ。ただ、縁は切るし、二度ともう会うことはありません。あなたから貰った金の使わなかったぶんは返しますよ。さようなら」

「え? 金は全部使ったのではないのか?」

「使いませんよ。学生の身分であのような大金を使うはずがないでしょう? それに、わたしは元々堅実な生活を好み、分不相応な贅沢はしない主義です」
 無表情な顔が余計アルフィオの美貌を際立たせていた。どんなにわたしが謝っても、息子は振り返らずそのまま屋敷から去って行く。

 招待客も無言で帰っていき、パーティホールには私と両親だけがぽつんと残った。アントニエッタも私に別れを告げずに、いなくなっていた。










 後日、アルフィオに送った金の半分ほどが戻ってきた。パッチーニ男爵家の屋敷は処分し、もっと小さな屋敷に引っ越す。昔ほど裕福ではなくなったが、生活はできている。

 だが、わたしは永久に自慢の息子を大勢の目の前で失った。パーティホールでの醜態を見た友人達は去って行き、今では一族の者からも笑いものになっており、訪ねて来る人は誰もいない。

 わたしは生きながらにして、社交界から存在を抹殺されたのだ。

 恥ずかしさのあまり、わたしは外に出ることもできなくなった。それは父上も同じで母上も屋敷に引き籠もり、二人とも生きる気力がなくなったのか、あっけなく病死した。



 
 今ではひとりぼっちだ。今までいた使用人は全て辞めていき、新たに雇った3人の使用人はわたしを見下し、陰で笑っているのも知っている。



 本当にひとりぼっちで、心が凍りそうだ。




 そうして気がついたんだ。本当に息子のことを愛していたんだと。優秀な息子で自慢したかったのもあるけれど、あいつの存在がわたしの生き甲斐になっていたことを、今になって気づく。

 本当に大事な存在だったんだよ。今更なにを言っているのかと思われるだろう? でも、失ってから初めてわかることはこの世にたくさんあるのさ。

 わたしは生き甲斐をなくし、もうなんの為に生きているのかもわからない。食べ物も美味しくないし、なにより食欲もないんだ。

 生きていることがたまらなく苦痛に感じる。誰か・・・・・・助けてくれよ。



 ”生きる屍” 世間の人はわたしをそう呼ぶのだった。








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