兄皇帝は妹皇女を深く愛する

青空一夏

文字の大きさ
3 / 7

お兄様との初めての夜

しおりを挟む
「お前のせいで大事な妃が死んだ。お前を身ごもったせいで‥‥!どこの馬の骨かもわからん男の子どもを今まであんなに可愛がっていたとは!」
お父様は私を汚いものを見るような蔑んだ目で見た。

「お父様‥‥」

「言うな!お前は私の娘ではない。」
お父様はぞっとするほど冷ややかな声で言った。









「ほら、パンをもう一つお食べ?」
お兄様がこっそりと食べ物を持ってきてくれた。

「ありがとう。でも食べたくないわ」

「だめだよ。ちゃんと食べて」
お兄様は私の口のちぎったパンを放り込んだ。

「毎日、こうして会いに来るよ。エリザベスが来てくれたように」
お兄様はそう言って私の髪を撫でた。

お兄様、ずっと一緒にいたい‥‥
言葉には出せない思いは、日に日に増していった。

血がつながっていないなら、お兄様のそばにいられる?
ううん、無理だわ。だって、私は不義の子の烙印を押された元皇女。
将来の皇帝になるお兄様は、もう手の届かない人なんだ‥‥

私の目から一粒の涙が流れた。








私が18歳の誕生日を迎えたとき、お父様が宮殿に私を呼び出した。

お兄様はお父様の一段下の皇子の椅子に座っていた。

臣下もいるなかで、お父様は私に近づき、思いもかけないことを言ったの。

「エリザベス!お前は皇妃にそっくりだ。金髪にエメラルドの瞳、ますます愛おしい皇妃にそっくりになっていく!あぁ、いいことを思いついた。お前は余の愛妾になれ。娘ではないのだからかまわないだろう。はははは!実にいい考えだ」
あまりのことに私はブルブルと身を震わせた。

「嫌か?嫌ならお前は王宮にいる資格はない!!即刻、出て行け!皇帝の命令に背くのだから罰を与えよう。お前は明日、娼館に売ろう。その麗しい容姿だ、客もたくさんつくだろう!!」

お父様の目を見ると、もうかつての穏やかな愛に満ちた色あいはすっかり失われて、そこにあるのは狂気だった。

溺愛するお母様を死に追いやったお父様は、完全に心が壊れていて、その目は異様なほどギラギラしていた。

「父上!なにをおっしゃるのです!!戯れ言だ。誰も本気にしてはならない。父上は乱心している」
お兄様は大きな声を張り上げて臣下に向かって叫んだが誰もなにも言わなかった。

「狂っているだと?まさか、正気だ。今までにないほど余は気分がいい!皇子はエリザベスと仲が良すぎる。この女は卑しいどこの誰ともわからぬ男の娘だ。かばうことはない。エリザベスが娼館の行くまで皇子を閉じ込めておけ。二人で逃げるようなことがあれば、見逃した奴もそれに関わったすべての者もそんなことを極刑に処す」


「父上!!お考え直しください。エリザベスは皇妃の子です。天国にいったナタリー皇妃皇妃が悲しまれます」

「あぁ、ナタリー皇妃は天国に行った。しかし、それは誰のせいだ?このエリザベスの父親のせいだろう!!」

狂っている‥‥お兄様のちいさなつぶやきがお父様にもきこえたようだ。

「皇子の目が覚めるよう、地下牢にエリザベスが娼館に行くまで閉じ込めろ!!明日の昼まで出してはならん!!」

騎士達がお兄様を取り囲んで、無理矢理、地下牢へと連れていくのを私は胸が張り裂ける思いで見ていた。










私は夜中にそっと抜け出して地下牢に向かった。

「お願いよ。私がする最後のお願いだわ。娼婦になる前にお兄様に会いたいの」

懇願する私に地下牢の監視人は頷いた。

「おかわいそうな皇女様。夜明け前には戻ってください。わたしはなにも見ていないことにします」

「ありがとう」

私はランプを片手に地下牢へと降りていった。

「お兄様!」

私は牢の鍵を開け、お兄様の胸に飛び込んだ。

「エリザベス!一緒に逃げよう。ここから、この国から逃げるんだ」

私は首を横に振った。

そんなことをすれば、それに関わった者全てが殺される。
お兄様もさっきの監視人もただでは済まない。
そして、国境まで逃げることは不可能なのは誰が考えてもわかること‥‥

「私、今だから言うわ!大好きだったの。お兄様をずっと。ずっと一緒にいたかった」

「僕も大好きだ。絶対に助け出すよ。必ず迎えに行くから」

私達はその夜、愛を確かめあった。

切ないキスを何度もかわすと、泣きたくなるくらいお兄様を愛していることを実感したわ。

手を握りしめ、足をからませて、離れがたいお互いの身体をきつく抱きしめた。

「皇女様、朝になります。お戻りください」
さきほどの監視人があわただしい声で告げて、私はお兄様に別れを告げた。

「お兄様、お元気で」

「エリザベス!待っていて、必ず迎えに行く。絶対に、生きていて。なにがあっても僕のこの愛は変わらない」

私は一番粗末な馬車に乗せられ、けばけばしい娼館に向かうのだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

【完結】それがわたしの生き方

彩華(あやはな)
恋愛
わたしの母は男爵令嬢。父は国王陛下。 わたしは国のために生きている。 そんなわたしでも、幸せになっていいですか?

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

リザベルの恋

はなまる
恋愛
 リザベルはアニマール国の王子ラビン殿下と婚約者だったが卒業パーティで婚約破棄を言い渡される。婚約はリザベル有責と言われ父と国王に苦言を呈す。そしてラビン殿下の側近のキースが真実を言ってくれてラビンが悪いことがはっきりする。そんな時リザベルはやけになってアンソニーの誘われたと思って後悔するが怪我をしてまたキースに助けられる。そして二人の距離は近づきキースを意識するようになって行く。ふたりの付き合いを母から勧められキースの優しさにずぶず溺れて行くリザベルだったが、ある日を境にキースがばったり姿を見せなくなる。  どうしてなの?あなたもやっぱり私を裏切るつもり?もう私は待つのは疲れたの。言い訳なんか聞くつもりはないわ。あなたなんかこっちから願い下げよ。そんな気持ちになって行くリザベルだったが真実は思わぬ方に…

「二年だけの公爵夫人~奪い合う愛と偽りの契約~」二年間の花嫁 パラレルワールド

柴田はつみ
恋愛
二年だけの契約結婚―― その相手は、幼い頃から密かに想い続けた公爵アラン。 だが、彼には将来を誓い合った相手がいる。 私はただの“かりそめの妻”にすぎず、期限が来れば静かに去る運命。 それでもいい。ただ、少しの間だけでも彼のそばにいたい――そう思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 社交界では意地悪な貴婦人たちが舞踏会やお茶会で私を嘲笑い、 アランを狙う身分の低い令嬢が巧妙な罠を仕掛けてくる。 さらに――アランが密かに想っていると噂される未亡人。 彼女はアランの親友の妻でありながら、彼を誘惑することをやめない。 優雅な微笑みの裏で仕掛けられる、巧みな誘惑作戦。 そしてもう一人。 血のつながらない義兄が、私を愛していると告げてきた。 その視線は、兄としてではなく、一人の男としての熱を帯びて――。 知らぬ間に始まった、アランと義兄による“奪い合い”。 だが誰も知らない。アランは、かつて街で私が貧しい子にパンを差し出す姿を見て、一目惚れしていたことを。 この結婚も、その出会いから始まった彼の策略だったことを。 愛と誤解、嫉妬と執着が交錯する二年間。 契約の終わりに待つのは別れか、それとも――。

あなただけが頼りなの

こもろう
恋愛
宰相子息エンドだったはずのヒロインが何か言ってきます。 その時、元取り巻きはどうするのか?

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

処理中です...