(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏

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15 スネイプ侯爵家への訪問

「スネイプ侯爵家に一緒に行くのは構いませんが、着ていくドレスがありません。どれもデザインが古すぎて笑われてしまいそうです」

「そうか、それならばわたしがプレゼントしよう」

 恐れ多いことをおっしゃってくださるけれど、そんなことをしてもらって良いのかしら? 

 仕立て屋に行き、ほとんど仕上がっているドレスを見ていく。おおまかなサイズ別に分かれており、微調整だけをすれば着られるドレスのなかから、エミール様が次々と私にドレスを手渡していく。

「このライラック色のがいいね。あとこちらのブルーと、クリーム色のものも。全部試着して気に入ったらすべてを買うよ」

「ぜっ、全部ですか? 1着だけで充分です。こんな綺麗なドレスを着ていく場所などありません」

「あるさ。これからマリアンさんの絵はもっと価値があがり、いろいろなパーティに招かれることが増える。貴族や富裕層のお茶会や夜会の招待状が居間のテーブルに山積みになるよ」

「まさか・・・・・・」

 そんなことは信じられない。それでもエミール様は確信に満ちた顔付きで、私に優しく微笑みかけた。

「わたしの言うことに間違いはないよ。きっとそのうちそうなるはずさ。マリアンさんはきっとわたしと同じ、いやもっとこの先、有名になるよ。楽しい輝かしい未来が君を待っているのさ」



❁.。.:*:.。.✽.




 初めての貴族のお屋敷の訪問よ。しかも向かう先は高位貴族のタウンハウスでスネイプ侯爵家。緊張して馬車の中で何度も深呼吸をする。スネイプ侯爵家のタウンハウスは、王都にありながらも敷地が広く壮麗な建物だった。私達を迎えてくださったのは優しい顔付きのスネイプ侯爵夫妻だった。

「まぁ、女性を一緒に連れて来るなんて初めてのことね? ようこそスネイプ侯爵家へ」
 優しく話しかけられたけれど、私の全身を素早くチェックする視線を感じた。私の素性や経歴を気になっているのがありありと伝わってくる。

「わたしが最近知り合った女性ですよ。今日は是非、トリシア義姉上に会ってほしくて連れて来たのです」
「まぁ。それは嬉しいわ」

 私達は庭園のガゼボにセッティングされたお茶会の席に腰をおろした。先に招かれた3人の女性達と和やかに会話を始める。チラチラと私の顔に、好奇心に満ちた視線が向けられた。そのうちに貴族同士のお茶会の話になっていき、あそこのお茶会は楽しかったとかつまらなかったとか、そんな話になっていく。

「最近招かれたお茶会はいかがでしたか? あなたも貴族出身ですわね? お見かけしないお顔ですけど、姓を教えていただけません? 」
 一人の女性が我慢しきれなかったらしく、遠慮がちに私に訊ねた。他の二人の女性も興味津々の眼差しを向けてきたから、すっかりドギマギしてほんの少し早口になってしまう。

「私は貴族ではありません。エミール様とはファーガソン画廊で知り合いました。マリアンというのは本名なのですが、その名前で絵も描いています」

 その途端に令嬢達の表情が変わった。ぱっと明るく輝くような笑顔を向けられる。

「待って。マリアンって今をときめく新進気鋭の画家じゃない! まさか、あぁ、お願い。サインをくださらない?」
「まぁ、私も欲しいわ。あなたの絵画はとても素晴らしいわ」

「えぇっと、サインですか? 私なんかのサインが欲しいのですか?」

「なんか、は余計さ。マリアンさんはすでにかなり有名なのだよ。こうなると、貴族かどうかなんてもう関係ない。それにトリシア義姉上、マリアンさんが参加したお茶会はこれが初めてですよ。彼女はわたしの大事な人です」

「まぁ、まぁ。それを早くおっしゃい。あの画家のマリアンさんなら大歓迎ですよ。しかも当家のお茶会が初めてですって? なんて素晴らしいの! 皆に自慢できてよ」

 さきほどまでの値踏みするような眼差しや、警戒する雰囲気はあっさりと大歓迎ムードに変わった。流石はファーガソン画廊だと思う。あの画廊で認められた画家の将来は約束されたものだ、という噂は本当だったみたい。







 招待客が去り私達は四人で腹を割って話し合っていた。

「待て待て、お前の思い人は人妻なのか?」
「いや、兄上。わたし達はまだつきあってもいないし、いまのところは画家仲間だよ。ただ、彼女はすぐに離婚する。実は・・・・・・」

 私の事情を黙って聞いていたスネイプ侯爵夫人は励ますように私の手をそっと握った。

「私はマリアンさんの味方よ」

 その言葉がとても嬉しくて・・・・・・ファーガソン画廊のエバリンさんに、このトリシア様は私の生涯の友人になっていくのだった。

 

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