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番外編
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おとぎ話のようにはなし始めたのはココのお話だった。
「むかし、むかし。ココという可愛い女の子がいました。その子はまわりにいる人たちからとても甘やかされていたのよ。ココが望めばなんでも手に入ったわ。だから、それを当たり前に思うようになったの」
ミシェルは首を傾げながら、おとなしく聞いていた。小鳥のような仕草でたまらなく可愛い。
「色鮮やかなリボンや綺麗な便せん、お洒落な羽根ペンを見ると、必ず欲しくなって従姉妹から取ったのよ」
「え? いとこから? おにいしゃまからじゃなくて?」
「例えばお母様に妹がいるとします。その妹はミシェルにとっては叔母様にあたるのだけれど、その叔母様が産んだ女の子を従姉妹と呼びます」
「だったら、いとこのものをほしがったらいけないわ」
ミシェルは可愛いお顔をしかめて、首を横に振ってため息をついたわ。
「なにがいけないのか、お祖母様に教えてちょだい」
ボナデアお母様がふっくらしたミシェルの頬を優しく撫でた。うっすらピンクの頬はほんとうに可愛くて、私もついその頰を撫でる。
「だって、いとこっておんなのこでしょう? おんなのたたかいがはじまっちゃう」
「え? 女の戦い?」
私たち大人は思わず笑い出した。こんな可愛い顔で『女の戦い』なんて言うことが、もうすでに面白すぎたのよ。すると妖精たちがぺちゃくちゃとおしゃべりを始めた。
「女の戦いなんて大丈夫よっ。ミシェルに意地悪する子はやっつけちゃうもん」
「いつも僕たちが守ってあげるよ」
「そうよ、私たちはミシェルの味方よ。ベッドやベンチのお礼に、ミシェルに刃向かう子はお仕置きよっ!」
私は妖精たちまで教育しなければいけないようだ。
妖精の姿と言葉がわかるライオネル様とラザフォードは「妖精がついているから安心かもしれないね」などと暢気なことを言い合っている。
妖精が見えないボナデアお母様とエルバートお父様は、我が儘は家族のあいだだけで許されることを説明して、他の人にはしないように言い含めていたけれど、身についた行動や思考回路は家族以外にも向けられそうで怖い。
お話の続きとして、ココがドレスや宝石まで欲しがったことを話すと、ミシェルは軽蔑したように鼻を鳴らす。
「おかあしゃま、あたちはその子とちがうもん。あたちは他の子のドレスやほーせきはいらないわ。だって、大きくなったら、ドレスもほーせきも、あたちがかうもん。よーせ(妖精)のせかいは、じつりょくしゅぎなんだって」
良い意味で自立心が育っているけれど、これって正解なのかしら?
実力主義ね、自分で働いてドレスを買うってこと?
公爵家の令嬢が? うーーん。
頭を抱えた私にハーブティーを入れ直してくれたメイドの、手際よく茶葉を扱う手元をふと見た。手首に巻かれた細いブレスレットがきらりと光る。ミシェルもそれに気がつき、ぱっと顔を輝かせた。
「そのブレスレットはとてもかわいいわ。それにすごくにあってる」
にこにこと微笑みながら声をかけたミシェルだけれど、ラザフォードに対する時のように「ちょうだい」の言葉はなかった。
「ミシェル。いつもの『ちょうだい』は言わないの?」
私は内心言わないでくれて良かったと胸をなで下ろしていた。
「おかしゃま。あたちはミミ(メイドの名前)がかなしむことは言わないよ。おとうしゃまもおにぃしゃまも、あたちがおねだりするとよろこぶから言ってあげてるんだもん」
「・・・・・・喜ぶから? 自分が欲しいんじゃ無くて?」
「あたち、ほんとうはあおいペンよりピンクがいい。おとうしゃまのぬのきれは、そのかおりがすきなだけなの。いつもおとうしゃまのおひざのうえで、だっこされているきもちになるからほしいだけだもん。あたち、おとうしゃまがだいすきだし、おとうしゃまはあたちがおねだりすると、とてもよろこぶよ」
なんと、ライオネル様とラザフォードはミシェルに遊ばれていたのかも。ミシェルの周りを可愛い妖精たちが朗らかに笑いながら飛び回っていた。
「ソフィと私の子供ですからね。物の道理は多分わかっているんだよ。使用人の物を欲しがることはけっしてないしね。試しにお茶会をミシェルのために開いてみよう。同じ年頃の子供たちを招いて、そこでいろいろ指導したら良いよ」
「初めてのお茶会。確かにそれも良いかもしれないですわね。貴族の子たちを招く前に、使用人の子供たちで練習してからが良いわね! 妖精たちも教育しないといけないかもしれないわ」
「まぁ、妖精の学校を作らなければね。庭園のすみに小さな建物を作りましょう。お教室には小さな机と椅子に黒板。可愛いわね! 庭園の一画に、いっそのこと妖精村でも作ろうかしら」
ボナデアお母様は楽しい発想を語り出し、ライオネル様は子供向けのおとぎの国を作って一般公開したらどうでしょう、と提案した。
妖精が飛び回るおとぎ話の定番キャラクターがそろった夢の国は、確かに楽しそうだ。きっと、ビニ公爵家の大きな事業になるわ。私たちはミシェルのお茶会と夢の国建設に奮闘することになるのだった。
【番外編 完】
「むかし、むかし。ココという可愛い女の子がいました。その子はまわりにいる人たちからとても甘やかされていたのよ。ココが望めばなんでも手に入ったわ。だから、それを当たり前に思うようになったの」
ミシェルは首を傾げながら、おとなしく聞いていた。小鳥のような仕草でたまらなく可愛い。
「色鮮やかなリボンや綺麗な便せん、お洒落な羽根ペンを見ると、必ず欲しくなって従姉妹から取ったのよ」
「え? いとこから? おにいしゃまからじゃなくて?」
「例えばお母様に妹がいるとします。その妹はミシェルにとっては叔母様にあたるのだけれど、その叔母様が産んだ女の子を従姉妹と呼びます」
「だったら、いとこのものをほしがったらいけないわ」
ミシェルは可愛いお顔をしかめて、首を横に振ってため息をついたわ。
「なにがいけないのか、お祖母様に教えてちょだい」
ボナデアお母様がふっくらしたミシェルの頬を優しく撫でた。うっすらピンクの頬はほんとうに可愛くて、私もついその頰を撫でる。
「だって、いとこっておんなのこでしょう? おんなのたたかいがはじまっちゃう」
「え? 女の戦い?」
私たち大人は思わず笑い出した。こんな可愛い顔で『女の戦い』なんて言うことが、もうすでに面白すぎたのよ。すると妖精たちがぺちゃくちゃとおしゃべりを始めた。
「女の戦いなんて大丈夫よっ。ミシェルに意地悪する子はやっつけちゃうもん」
「いつも僕たちが守ってあげるよ」
「そうよ、私たちはミシェルの味方よ。ベッドやベンチのお礼に、ミシェルに刃向かう子はお仕置きよっ!」
私は妖精たちまで教育しなければいけないようだ。
妖精の姿と言葉がわかるライオネル様とラザフォードは「妖精がついているから安心かもしれないね」などと暢気なことを言い合っている。
妖精が見えないボナデアお母様とエルバートお父様は、我が儘は家族のあいだだけで許されることを説明して、他の人にはしないように言い含めていたけれど、身についた行動や思考回路は家族以外にも向けられそうで怖い。
お話の続きとして、ココがドレスや宝石まで欲しがったことを話すと、ミシェルは軽蔑したように鼻を鳴らす。
「おかあしゃま、あたちはその子とちがうもん。あたちは他の子のドレスやほーせきはいらないわ。だって、大きくなったら、ドレスもほーせきも、あたちがかうもん。よーせ(妖精)のせかいは、じつりょくしゅぎなんだって」
良い意味で自立心が育っているけれど、これって正解なのかしら?
実力主義ね、自分で働いてドレスを買うってこと?
公爵家の令嬢が? うーーん。
頭を抱えた私にハーブティーを入れ直してくれたメイドの、手際よく茶葉を扱う手元をふと見た。手首に巻かれた細いブレスレットがきらりと光る。ミシェルもそれに気がつき、ぱっと顔を輝かせた。
「そのブレスレットはとてもかわいいわ。それにすごくにあってる」
にこにこと微笑みながら声をかけたミシェルだけれど、ラザフォードに対する時のように「ちょうだい」の言葉はなかった。
「ミシェル。いつもの『ちょうだい』は言わないの?」
私は内心言わないでくれて良かったと胸をなで下ろしていた。
「おかしゃま。あたちはミミ(メイドの名前)がかなしむことは言わないよ。おとうしゃまもおにぃしゃまも、あたちがおねだりするとよろこぶから言ってあげてるんだもん」
「・・・・・・喜ぶから? 自分が欲しいんじゃ無くて?」
「あたち、ほんとうはあおいペンよりピンクがいい。おとうしゃまのぬのきれは、そのかおりがすきなだけなの。いつもおとうしゃまのおひざのうえで、だっこされているきもちになるからほしいだけだもん。あたち、おとうしゃまがだいすきだし、おとうしゃまはあたちがおねだりすると、とてもよろこぶよ」
なんと、ライオネル様とラザフォードはミシェルに遊ばれていたのかも。ミシェルの周りを可愛い妖精たちが朗らかに笑いながら飛び回っていた。
「ソフィと私の子供ですからね。物の道理は多分わかっているんだよ。使用人の物を欲しがることはけっしてないしね。試しにお茶会をミシェルのために開いてみよう。同じ年頃の子供たちを招いて、そこでいろいろ指導したら良いよ」
「初めてのお茶会。確かにそれも良いかもしれないですわね。貴族の子たちを招く前に、使用人の子供たちで練習してからが良いわね! 妖精たちも教育しないといけないかもしれないわ」
「まぁ、妖精の学校を作らなければね。庭園のすみに小さな建物を作りましょう。お教室には小さな机と椅子に黒板。可愛いわね! 庭園の一画に、いっそのこと妖精村でも作ろうかしら」
ボナデアお母様は楽しい発想を語り出し、ライオネル様は子供向けのおとぎの国を作って一般公開したらどうでしょう、と提案した。
妖精が飛び回るおとぎ話の定番キャラクターがそろった夢の国は、確かに楽しそうだ。きっと、ビニ公爵家の大きな事業になるわ。私たちはミシェルのお茶会と夢の国建設に奮闘することになるのだった。
【番外編 完】
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
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