9 / 16
9 解毒剤を作ったブロッサム
しおりを挟む
医者が飛んできたものの、患者が三人もいて、それぞれもだえ苦しんでいるため、かなり手こずっていた。
しかも呼ばれたのは、ローズミント侯爵家のお抱え医師。毒の専門家ではない上に、発言もどこか頼りない。
「これは……そうですね、食あたりでしょう。なにか悪いものでも召し上がったんじゃないですかね」
――そんなこと、見ればわかるわよ。
処方されたのは、胃腸の働きを整える薬。あとは時が解決してくれるだろうと、穏やかに言い残して帰っていった。まぁ、確かに放っておいても時間が経てばなんとかなるかもしれない。けれど。
「天使の腹は守ったーー!!」
父がレストルームから全力で叫ぶので、うるさくて仕方がない。
それぞれのレストルームからは凄まじいうめき声が響いていて、もう騒々しさの極みだった。
ゲホッ、グェエッ――と、廊下の向こうからビオラの嘔吐音まで聞こえてくる。
……まったく、手間のかかる人たちだな。
わざわざイザベルが自作して持ち込んだ“特製クッキー”を、父は嬉々として食べたあげく、顔面蒼白になってレストルームに籠もったまま。
当然、そのクッキーを口にしたイザベルもビオラも、同様に悲惨な目にあっていた。
「まさに因果応報よねぇ。イザベルお母様も、ビオラも、そして……残念なお父様も」
私は肩をすくめながら、手を前に差し出した。
「解毒の書――デトックス・ブック、起動」
パシュッという軽い音とともに、宙に淡い光のパネルが浮かび上がる。
毒草リストと症状検索フィールドが並ぶその画面は、まるでRPGのアイテム図鑑のようだった。
――あのポンコツ神様、たまにはいい仕事するじゃない。
裁判の傍聴にハマっていた私は、根っからのゲームオタクでもある。自然と口元が緩む。
「黒竜草、っと……」
【コクリュウソウ・抽出液】
→ 検出中……検索完了。
【黒竜草・抽出液】
毒性:弱中毒性/摂取後5分で症状発現
主な症状:胃腸の激痛、嘔吐、めまい、重度の場合は意識混濁。
毒の特性:高熱で成分が活性化するため、加熱調理で毒性が強まる可能性あ り。
対処法:即時解毒推奨。放置すれば軽度の内臓損傷のおそれあり?
「焼いてクッキーにするとか……悪意がバッチリ過ぎて、逆に笑えるわ。ていうか、この“おそれあり?”の“?”が適当すぎるでしょ」
クスクスと笑いながら、私は「対応レシピを展開」のボタンをタップした。
【黒竜草の解毒レシピ】
・カタツムツムの粉末(0.8g)
・カキカキの種(潰してペースト状に)
・聖水(または代替として聖花の涙10滴)
※木のスプーンで撹拌すること
「ふむふむ……って、これ絶対まずいやつだ」
私は侍女たちに材料を持ってこさせ、テーブルの上で手早く調合を始めた。
この世界ではそこまで珍しい素材でもないようで、少し安心する。
彼らは私を処刑に追いやった張本人たち――そう、正真正銘の悪人だ。
それでも放っておけば、死なないにしても後遺症が残る可能性がある。
どうせなら、生きて償ってもらわなければ意味がない。
「命の恩人って呼んでくれても、別にいいのよ? あとで請求書でも置いておこうかしら」
独り言をつぶやきながら、私は調合した茶色くどろっとした液体を小瓶に注ぎ、三つに分けた。
これを飲めば、しばらくすれば回復するはず。
私は静かに笑ってから、淡々と薬の瓶を持ち、レストルームの扉越しに手渡したのだった。
そして――
父は私に涙ながらに感謝し、イザベルとビオラは、明らかに私に遠慮するようになった。
だが、こんなことで私の未来が保証されたとは、まったく思っていない。
私の次なる作戦は――
この国で最も恐れられる男、毒公爵に近づくことだった。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※本日、「愛する人たちに裏切られた私は……」を投稿しました。こちらはシリアスで、夫の浮気に悩む公爵夫人の物語です。娘として育てた姪が……可哀想な妻、レティシアさんなのですが、もちろん最後は元サヤではないハッピーエンドです。
興味があったら、ぜひお読みいただけたら、と思います。
よろしくお願いします!
しかも呼ばれたのは、ローズミント侯爵家のお抱え医師。毒の専門家ではない上に、発言もどこか頼りない。
「これは……そうですね、食あたりでしょう。なにか悪いものでも召し上がったんじゃないですかね」
――そんなこと、見ればわかるわよ。
処方されたのは、胃腸の働きを整える薬。あとは時が解決してくれるだろうと、穏やかに言い残して帰っていった。まぁ、確かに放っておいても時間が経てばなんとかなるかもしれない。けれど。
「天使の腹は守ったーー!!」
父がレストルームから全力で叫ぶので、うるさくて仕方がない。
それぞれのレストルームからは凄まじいうめき声が響いていて、もう騒々しさの極みだった。
ゲホッ、グェエッ――と、廊下の向こうからビオラの嘔吐音まで聞こえてくる。
……まったく、手間のかかる人たちだな。
わざわざイザベルが自作して持ち込んだ“特製クッキー”を、父は嬉々として食べたあげく、顔面蒼白になってレストルームに籠もったまま。
当然、そのクッキーを口にしたイザベルもビオラも、同様に悲惨な目にあっていた。
「まさに因果応報よねぇ。イザベルお母様も、ビオラも、そして……残念なお父様も」
私は肩をすくめながら、手を前に差し出した。
「解毒の書――デトックス・ブック、起動」
パシュッという軽い音とともに、宙に淡い光のパネルが浮かび上がる。
毒草リストと症状検索フィールドが並ぶその画面は、まるでRPGのアイテム図鑑のようだった。
――あのポンコツ神様、たまにはいい仕事するじゃない。
裁判の傍聴にハマっていた私は、根っからのゲームオタクでもある。自然と口元が緩む。
「黒竜草、っと……」
【コクリュウソウ・抽出液】
→ 検出中……検索完了。
【黒竜草・抽出液】
毒性:弱中毒性/摂取後5分で症状発現
主な症状:胃腸の激痛、嘔吐、めまい、重度の場合は意識混濁。
毒の特性:高熱で成分が活性化するため、加熱調理で毒性が強まる可能性あ り。
対処法:即時解毒推奨。放置すれば軽度の内臓損傷のおそれあり?
「焼いてクッキーにするとか……悪意がバッチリ過ぎて、逆に笑えるわ。ていうか、この“おそれあり?”の“?”が適当すぎるでしょ」
クスクスと笑いながら、私は「対応レシピを展開」のボタンをタップした。
【黒竜草の解毒レシピ】
・カタツムツムの粉末(0.8g)
・カキカキの種(潰してペースト状に)
・聖水(または代替として聖花の涙10滴)
※木のスプーンで撹拌すること
「ふむふむ……って、これ絶対まずいやつだ」
私は侍女たちに材料を持ってこさせ、テーブルの上で手早く調合を始めた。
この世界ではそこまで珍しい素材でもないようで、少し安心する。
彼らは私を処刑に追いやった張本人たち――そう、正真正銘の悪人だ。
それでも放っておけば、死なないにしても後遺症が残る可能性がある。
どうせなら、生きて償ってもらわなければ意味がない。
「命の恩人って呼んでくれても、別にいいのよ? あとで請求書でも置いておこうかしら」
独り言をつぶやきながら、私は調合した茶色くどろっとした液体を小瓶に注ぎ、三つに分けた。
これを飲めば、しばらくすれば回復するはず。
私は静かに笑ってから、淡々と薬の瓶を持ち、レストルームの扉越しに手渡したのだった。
そして――
父は私に涙ながらに感謝し、イザベルとビオラは、明らかに私に遠慮するようになった。
だが、こんなことで私の未来が保証されたとは、まったく思っていない。
私の次なる作戦は――
この国で最も恐れられる男、毒公爵に近づくことだった。
•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•
※本日、「愛する人たちに裏切られた私は……」を投稿しました。こちらはシリアスで、夫の浮気に悩む公爵夫人の物語です。娘として育てた姪が……可哀想な妻、レティシアさんなのですが、もちろん最後は元サヤではないハッピーエンドです。
興味があったら、ぜひお読みいただけたら、と思います。
よろしくお願いします!
932
あなたにおすすめの小説
(完結)逆行令嬢の婚約回避
あかる
恋愛
わたくし、スカーレット・ガゼルは公爵令嬢ですわ。
わたくしは第二王子と婚約して、ガゼル領を継ぐ筈でしたが、婚約破棄され、何故か国外追放に…そして隣国との国境の山まで来た時に、御者の方に殺されてしまったはずでした。それが何故か、婚約をする5歳の時まで戻ってしまいました。夢ではないはずですわ…剣で刺された時の痛みをまだ覚えていますもの。
何故かは分からないけど、ラッキーですわ。もう二度とあんな思いはしたくありません。回避させて頂きます。
完結しています。忘れなければ毎日投稿します。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
【完結】冤罪で処刑された令嬢は、幽霊になり復讐を楽しむ
金峯蓮華
恋愛
「レティシア、お前との婚約は今、ここで破棄する!」
学園の学期末のパーティーで賑わうホールにヴェルナー殿下の声が響いた。
殿下の真実の愛の相手、ミランダに危害を加えた罪でレティシアは捕らえられ、処刑された。国王や国の主要メンバーが国を留守にしている間に、ヴェルナーが勝手に国王代理を名乗り、刑を執行してしまった。
レティシアは悔しさに死んでも死にきれず、幽霊となり復讐を誓う。
独自のファンタジーの世界のお話です。
残酷なシーンや表現が出てくるのでR15にしています。
誤字脱字あります。見つけ次第、こっそり修正致します。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
〘完結〛婚約破棄?まあ!御冗談がお上手なんですね!
桜井ことり
恋愛
「何度言ったら分かるのだ!アテルイ・アークライト!貴様との婚約は、正式に、完全に、破棄されたのだ!」
「……今、婚約破棄と、確かにおっしゃいましたな?王太子殿下」
その声には、念を押すような強い響きがあった。
「そうだ!婚約破棄だ!何か文句でもあるのか、バルフォア侯爵!」
アルフォンスは、自分に反抗的な貴族の筆頭からの問いかけに、苛立ちを隠さずに答える。
しかし、侯爵が返した言葉は、アルフォンスの予想を遥かに超えるものだった。
「いいえ、文句などございません。むしろ、感謝したいくらいでございます。――では、アテルイ嬢と、この私が婚約しても良い、とのことですかな?」
「なっ……!?」
アルフォンスが言葉を失う。
それだけではなかった。バルフォア侯爵の言葉を皮切りに、堰を切ったように他の貴族たちが次々と声を上げたのだ。
「お待ちください、侯爵!アテルイ様ほどの淑女を、貴方のような年寄りに任せてはおけませんな!」
「その通り!アテルイ様の隣に立つべきは、我が騎士団の誉れ、このグレイフォード伯爵である!」
「財力で言えば、我がオズワルド子爵家が一番です!アテルイ様、どうか私に清き一票を!」
あっという間に、会場はアテルイへの公開プロポーズの場へと変貌していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる