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11 そして、誰もいなくなる
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(ショーン視点)
言われたイボンヌは荷物をまとめだして、この屋敷を出て行こうとした。
「嘘をついていたんだね? 王妃殿下のお気に入りはパトリシアだったんだ。でも、まぁ、そんな些細な嘘は許してあげるから出て行かなくてもいいよ。私は心が広いから」
「は? あぁ、あのことね。私が言い出したことじゃないもの。あんなの嘘に、はいらないわよ。勝手にあなた達が勘違いしただけだし・・・・・・じゃぁ、私は出て行くわ」
「待ってくれよ! 今更出て行こうなんて酷いだろう? 私達はパトリシアを追い出した共犯じゃないか? だから協力しあっていこうよ。これから結婚して、可愛い赤ちゃんもきっと産まれる・・・・・・」
「赤ちゃん? 赤ちゃんを立派に育てあげるのに、総額いくらかかるかわかっているの? 赤ちゃんはね、安易な気持ちで産んだらいけないのよ!」
「なにを言ってるんだい? イボンヌと私がこれから頑張れば大丈夫だから・・・・・・イボンヌを心から愛しているんだよ」
「嫌よ! 頑張りたくないから、パトリシアお姉様のモノに手をだしたんだもん。私も頑張って働かなくっちゃいけないってことなら、なにもパトリシアお姉様のお古なんていらないわよ! それこそ年下の独身男性を捕まえて、いちから家庭を築き上げるわ」
「え? お金目当てなのかい?」
「はい! 逆にお金以外にショーン様の価値ってあります? それに・・・・・・こんなに簡単に妻を裏切る男から『心から愛している』なんて言われてもねぇ? さようなら!」
屋敷の中にはベッドしかない。両親を見れば慌てて目をそらした。
「えぇっと・・・・・・タイリークのところに行くわ。今まで世話になったわね! ありがとう。だって家具もないんじゃぁ、生活もできないものね? それにこの屋敷を維持するのも難しそうだし」
母上までもが荷物をまとめ出て行き、父上はがっくりと肩を落とす。
「イボンヌさん・・・・・・可愛かったのに・・・・・・」
「いや、父上。あなたが女に逃げられたわけじゃなくて私が逃げられたんですよ?」
「お前が悪い! せっかく楽しく暮らせると思ったのに・・・・・・儂はこれから次男のところで暮らす。アンドレの嫁とはそれほど折り合いが悪いわけではない」
「はぁ? だって、兄上の奥方から虐められていたからここに来たんでしょう? そうじゃなかったのなら、なんでここに転がり込んだんだ? 元はと言えば、あんた達がここに来てからおかしくなったんだろう!」
父上は私が声を荒げ始めると、そのまま身一つで去って行く。
(なんで皆、自分勝手なんだ? 酷いよ)
翌日、出仕し早速課長から呼び出されて言われた言葉は、別の課への移動だった。
「明日から君は土木局道路清掃課の所属になった」
「清掃課? なぜですか?」
「君、後輩の女性3人に手を出していただろう? 職場でそういうことをされたら困るんだよ。私の出世にも響いてくるじゃないか! 王妃殿下も直々にお前に話があるそうだから、ルビー宮に行ってこい」
初めて入るルビー宮は最奥の宮殿で、多くの花々が植えられた庭園の横に、薬草園が3倍の敷地を独占して広がっていた。薬草園に面したルビー宮の一画は独立した居住空間のようで、おそらく高官の住まいだ。
文官の事務方トップで王族のお気に入りだけが宮殿で暮らすことができ、その際与えられる住まいもちょうどあんなかんじだった。私達文官が究極に憧れる存在だ。
そこで見かけた姿はやっぱりパトリシア・・・・・・影の言葉は本当だった・・・・・・
「ショーンにはパトリシアに慰謝料を払ってもらいます。働くところがなくなったら、パトリシアにお金を払えなくなるのでクビにはしません。あなたは若い女性がいない部署がぴったりだと思うわ。清掃員として働きなさい! 同僚は、あなたの両親と同じ年代の者ばかりです」
ルビー宮の応接室に通され、だいぶ待たされた挙げ句のこの言葉にがっくりと項垂れる。
「清掃員? 清掃課事務方ではなくて? 清掃員のほうですか? そんなくだらない仕事・・・・・・」
「今、なんと言いました? くだらないですって? 道路の清掃をすることは立派な仕事ですよ。その仕事をする者たちのお陰で綺麗な道路が保たれ、私達が快適に暮らすことができる。それを馬鹿にするとは!」
「申し訳ありません。ですが、慰謝料っておかしいです。だって、パトリシアの方がずっと稼いでいる」
王妃殿下は呆れた顔で私を見つめた。
「もう話すことはありません。不服があるなら裁判でもなんでも起こせば良い。この国の王妃である私を、敵にまわす覚悟があるのか?」
背中がヒヤリとする視線を感じて後ろを振り返ると、庭園で花の手入れをしていた男達からの殺気がすごい。鎌をもってニヤリと笑う男達に、私の股間から温かいものが流れて・・・・・・
「ソファを尿で汚すとは! このクリーニング代もお給料から差し引きますよ。全くシモの管理がどこまでもできていないったら!」
鼻をつまんだ王妃殿下とお付きの侍女達の、軽蔑の眼差しが突き刺さる・・・・・・ヤバい・・・・・・ストレスが腸にもきたか?・・・・・・腹を下しそうで慌てて尻を抑えた。
言われたイボンヌは荷物をまとめだして、この屋敷を出て行こうとした。
「嘘をついていたんだね? 王妃殿下のお気に入りはパトリシアだったんだ。でも、まぁ、そんな些細な嘘は許してあげるから出て行かなくてもいいよ。私は心が広いから」
「は? あぁ、あのことね。私が言い出したことじゃないもの。あんなの嘘に、はいらないわよ。勝手にあなた達が勘違いしただけだし・・・・・・じゃぁ、私は出て行くわ」
「待ってくれよ! 今更出て行こうなんて酷いだろう? 私達はパトリシアを追い出した共犯じゃないか? だから協力しあっていこうよ。これから結婚して、可愛い赤ちゃんもきっと産まれる・・・・・・」
「赤ちゃん? 赤ちゃんを立派に育てあげるのに、総額いくらかかるかわかっているの? 赤ちゃんはね、安易な気持ちで産んだらいけないのよ!」
「なにを言ってるんだい? イボンヌと私がこれから頑張れば大丈夫だから・・・・・・イボンヌを心から愛しているんだよ」
「嫌よ! 頑張りたくないから、パトリシアお姉様のモノに手をだしたんだもん。私も頑張って働かなくっちゃいけないってことなら、なにもパトリシアお姉様のお古なんていらないわよ! それこそ年下の独身男性を捕まえて、いちから家庭を築き上げるわ」
「え? お金目当てなのかい?」
「はい! 逆にお金以外にショーン様の価値ってあります? それに・・・・・・こんなに簡単に妻を裏切る男から『心から愛している』なんて言われてもねぇ? さようなら!」
屋敷の中にはベッドしかない。両親を見れば慌てて目をそらした。
「えぇっと・・・・・・タイリークのところに行くわ。今まで世話になったわね! ありがとう。だって家具もないんじゃぁ、生活もできないものね? それにこの屋敷を維持するのも難しそうだし」
母上までもが荷物をまとめ出て行き、父上はがっくりと肩を落とす。
「イボンヌさん・・・・・・可愛かったのに・・・・・・」
「いや、父上。あなたが女に逃げられたわけじゃなくて私が逃げられたんですよ?」
「お前が悪い! せっかく楽しく暮らせると思ったのに・・・・・・儂はこれから次男のところで暮らす。アンドレの嫁とはそれほど折り合いが悪いわけではない」
「はぁ? だって、兄上の奥方から虐められていたからここに来たんでしょう? そうじゃなかったのなら、なんでここに転がり込んだんだ? 元はと言えば、あんた達がここに来てからおかしくなったんだろう!」
父上は私が声を荒げ始めると、そのまま身一つで去って行く。
(なんで皆、自分勝手なんだ? 酷いよ)
翌日、出仕し早速課長から呼び出されて言われた言葉は、別の課への移動だった。
「明日から君は土木局道路清掃課の所属になった」
「清掃課? なぜですか?」
「君、後輩の女性3人に手を出していただろう? 職場でそういうことをされたら困るんだよ。私の出世にも響いてくるじゃないか! 王妃殿下も直々にお前に話があるそうだから、ルビー宮に行ってこい」
初めて入るルビー宮は最奥の宮殿で、多くの花々が植えられた庭園の横に、薬草園が3倍の敷地を独占して広がっていた。薬草園に面したルビー宮の一画は独立した居住空間のようで、おそらく高官の住まいだ。
文官の事務方トップで王族のお気に入りだけが宮殿で暮らすことができ、その際与えられる住まいもちょうどあんなかんじだった。私達文官が究極に憧れる存在だ。
そこで見かけた姿はやっぱりパトリシア・・・・・・影の言葉は本当だった・・・・・・
「ショーンにはパトリシアに慰謝料を払ってもらいます。働くところがなくなったら、パトリシアにお金を払えなくなるのでクビにはしません。あなたは若い女性がいない部署がぴったりだと思うわ。清掃員として働きなさい! 同僚は、あなたの両親と同じ年代の者ばかりです」
ルビー宮の応接室に通され、だいぶ待たされた挙げ句のこの言葉にがっくりと項垂れる。
「清掃員? 清掃課事務方ではなくて? 清掃員のほうですか? そんなくだらない仕事・・・・・・」
「今、なんと言いました? くだらないですって? 道路の清掃をすることは立派な仕事ですよ。その仕事をする者たちのお陰で綺麗な道路が保たれ、私達が快適に暮らすことができる。それを馬鹿にするとは!」
「申し訳ありません。ですが、慰謝料っておかしいです。だって、パトリシアの方がずっと稼いでいる」
王妃殿下は呆れた顔で私を見つめた。
「もう話すことはありません。不服があるなら裁判でもなんでも起こせば良い。この国の王妃である私を、敵にまわす覚悟があるのか?」
背中がヒヤリとする視線を感じて後ろを振り返ると、庭園で花の手入れをしていた男達からの殺気がすごい。鎌をもってニヤリと笑う男達に、私の股間から温かいものが流れて・・・・・・
「ソファを尿で汚すとは! このクリーニング代もお給料から差し引きますよ。全くシモの管理がどこまでもできていないったら!」
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