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6 私が勝った裁判
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「いえ、そういうつもりではありません。なんというか・・・・・・その・・・・・・なんでもないです。えっと、あなたでいいです」
なんというおバカさんなの・・・・・・あぁ、こんな男性と結婚を前提に何年もお付き合いしてきた自分が恥ずかしい。きっと、皆私を『バカな女』と思っているわ。いたたまれない気分でいるとサンディが優しく励ますように微笑みかけてくれた。
「あなたでいいとは、とても常識がある口の利き方に感動してしまいますね。さきほどの『精神科に通った方がいい』とは誰に向けて言った言葉でしょうか?」
裁判官の問いにマックスはへらへらと薄ら笑いを浮かべながら、
「もちろんルーナに言いました。だってそうでしょう? 何の気なしに言った言葉尻をとらえて失礼だとか侮辱だとか騒ぐ。恋人の間ならつい口が滑ることだってありますよ」と、答えた。
「関係が壊れていない夫婦間であればささいなことで済む話です。が、別れる時の言葉でそのような捨て台詞はどう考えても慰謝料の対象になります。しかもその年齢まで待つことになったのはオズボーンさんのせいですからね。心変わりはいけないという法律はありませんが、その精神的苦痛を慰謝料として払わねばならないという法律はありますからね。しかも生活費を1フランも入れないとは悪質にもほどがありますよ・・・・・・」
「持ってるほうが払えばいいんです! ルーナはこれからもどんどん稼げます。それに比べて僕はルーナのせいで学園をクビになったんですよ! お金を払えというならなぜあそこに乗り込んできたんだ! あのまま勤めさせてくれれば、まだ2,000万フラン返せたかもしれないが無職にさせておいて返せるわけがないだろう! ルーナ! お前って女はどこまで冷たい酷い女なんだ」
「お黙りなさい! 酷いのはどちらですか! 無職になったのはルーナさんのせいではなくオズボーンさんの自業自得です。マックス・オズボーンさんは、速やかに2,000万フランを支払うこととする。原告の主張を前面的に認めます! 以上です!」
「ちょっと待った! やっぱりだ! 裁判官が女だから女の味方をするんだな。あなたもきっとこんな経験がある女に違いないよ。そうですよね? きっと若い女と比べられて捨てられた経験があるからルーナに味方したのでしょう? 不公平だ。全くけしからんことだ」
「なんですって? この法廷を侮辱しあたくしの名誉を傷つける発言。法廷侮辱罪として100万フラン増額します。そしてそれ以上あたくしを侮辱するのなら名誉毀損で訴えますよ! あたくしは5,000万フラン慰謝料を請求しようと思います。さぁ、どうしますか?」
「ひっ。5,000万フラン? むちゃくちゃだ。黙りますよ。もういいです。2,000万フラン払います」
「違いますよ。オズボーンさんの支払いは2100万フランです。そしてお仕事ですが現在無職となったのであれば、高所作業をする建築業・鉱山の炭鉱夫・船乗りなど紹介できます。いずれも誰でもできるお仕事でしてお給料はとてもいいので、真面目に働けば1年で返せます。あなたに幸運がありますように!」
「げ! それって致死率が全部50パーセント以上の職業じゃないか・・・・・・結構です。このお金は分割でゆっくり払いたいです」
「ふっ。甘い、甘い。こちらとしては1年以内に、遅くとも3年以内には払っていただきたいですね。期限がないと怠け者はいつまで経っても本気で返そうとしませんからね。裁判官殿! 3年以内という期限を設けそれを過ぎたら強制的に建築業に就かせる許可をください。この類いの男はきっと高い場所が好きだと思いますから」
傍聴人がクスクスと笑い、
「なんとかと煙は高いところが好きだものね」
と、言い合う声が聞こえた。
「それは大変名案です。3年以内の期限を設ける!」
マックスは一瞬うな垂れたが、
「明日の学園長との裁判で必ず勝つので、その退職金で払います」
と言った。
懲りない人だし、これほどバカだとは思わなかった。もう憎いと感じるよりも哀れになってきて、私は裁判に勝った喜びはなくなぜか悲しい気分だ。
「もう会うこともないと思いますがどうか元気でいてくださいね」
私はマックスに言葉をかけたが、彼の答えは私の気持ちを楽にさせるものだった。
「同情するなら金をくれよ! 慰謝料をまけろ! 200万フランで充分だろう?」
そのぶれないクズっぷりに、私の心は軽くなっていった。マックスはやはり痛い目にあったほうがいい人間だと確信したから。
なんというおバカさんなの・・・・・・あぁ、こんな男性と結婚を前提に何年もお付き合いしてきた自分が恥ずかしい。きっと、皆私を『バカな女』と思っているわ。いたたまれない気分でいるとサンディが優しく励ますように微笑みかけてくれた。
「あなたでいいとは、とても常識がある口の利き方に感動してしまいますね。さきほどの『精神科に通った方がいい』とは誰に向けて言った言葉でしょうか?」
裁判官の問いにマックスはへらへらと薄ら笑いを浮かべながら、
「もちろんルーナに言いました。だってそうでしょう? 何の気なしに言った言葉尻をとらえて失礼だとか侮辱だとか騒ぐ。恋人の間ならつい口が滑ることだってありますよ」と、答えた。
「関係が壊れていない夫婦間であればささいなことで済む話です。が、別れる時の言葉でそのような捨て台詞はどう考えても慰謝料の対象になります。しかもその年齢まで待つことになったのはオズボーンさんのせいですからね。心変わりはいけないという法律はありませんが、その精神的苦痛を慰謝料として払わねばならないという法律はありますからね。しかも生活費を1フランも入れないとは悪質にもほどがありますよ・・・・・・」
「持ってるほうが払えばいいんです! ルーナはこれからもどんどん稼げます。それに比べて僕はルーナのせいで学園をクビになったんですよ! お金を払えというならなぜあそこに乗り込んできたんだ! あのまま勤めさせてくれれば、まだ2,000万フラン返せたかもしれないが無職にさせておいて返せるわけがないだろう! ルーナ! お前って女はどこまで冷たい酷い女なんだ」
「お黙りなさい! 酷いのはどちらですか! 無職になったのはルーナさんのせいではなくオズボーンさんの自業自得です。マックス・オズボーンさんは、速やかに2,000万フランを支払うこととする。原告の主張を前面的に認めます! 以上です!」
「ちょっと待った! やっぱりだ! 裁判官が女だから女の味方をするんだな。あなたもきっとこんな経験がある女に違いないよ。そうですよね? きっと若い女と比べられて捨てられた経験があるからルーナに味方したのでしょう? 不公平だ。全くけしからんことだ」
「なんですって? この法廷を侮辱しあたくしの名誉を傷つける発言。法廷侮辱罪として100万フラン増額します。そしてそれ以上あたくしを侮辱するのなら名誉毀損で訴えますよ! あたくしは5,000万フラン慰謝料を請求しようと思います。さぁ、どうしますか?」
「ひっ。5,000万フラン? むちゃくちゃだ。黙りますよ。もういいです。2,000万フラン払います」
「違いますよ。オズボーンさんの支払いは2100万フランです。そしてお仕事ですが現在無職となったのであれば、高所作業をする建築業・鉱山の炭鉱夫・船乗りなど紹介できます。いずれも誰でもできるお仕事でしてお給料はとてもいいので、真面目に働けば1年で返せます。あなたに幸運がありますように!」
「げ! それって致死率が全部50パーセント以上の職業じゃないか・・・・・・結構です。このお金は分割でゆっくり払いたいです」
「ふっ。甘い、甘い。こちらとしては1年以内に、遅くとも3年以内には払っていただきたいですね。期限がないと怠け者はいつまで経っても本気で返そうとしませんからね。裁判官殿! 3年以内という期限を設けそれを過ぎたら強制的に建築業に就かせる許可をください。この類いの男はきっと高い場所が好きだと思いますから」
傍聴人がクスクスと笑い、
「なんとかと煙は高いところが好きだものね」
と、言い合う声が聞こえた。
「それは大変名案です。3年以内の期限を設ける!」
マックスは一瞬うな垂れたが、
「明日の学園長との裁判で必ず勝つので、その退職金で払います」
と言った。
懲りない人だし、これほどバカだとは思わなかった。もう憎いと感じるよりも哀れになってきて、私は裁判に勝った喜びはなくなぜか悲しい気分だ。
「もう会うこともないと思いますがどうか元気でいてくださいね」
私はマックスに言葉をかけたが、彼の答えは私の気持ちを楽にさせるものだった。
「同情するなら金をくれよ! 慰謝料をまけろ! 200万フランで充分だろう?」
そのぶれないクズっぷりに、私の心は軽くなっていった。マックスはやはり痛い目にあったほうがいい人間だと確信したから。
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