(完)年増になったから婚約破棄する?ーー誰のせいでなったと思ってんだ!

青空一夏

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8 イモージェンのその後はきっと・・・・・・大事なことに今更気がついたイモちゃん

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お父様に家を追い出された私に行く所はなかった。オズボーン先生の奥さんから慰謝料も請求された私は、どうにかして働いてお金を返済しなければならない。

仕事斡旋所に行き私にもできそうな仕事を探していると高給好待遇の文字が飛び込んでくる。時給7,000フラン(1フラン=1円)! これだわ!

仕事内容は簡単な接客と書いてあった。お酒を一緒に飲み話し相手になるだけでいい。

「これにします! これを紹介してください」

「これは・・・・・・悪いことは言わないわ。時給が良くても手元に残るお金はあまり多くはないってこともあるのよ。誰でも稼げるってわけじゃないわよ・・・・・・旅館で住み込みの仲居さんとか掃除スタッフの方がいいのではないかしら?」

「え? 旅館の客室のシーツを替えたり、掃除や食事を運ぶってメイドのようなものでしょう? 私は男爵令嬢だったのになんでメイドのような真似をしなければならないの ! 可愛くて若い子は優遇ってあるし私ならきっと大丈夫だわ」

「そう、じゃぁ勝手にすればいいわ。せっかくのアドバイスを聞けない子なのね」

――冴えないおばさんの言うことなんかどうでもいい。きっと私が可愛くて若いから嫉妬しているだけだもの!

「うるさいわよ! お説教ならいらないわ」
 捨てゼリフを吐いて早速行ってみたそこは、綺麗な高給クラブが立ち並ぶおしゃれな街。即採用されてそこで働くことにした私は、すぐに店長とともに靴と服を買いに行く。そのクラブには寮があって住み込みでも働けるので助かった。


 
ここ銀座海千山千街にはたくさんのクラブで働く女性用のドレスや靴が売っていた。

「4万フランの靴と、服はあっちの少しだけ透けた布のドレスがいい。胸は開きすぎずエロ可愛いのがぴったりだな。下品じゃなくてそれなりの品格が必要。7万フランのドレスか、そんなものでいいだろう」

これらのものは店長が買ってくれるのだろうと思い上機嫌でその靴とドレスを受け取った私。そのドレスを着て店に出るとおじさん達がちやほやしてくれて、お酒をついでバカ話するだけで楽しく働けた。

ところが給料日にはその衣装代と靴代はしっかり自分の給料から引かれていて唖然とした。

「これって店長からのプレゼントじゃなかったのですか?」

「え? 君ってバカなの? なぜ僕が店の女の子にタダでものをあげると思うんだい? 君はここに働きにきているんだよ? 遊びじゃないからね ! ドレスや靴は自分で買うんだよ。当たり前だろ? 」

生活しながらお金を貯めるのは難しい。お給料がまるまる自分のものにならない現実に戸惑う。この仕事をするのに必要な衣装や靴、髪のセット代やら化粧品。それと相場より高い寮の家賃と税金。もろもろ払ったら手元にはさほど残らない。

「これじゃ全然稼げないわ。高給なんて嘘じゃない! しかも同じ服をずっと着るのはまずいから、あと2着は自分で買えなんて無理だよ」
 私はガックリと肩を落としてつぶやいた。

「指名料や同伴料、そんなものをとって特別手当をもらうからこの仕事は稼げるのさ。ただ、座ってにこにこしてるだけじゃぁ、がっぽり稼げるわけないだろう? 『この子がいるからこの店に来たよ』って客に言われなきゃいつまで経ってもその時給は上がらないよ。」
 先輩に言われて初めてそんなことに気がついた。

「それか、お財布になりそうな男を探すとかね? あっはは。でもパトロンだってピンキリさ。カス捕まえるとわずかなお金で囲われるだけで、若い綺麗な時間を無駄にするだけだから用心するこった。ここは宝探しの場所でもあるけど宝はそうそう転がっていないからねぇ」

そんな・・・・・・若くてかわいいだけじゃおじさん達のいい暇つぶしの餌食になって終わりなんてことも言われて落ち込んだ。まだ、貴族学園で真面目に勉強していたほうがずっとマシだったな・・・・・・どうすればいいのかな・・・・・・私は手元に残った少しばかりのお給金を見つめて考えていた。

売れっ子の先輩はおじさん達を上手にあしらって疑似恋愛にもっていっている。話題も豊富でそのお客様の趣味を熟知して勉強していた。パトロンを取り合ったり、金持ちのおじさん達のご機嫌をとるのに必死だ。

「それでも私達は住む世界が違うから愛人にしかなれないからね。つまりは一番の女にはなれないんだよ。捨てられないように日々自分を磨かないと最後は場末の娼婦に落ちる可能性もあるからね」
 そんな言葉を言う先輩もいた。

どこで自分は間違えたのかな。こんなにお金で苦労しなくていい家柄に生まれながら自分の愚かさで転落した私は土手に座って黙って夕焼けを眺める。

男爵令嬢だった頃に見た夕焼けは希望に満ちた活力みなぎるオレンジだった。でも、今の私の目に映る夕焼けは毒々しいほどの朱色に染まり、不安な気持ちをかきたてた。

「お母様の言うことをちゃんと聞いていれば良かった」

 ちゃんと真面目に勉強して同じような身分の同級生の男性とつきあっていればしなくていい苦労を背負い込んだ私・・・・・・バカだ、私は・・・・・・どうしようもないバカだ。


 私はクラブを辞めて、またあの仕事斡旋所に向かった。

「すみません。旅館の仲居さんのお仕事ありますか? 一所懸命やりますから・・・・・・」
 私はあの捨てゼリフを吐いたおばさんに頭を下げてお願いしていたのだった。

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