(完)年増になったから婚約破棄する?ーー誰のせいでなったと思ってんだ!

青空一夏

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9 私は幸せ(最終話)

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私は裁判に勝ち慰謝料も分割で毎月支払われている。全てが日常に戻り穏やかな日々になるはずだった・・・・・・なのに、やたら同僚から冷やかされる。

「今日もサンディ・カートレット部長の家に寄るのでしょう? 結婚式はいつなのよ?」
 同僚達が揃って私に尋ねてくるのだ。

「え? 結婚式? 誰と誰の? 言っとくけどこれはボランティアなのよ。サンディったら全然お掃除ができないのよ。脱いだお洋服はそのへんに置きっぱなしで、クローゼットはぐちゃぐちゃ! 引き出しなんていろんなものが一緒くたに押し込まれているから、どこになにが入っているのかも知らないのよ? 私がいないと全然ダメなの」

「ぷっ。そのぐらいのダメさ加減がちょうどいいかもね。ルーナ、きっと幸せになれるわよ」

――は? これは友人としてのボランティアなんだけどなぁ。クローゼットや食器棚、書斎の引き出しや靴箱、もうごちゃっとし過ぎていてやり甲斐があるったらないのよ! マックスはその点神経質で引き出しは綺麗に仕切りを自分で作っては、整理整頓していた。ただ、お金の面では最悪だったけれど。

サンディはマックスとは正反対だ。
「ルーナ! 今日は外で美味しいディナーを食べよう! 良いお店を見つけたんだよ。きっと君が気に入りそうなんだ。もちろん僕が奢るよ」

「え? 行く度にご馳走してもらったら悪いわよ」

「いいから。男が女性の食事ぐらい奢るのは当然だから。それぐらいの甲斐性はあるつもりだよ」
 このように優しく笑って私にお財布を決して出させないのよ。

「こういう時の為にお金を惜しむ男なんてろくなものじゃないよ」
そう言いながら微笑む彼は、とてもハンサムでスマート。私は友人枠だと思っていたから奢って貰うと気が引けた。

彼の家に入ると早速靴箱に収めていない靴が玄関先に散らばっているし、脱ぎ散らかした服は至る所におちていた。

ため息をつきながら私は思わずこう言った。
「やっぱり、あなたは私がいなきゃダメね! こんなに散らかして! 私がいないと玄関からもうダメだわ」

「あっはは! その通りだよ。だから、今年じゅうに結婚しようね!」

「えぇ? なによ、それ? 私は結婚なんか・・・・・・」

「だって、君に見捨てられたら私は洋服に埋もれて出勤できないかもしれないよ」

「そんなわけあるもんですか! おバカさんね・・・・・・」
鼻で笑っていた私もついには根負けして結婚。





 それから2年後のことだ。
「サンディ! 騙したわね? 全然、掃除が苦手じゃないじゃない!」
妊娠してお腹がだいぶ目立ち始めた私は、夫にブツブツと文句を言っていた。

「君はゆっくりしていて。お腹の子に触るからね」
そう言いながらテキパキと部屋を掃除し、あるべきところにものを収めていく夫。

しわになりやすい服はハンガーに掛けてクローゼットに、引き出しの中には完璧にたたまれたそれ以外の衣服が色別に季節ごとに分けて収納された。私よりも緻密に考えられた収納テクニック? 

――くっつ! 酷いわ! たたみ方も、ちゃんと入るスペースにあわせて工夫されてるじゃないよ。これは『立てて衣服を賢く収納の○○さんテクニック』直伝?

「ねぇ、ずるいわ! 整理整頓できるんじゃないよ! はじめから嘘ついていたのね?」

 私は口を尖らせて夫をなじったわ。

「あっはは。こんなのかわいい嘘だろ? 好きな女を手に入れる為さ。これは許容範囲だと思うよ。世話を焼きたかったらこれから生まれてくる子供の世話を焼けば良い。ただし、甘やかし過ぎたらどうなるかわかっているよね?」

「えぇ、もちろんわかっているわ!」

――そう、甘やかし過ぎたらきっと昔のマックスみたいなダメ人間になるわ。私、最初の恋人選びに失敗したけど子供の教育は失敗しないわよ。

「大丈夫よね? だって、夫選びには成功した私だもの! 子供の教育だって成功するわ」
 私はサンディの顔を甘えるように見つめた。

「そうだな。夫選びは正解だったね。お利口さんだ」
 私の最愛の旦那様は私に、にっこり笑って口付けたのだった。終わりよければすべてよし、よね?


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