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番外編
1 イモージェンの幸せ
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「お客様がいらっしゃってからお帰りになるまでがおもてなしですよ。お客様に喜んでいただくことを考えて動けばけっして難しい仕事ではありませんからね」
旅館の女将さんの言葉を神妙に聞く私だ。
私の担当は5号室から7号室で3部屋だった。
「さぁ、これからお客様がいらっしゃいます。お出迎えをするのには、なんといっても笑顔が大事ですよ! 明るく爽やかな笑顔でお出迎えが基本ですからね」
――そうだよね。私が旅行に行く時だって感じの悪い仲居さんに当たると最悪な気分になるもんね。自分がされたら嬉しいことをすれば間違いないよ。
私はニコニコと心からの笑顔を浮かべた。そうすると不思議なんだよね。お客様も嬉しそうにニコニコとするんだ。笑顔って連鎖していくのかな?
夕食時には料理を運び配膳する。5号室の老夫妻は落ち着いた上品な方達だった。
「このお料理は美味しいわね? あら、見たことがないお野菜が入っているわ。これは、なぁに?」
「はい、アーティチョークと言いましてキク科の植物です。これは若いつぼみなんですよ」
「そうなのねーー。初めて見たわ! ソラマメと栗を合わせたような不思議なお味ね。どっちも好きだから今日はとても得した気分よ」
そう言いながら奥様は嬉しそうに可愛らしく微笑んだ。仲睦まじい老夫婦のとても和やかな旅をより満喫してもらえればいいな。私は自然とそう思えたんだ。
「喜んでいただけてなによりです。ごゆっくりどうぞ! なにかございましたらベルをお鳴らしくださいませ。飛んで来ますから」
「ふふふっ、可愛い仲居さんね! まだ若いのにこの仕事を選ぶなんて真面目でしっかりした子なのねぇーー。頑張って!」
「はい! ありがとうございます」
――褒められると素直に嬉しい。この仕事って楽しいなぁ。
6号室の大家族は子供達がはしゃいですごくうるさいけれど思いの外、礼儀正しい子達で布団を敷く私に可愛くお礼を言ってくれた。
「ありがとう! お姉ちゃん」
そんな言葉にほっこりして思わずお姉様を思い出した。幼い頃はとても仲良しだったお姉様。
――私、自分のお姉様にとても悪いことをしたなぁ。お姉様、あんなに教師になるのを夢見ていたのに・・・・・・
お客様が帰る時にはお見送りをして深く頭を下げた。
「また来年もいるかしら? あなたに会いにまたくるわね」
5号室の奥様がそう言って手を振った。
「はい、います!」
それから、3年の月日が流れたくさんのお客様をお迎えしお見送りしてきた。もちろん、なかには厄介なお客様もいたけれど大抵は良い方達ばかりでこちらが丁寧に心を込めて接客すれば感謝さえしてくれて『来年も来るね』と言ってくださる。
――水商売でおじさんに媚びを売るよりもこっちのほうが百倍いい!
だから、私は今日も大きな声で挨拶するんだよ。
「お待ちしておりました!! 青空旅館へようこそいらっしゃいませ」
旅館の女将に見込まれ若旦那さんの妻になるのはそれから2年後のことだった。
昔の私はもういないよ。オズボーン先生の奥さんにはもう慰謝料もとっくに払い終わったし、今は生まれ変わった新生イモージェンなんだ。
私は仲居さん達に元気よく号令をかける。
「さぁ、心からの笑顔でお腹から声を出しましょう! お待ちしておりました。青空旅館へようこそいらっしゃいませ!」
旅館の女将さんの言葉を神妙に聞く私だ。
私の担当は5号室から7号室で3部屋だった。
「さぁ、これからお客様がいらっしゃいます。お出迎えをするのには、なんといっても笑顔が大事ですよ! 明るく爽やかな笑顔でお出迎えが基本ですからね」
――そうだよね。私が旅行に行く時だって感じの悪い仲居さんに当たると最悪な気分になるもんね。自分がされたら嬉しいことをすれば間違いないよ。
私はニコニコと心からの笑顔を浮かべた。そうすると不思議なんだよね。お客様も嬉しそうにニコニコとするんだ。笑顔って連鎖していくのかな?
夕食時には料理を運び配膳する。5号室の老夫妻は落ち着いた上品な方達だった。
「このお料理は美味しいわね? あら、見たことがないお野菜が入っているわ。これは、なぁに?」
「はい、アーティチョークと言いましてキク科の植物です。これは若いつぼみなんですよ」
「そうなのねーー。初めて見たわ! ソラマメと栗を合わせたような不思議なお味ね。どっちも好きだから今日はとても得した気分よ」
そう言いながら奥様は嬉しそうに可愛らしく微笑んだ。仲睦まじい老夫婦のとても和やかな旅をより満喫してもらえればいいな。私は自然とそう思えたんだ。
「喜んでいただけてなによりです。ごゆっくりどうぞ! なにかございましたらベルをお鳴らしくださいませ。飛んで来ますから」
「ふふふっ、可愛い仲居さんね! まだ若いのにこの仕事を選ぶなんて真面目でしっかりした子なのねぇーー。頑張って!」
「はい! ありがとうございます」
――褒められると素直に嬉しい。この仕事って楽しいなぁ。
6号室の大家族は子供達がはしゃいですごくうるさいけれど思いの外、礼儀正しい子達で布団を敷く私に可愛くお礼を言ってくれた。
「ありがとう! お姉ちゃん」
そんな言葉にほっこりして思わずお姉様を思い出した。幼い頃はとても仲良しだったお姉様。
――私、自分のお姉様にとても悪いことをしたなぁ。お姉様、あんなに教師になるのを夢見ていたのに・・・・・・
お客様が帰る時にはお見送りをして深く頭を下げた。
「また来年もいるかしら? あなたに会いにまたくるわね」
5号室の奥様がそう言って手を振った。
「はい、います!」
それから、3年の月日が流れたくさんのお客様をお迎えしお見送りしてきた。もちろん、なかには厄介なお客様もいたけれど大抵は良い方達ばかりでこちらが丁寧に心を込めて接客すれば感謝さえしてくれて『来年も来るね』と言ってくださる。
――水商売でおじさんに媚びを売るよりもこっちのほうが百倍いい!
だから、私は今日も大きな声で挨拶するんだよ。
「お待ちしておりました!! 青空旅館へようこそいらっしゃいませ」
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昔の私はもういないよ。オズボーン先生の奥さんにはもう慰謝料もとっくに払い終わったし、今は生まれ変わった新生イモージェンなんだ。
私は仲居さん達に元気よく号令をかける。
「さぁ、心からの笑顔でお腹から声を出しましょう! お待ちしておりました。青空旅館へようこそいらっしゃいませ!」
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