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9 アレグラン視点
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門をくぐった瞬間、何かがおかしいと感じた。
視線。空気。
誰も何も言わないくせに、すれ違う兵士たちの目がほんのわずかに揺れる。
驚きでもなければ、尊敬でもない。むしろ、見てはいけないものに対する目線だった。
兵舎前の掲示板。
そこに、見慣れない紙が一枚、人目を引くように張り出されていた。
罫線も文字もきっちり整えられた、その文書を俺はぼんやりと見つめる。
【告示】
騎士アレグランは、騎士団本部の決定により、本日より当面の間、精神鍛錬および自己修養のための特別任務に従事することを命じる。
任務内容は駐屯地内の整備・物資管理・環境保全等であり、兵舎勤務の一環として実施されるものである。
なお、当該処置は騎士としての更なる成長を促すための措置であり、懲罰ではない。
騎士団長 レオン・ヴェルツェル
目の奥が、じわりと熱くなった。
“懲罰ではない”――その一文が、かえって俺の惨めさを際立たせる。
誰が見たって、それは左遷であり、恥晒し以外の何ものでもないのに。
「……ふざけやがって」
顔を上げると、すぐそばで雑用係の兵士がバケツを抱えて俺を見ていた。
目が合った。
その兵士は、無言のまま小さく会釈して――それだけで、立ち去っていった。
敬礼でも、声をかけるでもない。
あれは目上の騎士に向ける態度じゃない。
……いや、そもそも、今の俺は“騎士”と呼べるのか?
称号はまだ、俺にある。
国王から叙任された名誉は、誰にも奪えない。
だが、その称号に敬意を払う者は、もうどこにもいなかった。
掲示板の告知を見たあとは、兵士の一人に案内されるまま、無言で駐屯地の裏手へと歩いた。
騎士棟ではない。
将校用の部屋でもない。
案内されたのは、物資倉庫と兵舎のちょうど中間に位置する、古びた小棟だった。
「今日からはこちらで」
そう言って兵士が開けた扉の先には、薄暗く、カビ臭い空気が漂っていた。
床板は歪み、壁にはヒビが走り、窓は小さく、曇ったガラスは光すらろくに入ってこない。
「……は?」
思わず声が漏れた。
この空間の、どこをどう見れば“部屋”になる?
物置だ。どう見ても、掃除道具と壊れかけの椅子を詰め込んでいたような、ただの物置だった。
壁際に置かれた鉄製ベッドは錆びついて軋み、寝具は薄い一枚の毛布だけ。
机はなく、かわりに箱を裏返したような板が一つ。
棚の代わりに、釘が数本打たれた壁がある。そこに服でも吊るせというのか。
「……ここが、俺の部屋?」
視線。空気。
誰も何も言わないくせに、すれ違う兵士たちの目がほんのわずかに揺れる。
驚きでもなければ、尊敬でもない。むしろ、見てはいけないものに対する目線だった。
兵舎前の掲示板。
そこに、見慣れない紙が一枚、人目を引くように張り出されていた。
罫線も文字もきっちり整えられた、その文書を俺はぼんやりと見つめる。
【告示】
騎士アレグランは、騎士団本部の決定により、本日より当面の間、精神鍛錬および自己修養のための特別任務に従事することを命じる。
任務内容は駐屯地内の整備・物資管理・環境保全等であり、兵舎勤務の一環として実施されるものである。
なお、当該処置は騎士としての更なる成長を促すための措置であり、懲罰ではない。
騎士団長 レオン・ヴェルツェル
目の奥が、じわりと熱くなった。
“懲罰ではない”――その一文が、かえって俺の惨めさを際立たせる。
誰が見たって、それは左遷であり、恥晒し以外の何ものでもないのに。
「……ふざけやがって」
顔を上げると、すぐそばで雑用係の兵士がバケツを抱えて俺を見ていた。
目が合った。
その兵士は、無言のまま小さく会釈して――それだけで、立ち去っていった。
敬礼でも、声をかけるでもない。
あれは目上の騎士に向ける態度じゃない。
……いや、そもそも、今の俺は“騎士”と呼べるのか?
称号はまだ、俺にある。
国王から叙任された名誉は、誰にも奪えない。
だが、その称号に敬意を払う者は、もうどこにもいなかった。
掲示板の告知を見たあとは、兵士の一人に案内されるまま、無言で駐屯地の裏手へと歩いた。
騎士棟ではない。
将校用の部屋でもない。
案内されたのは、物資倉庫と兵舎のちょうど中間に位置する、古びた小棟だった。
「今日からはこちらで」
そう言って兵士が開けた扉の先には、薄暗く、カビ臭い空気が漂っていた。
床板は歪み、壁にはヒビが走り、窓は小さく、曇ったガラスは光すらろくに入ってこない。
「……は?」
思わず声が漏れた。
この空間の、どこをどう見れば“部屋”になる?
物置だ。どう見ても、掃除道具と壊れかけの椅子を詰め込んでいたような、ただの物置だった。
壁際に置かれた鉄製ベッドは錆びついて軋み、寝具は薄い一枚の毛布だけ。
机はなく、かわりに箱を裏返したような板が一つ。
棚の代わりに、釘が数本打たれた壁がある。そこに服でも吊るせというのか。
「……ここが、俺の部屋?」
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