【完結】夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!

青空一夏

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29 エルナの気持ち

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 考えれば考えるほど悩ましくて、言葉がうまく出てこない。
 それでも、返事だけはしなければいけない。
 レオン団長の真剣な気持ちに、黙ったままでいることだけは、できなかった。

 私は、そっと目を伏せたまま、小さく息を吐く。

 「……お気持ちは、とてもありがたいです。レオン団長のような立派な方に、そう言っていただけて……本当に光栄だと思っています。でも……」

 声にするたび、胸の奥が軋んだ。
 自分の口から出る言葉が、ひどく冷たく聞こえて、泣きたくなった。

 レオン団長の気配が伝わってくる。
 私の言葉を一つも取りこぼさぬように、どんな顔で聞いているのか――怖くて、顔が上げられなかった。

 もしも、今、彼と目が合ってしまったら、つい本音を言ってしまいそう。
 『はい、私も家族になりたいです!』
 そう言えたら、どんなにいいだろう……でも、なにも考えずにそう答えるわけにはいかない。

 レオン団長の重荷になりたくない。
 ルカもまだ生まれたばかり。
 私はもう、自分の幸せだけを追いかけられる立場ではない――だって、ルカのお母さんなんだもの。

 「私とレオン団長では、あまりにも……身分が違いすぎます。それに、今の私はルカのことを第一に考えてあげたいんです」
 そこで言葉が途切れた。
 胸の奥で何かが疼いて、指先がほんのわずかに震える。
 「お返事は……しばらく、待ってもらえますか?」

 レオン団長は何も言わなかった。
 その沈黙が、かえって胸を締めつける。

 ――……本当は、大好きなんです。あの言葉が、どれだけ嬉しかったか。これまで生きてきて、一番幸せだった瞬間でした。

 けれど、それを口にすることはできなかった。
 それに、レオン団長がこうしてそばにいてくれるだけで――もう、十分すぎるほど幸せだとも思っていた。

 支えてくれる人たちがいる。
 商店街の女将さんたち。ユリルとトミー。そして、いつも隣にいてくれるアルト。
 そして何より、レオン団長も……。

 だから私は、この小さな日常を、しっかり守っていきたい。
 欲張らずに、今ある幸せを、大切に抱きしめて。

 そして、レオン団長は……
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