【完結】夫がよそで『家族ごっこ』していたので、別れようと思います!

青空一夏

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51 神獣アルトのお仕置き-2

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 凍てつく冷気が、じわりと地を這い、私の足元に忍び寄ってきた。

「なっ……なにを……やめろ……やめ――!」

 声が凍りつく。
 あまりにも冷たい空気に、肌がビリビリと震えた。
 体が、動かない。

 ゴゴゴゴゴ……ッ!
 ミシミシミシッ!!

 耳をつんざく轟音とともに、分厚い氷がせり上がり、私を取り囲む。

 まるで透明な棺。
 いや、それ以上だ――閉ざされた、逃げ場なき監獄。

「なっ、なんだこれは……出せ! 出せぇ!!」

 拳を叩きつける。
 だが氷は、びくともしない。
 衝撃が跳ね返り、拳に鈍い痛みが走った。

 息はできる。
 寒さもひどいが、凍死するほどではない。
 だが……このままでは、何日も、閉じ込められたままかもしれない。

 そんな中――

「…………氷檻の完成ですわね」
「神獣様を、檻に閉じ込めようとしたからですよ」
 氷越しに、貴婦人たちの冷たい呟きが聞こえた。
 くすくすと、笑い声も混じる。

 商店街の女将たちまでも、指を差して大笑いしていた。
「アルトちゃん、よくやったねぇ!」
「悪大神官にはお似合いだよ!」

 冗談ではない!
 私は必死に叫んだ。

「出せ! 誰か! 助けろ!!」

 だが、私の声は氷に遮られ、外には届かない。
 外からの声だけが、鮮明に聞こえてくるだけだ。

 神獣アルトの作り出した氷。
 ──これは、ただの氷ではない。

 そんな中、国王陛下が静かに立ち上がった。
「大神官コルネリオ。これをもって、その職を解く。
 そして、氷が溶け次第、国外追放とする」

 その言葉は、雷のように私を打った。
 国外追放――!?
 そんな馬鹿な……!
 晒し者にされ、こんな檻に閉じ込められて、挙げ句の果てに……?

「自分がしようとしたことが、かえってきただけだろ」
 冷たく響く声。レオンだった。

「その通りです。神獣様を閉じ込めようとなさったからですよ。アルト様はすべてお見通しだったのでしょう」
 さらに、若い神官デイミアンまでが追い打ちをかける。
 その顔には、わずかな憐れみすら浮かんでいた。
「まあ……氷はいずれ溶けるでしょうから。それまで、少しは反省なさってください」

 反省だと? 何を、だ。
 私は神のために尽くしてきたはずだ……!
 
 しかし、神官たち部下は冷たい顔で背を向け、騎士や兵士、貴族たち、国王陛下も――誰一人、私を振り返る者はいなかった。
 レオンは、眠る神獣アルトを大切に抱きかかえ、家族とともに晴れやかな顔で去っていった。

 残ったのは、庶民たちだけだった。
 怒りをぶつける者、軽蔑の目を向ける者。

「恥を知れ!」
「罰が甘すぎる!」
 罵声が飛び交う。

 子供たちまでが私を囃し立て、笑い転げた。
「見て、あれ! 氷の中でプルプルしてる!」
「もっとプルプルしてー!」
 哄笑の波が広がっていく。

 こんなはずではなかった。
 私は、神の代行者だったはずだ。
 神殿の頂点に立つ者だったはずだ……!

 なのに、どうして。
 どうして、こんな……。

 これは間違いだ。
 私は、悪くない。
 悪いのは――。

 寒さが、痛い。
 情けなさに、胸が軋む。

 鼻をすする音が、やけに大きく響いた。
 ……気づけば、頬を伝うものがあった。

 それが涙だと気づくまでに、少し時間がかかった……



【ドネロン伯爵夫人視点】

 まさか、神殿で一番偉いコルネリオ大神官様が――国外追放だなんて。
 そんな、馬鹿な……。

 私は思わず身を震わせた。
 私は知らない。
 私は何も関係ない。
 ……そうよ、関係ないはず。

 分厚い氷に閉じ込められたコルネリオ大神官を一目見るなり、私は広場から逃げるように駆け出していた。

 こんなはずじゃなかった。
 神獣が、あんな……あんな恐ろしい力を振るうだなんて。

 もう、エルナたちには関わらない。
 あんな得体の知れない連中、二度と……!

 そう、このまま黙っていれば――
 私には、きっと、なんのお咎めもない。
 何も起きないはず……。

 そう、思っていたのに――



【続く】


•───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

※アルトの活躍、いかがでしたでしょうか? 「よく、やった。すっきりした」と思った方は、いつものように💓をトントン😄お願いします! 
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