7 / 24
6-2
しおりを挟む
早速、翌日からセオドリック王太子殿下の命で、王城の厨房に特注のパン釜が設置され、パンを焼く為に小麦粉やバターに卵などたくさんの材料も用意された。国王陛下夫妻にも配慮が足りなかったと謝られ、好きなだけパンを焼きなさい、と言われた。カスパー第二王子殿下以外の王族の方々は皆優しいし私を労ってくださるから、余計にカスパー第二王子殿下の本性は言えなかった。
それから私はたまに王城でパンを焼いた。父さんと母さんから送ってもらったパンのレシピノートを見ながら焼くと、懐かしい焼きたてのパンのかおりに包まれて、ここが王城であることも一瞬忘れられた。焼き上げるとまずは婚約者のカスパー第二王子殿下に持って行く。騎士団の差し入れとして持って行くと、騎士達の前では大袈裟に喜んで見せたけれど、自分は決して食べようとしなかった。
「俺は一流のシェフが焼いたパンしか食べない。高貴な俺がお前が焼いたパンなど食べてみろ。消化不良を起こすだけさ」
私にはそうおっしゃったけれど、騎士団達の前では最高に美味しいパンだと褒め称えた。セオドリック王太子殿下にもお持ちすると、今度は心のこもった言葉をいただけた。
「アンジェリーナの焼いたパンは最高に美味しいよ。こうして噛みしめているだけで、自然と笑顔になれる。今まで生きてきて食べたなかで、一番美味しいパンだと思うよ」
すっかり泣かなくなった私の頬に涙がつたう。この方はいつだって優しくて、私の欲しい言葉をかけてくださる。なぜ・・・・・・なぜ、私の婚約者がセオドリック王太子殿下ではないのだろう。王妃になりたいとか贅沢がしたいとかじゃない。お互いが労り合える夫婦になりたかった。私の父さんと母さんのような優しい関係で、信頼できて支え合える家族になりたかった。でも、それはカスパー第二王子殿下とでは、とても叶わない夢だ。
❁.。.:*:.。.✽.
ある日、騎士団の武器倉庫で魔法を盾や剣に付与していると、必死の形相でカスパー第二王子殿下が飛び込んで来た。
「愛おしいアンジェリーナ、聞いて貰いたい頼みがあるんだ。絶対にもう君に酷いことを言わないと約束するから、金を貸してくれないか?」
耳を疑う言葉に私は首を傾げるだけだ。騎士団長のお給料はかなり高額だし、第二王子殿下としての品格維持費だって毎年の予算がついているはずだった。どういうことなのか説明を求め、その理由に呆れてしまった。
「実はな、城を抜け出してカジノに行っていた。そこで大借金をこしらえてしまった。返さないと父上に言うと脅されたのだ。父上にバレたら終わりさ。一気に信用をなくし騎士団長の座も降ろされてしまうよ」
情けない声を出し私にしがみつくカスパー第二王子殿下は、私を上目遣いに見て猫なで声を出した。
「今までのことは反省している。これからはアンジェリーナを一番に大事にするよ。ほら、アンジェリーナの付与魔術師としての年俸は、確か騎士団長の俺より多いよな? 父上はお前を過大評価・・・・・・じゃない、とても正当に評価なさっているから、大金を貰っていたはずだ。だから今までの貯金を俺にくれ」
私は付与魔術師としてのお給料の半分は、孤児院に寄付をしていることを話した。すると、カスパー第二王子殿下は突然怒りだした。
「なんで勝手なことをするんだよ! お前の稼ぎは俺のものでもあるわけだろう? なのに、なんの関係もない薄汚い子供なんかに、なぜ金を恵んだのだ。これは未来の夫に対する裏切りだろう? どうしてくれるんだ? それだと金がたりないぞ。父上と兄上にだけはバレたくない。どうしたらいい?」
私はセオドリック王太子殿下に思いを馳せる。「弟を頼むよ」と、何度も私に頭を下げてくださった。カスパー第二王子殿下のことを、とても信頼しているセオドリック王太子殿下がこのことを知ったら、きっとがっかりなさるだろうな。
「わかりました。お金は私がなんとかしましょう」
そんな言葉がつい私の口から漏れた。カスパー第二王子殿下の為じゃなくて、いつも優しくしてくださる国王陛下やセオドリック王太子殿下の顔が浮かんだから。私はあの方々を悲しませたくなかった。
それから私はたまに王城でパンを焼いた。父さんと母さんから送ってもらったパンのレシピノートを見ながら焼くと、懐かしい焼きたてのパンのかおりに包まれて、ここが王城であることも一瞬忘れられた。焼き上げるとまずは婚約者のカスパー第二王子殿下に持って行く。騎士団の差し入れとして持って行くと、騎士達の前では大袈裟に喜んで見せたけれど、自分は決して食べようとしなかった。
「俺は一流のシェフが焼いたパンしか食べない。高貴な俺がお前が焼いたパンなど食べてみろ。消化不良を起こすだけさ」
私にはそうおっしゃったけれど、騎士団達の前では最高に美味しいパンだと褒め称えた。セオドリック王太子殿下にもお持ちすると、今度は心のこもった言葉をいただけた。
「アンジェリーナの焼いたパンは最高に美味しいよ。こうして噛みしめているだけで、自然と笑顔になれる。今まで生きてきて食べたなかで、一番美味しいパンだと思うよ」
すっかり泣かなくなった私の頬に涙がつたう。この方はいつだって優しくて、私の欲しい言葉をかけてくださる。なぜ・・・・・・なぜ、私の婚約者がセオドリック王太子殿下ではないのだろう。王妃になりたいとか贅沢がしたいとかじゃない。お互いが労り合える夫婦になりたかった。私の父さんと母さんのような優しい関係で、信頼できて支え合える家族になりたかった。でも、それはカスパー第二王子殿下とでは、とても叶わない夢だ。
❁.。.:*:.。.✽.
ある日、騎士団の武器倉庫で魔法を盾や剣に付与していると、必死の形相でカスパー第二王子殿下が飛び込んで来た。
「愛おしいアンジェリーナ、聞いて貰いたい頼みがあるんだ。絶対にもう君に酷いことを言わないと約束するから、金を貸してくれないか?」
耳を疑う言葉に私は首を傾げるだけだ。騎士団長のお給料はかなり高額だし、第二王子殿下としての品格維持費だって毎年の予算がついているはずだった。どういうことなのか説明を求め、その理由に呆れてしまった。
「実はな、城を抜け出してカジノに行っていた。そこで大借金をこしらえてしまった。返さないと父上に言うと脅されたのだ。父上にバレたら終わりさ。一気に信用をなくし騎士団長の座も降ろされてしまうよ」
情けない声を出し私にしがみつくカスパー第二王子殿下は、私を上目遣いに見て猫なで声を出した。
「今までのことは反省している。これからはアンジェリーナを一番に大事にするよ。ほら、アンジェリーナの付与魔術師としての年俸は、確か騎士団長の俺より多いよな? 父上はお前を過大評価・・・・・・じゃない、とても正当に評価なさっているから、大金を貰っていたはずだ。だから今までの貯金を俺にくれ」
私は付与魔術師としてのお給料の半分は、孤児院に寄付をしていることを話した。すると、カスパー第二王子殿下は突然怒りだした。
「なんで勝手なことをするんだよ! お前の稼ぎは俺のものでもあるわけだろう? なのに、なんの関係もない薄汚い子供なんかに、なぜ金を恵んだのだ。これは未来の夫に対する裏切りだろう? どうしてくれるんだ? それだと金がたりないぞ。父上と兄上にだけはバレたくない。どうしたらいい?」
私はセオドリック王太子殿下に思いを馳せる。「弟を頼むよ」と、何度も私に頭を下げてくださった。カスパー第二王子殿下のことを、とても信頼しているセオドリック王太子殿下がこのことを知ったら、きっとがっかりなさるだろうな。
「わかりました。お金は私がなんとかしましょう」
そんな言葉がつい私の口から漏れた。カスパー第二王子殿下の為じゃなくて、いつも優しくしてくださる国王陛下やセオドリック王太子殿下の顔が浮かんだから。私はあの方々を悲しませたくなかった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,993
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる