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31 アリッサを助ける王太后・待ち伏せするサミー
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「やぁ、アリッサ。久しぶりだね。そろそろ来ると思ってたよ。プレシャスのことは本当に残念だった。お産で亡くなるなんて思わなかったよ。ところで、あの侍女が抱いている女の子が、私の娘かい? 今まで世話をしてくれて感謝している。プレシャスを預けて、面倒をかけたな。申し訳なかった」
「は? お兄様、何をおっしゃっているの?」
「ワイマーク伯爵領は自然豊かな土地だし、空気も綺麗で水もうまい。安心してお産ができそうだから、私がアリッサにプレシャスを預かってくれと、頼んだのを忘れたのかい? アリッサの仕事はここまでさ。今まで面倒をかけてすまなかったね。ありがとう」
いきなり、ニッキーはわざとらしい演技を始めた。まるで、自分からプレシャスをアリッサに預けたかのように装っている。
「ワイマーク伯爵夫人。兄妹仲が良いことは誠に素晴らしい。特に、少し前までは揉めていた家族が和解し協力しあう光景は、見ていて微笑ましい思いだ。さて、この新しい命はギャロウェイ伯爵家の籍にいれ、長女と記載することを認めよう。母親のプレシャスが亡くなったことは残念であったが、この子が誕生したことは実にめでたい」
国王は上機嫌で、アリッサに微笑んだ。
「お待ちください。お兄様にこの赤ちゃんは渡しませんわ。サミー卿の婚約者にさせようとしたくせに、よくも、なにごともなかったようにこの子を引き取ろう、などと言えますね? プレシャス様はお兄様から逃げて、ワイマーク伯爵領に来たのですわ。嘘ばかりおっしゃらないで」
アリッサの言葉に国王は首を傾げ、ニッキーを睨みつけた。
「サミー卿の婚約者に? ニッキー卿。それは年齢が離れすぎであろう? この子が年頃になり、サミー卿に好意を抱き嫁に行きたいというのならまだしも、親が一方的に決める政略結婚でその年齢差は問題だ」
「国王陛下。その話はすでになくなりました。サミー卿と縁を結びたいがために、ついそのような案をプレシャスに言ってしまったことは反省しております。しかし、今ではこの子の婚約者には同じような年代の、釣り合いのとれた相手をと考えております」
「そうか。ならば、問題は解決だな。ワイマーク伯爵夫人よ、その赤ちゃんをギャロウェイ伯爵家に返しなさい。ニッキー卿とプレシャスの離婚が成立していない以上、その赤ちゃんの親権はニッキー卿にあるのだよ」
「陛下のご英断に心より感謝申し上げます。さぁ、アリッサ。こちらに赤ちゃんを渡してくれ。大事に育てるから安心してほしい」
「いけません! プレシャス様の赤ちゃんに触らないで!」
「こらっ! いい加減にしないか! 国王陛下のご裁可がくだったのだぞ。おとなしくその子を渡せ!」
ニッキーは侍女から赤子を無理矢理奪おうとするが、アリッサが目の前に立ちふさがった。
「国王陛下、どうか今一度ご再考ください。こちらに、プレシャス様の遺言書がございます」
ラインは切り札となる遺言書を国王に差し出す。
国王が遺言書を読み進めている隙をついて、アリッサは侍女から赤ん坊を受け取り、さりげなく目配せをして王太后に知らせするよう指示を出した。侍女は静かにその場を離れ、王太后のもとへと向かった。
「プレシャスの希望は、娘をワイマーク伯爵家の子供として育ててほしいということだ。理由は、ニッキー卿による度重なる暴言や、ギャロウェイ伯爵夫妻の時代錯誤な考え方があげられている。政略結婚の駒としてしか見られない環境で、娘を育てることは断固拒否したいと書かれているぞ」
「国王陛下、その問題はすでに解決しております。政略結婚の話はなくなりましたので、もはやご心配には及びません。娘の嫌がることを強要するつもりはありませんから、ご安心ください」
「そうか? ワイマーク伯爵夫人、この赤ん坊の父親はニッキー卿であることに変わりはない。問題は解決しているのだから、もう良いだろう? 実の親のもとで育つほうが、この子にとって幸せであろう」
裁可がくだったところで、王太后が女官を複数引き連れて姿を現した。
「お待ちくださいな、陛下。私にも、その遺言書を見せてください」
「はっ、母上・・・・・・どうしてこちらに? これはニッキー卿の妻プレシャスの遺言書ですが、ニッキー卿は心を入れ替えたといっています。この赤子はニッキー卿が引き取るのが道理だと思われます」
「いいから。こちらに遺言書を渡すのです」
王太后はプレシャスの遺言書を読みながら涙を流し始めた。
「このような真摯な母親の願いを退けようというのですか? 明らかに、プレシャスはニッキー卿と離婚したいと望んでいた文面ではありませんか? 娘をアリッサに託したこの者の切実な願いが、なぜ国王陛下にはわからぬのですかっ! 私がジョーゼフを国王に推したのは、このような判断をさせるためではありませんよ」
「はっ、母上。そのように興奮なさっては、お体に障ります。母親の願い? 確かに、それは無視できないことではあります。それで、母上の判断はどのようなものとなりますか?」
「もちろん、ワイマーク伯爵夫妻の子供として育てることを認めます。命をかけて生んだプレシャスの思いを踏みにじってはいけません」
「わかりました。さすがに、素晴らしいご判断です。親子の、特に母と子の問題に関しては母上のお考えが常に正しい。では、ワイマーク伯爵夫妻がこの赤子を育てよ。養女として認める。これにて一件落着ですね?」
国王は王太后には頭が上がらないのだ。なぜなら、国王には優秀な弟であるアマディーアスがいる。今のトラスク公爵である。前王や大臣たちはアマディーアスが国王になることを望んだが、王太后は長男のジョーゼフを国王にすることを望んだ。
王国の伝統や法律では、長男が自動的に王位を継ぐという制度が確立されていたため、王太后はこれに従うべきだと考えた。もし次男が王位に就けば、将来的に継承問題や反乱の火種になりかねないと心配したため、王国の安定を第一に考え、正統な継承権を持つ長男を国王にする意見を主張した。
結局、王太后の尽力のお陰でジョーゼフが国王になり、その恩義を国王は王太后に感じているのだった。
ニッキーは悔しそうに顔を歪めて、アリッサを睨んだ。アリッサはプレシャスが亡くなったというのに、涙ひとつ見せないニッキーに失望を感じていたが、ほんの少しの期待を込めずにはいられなかった。
「お兄様。父親として純粋にこの子の顔が見たくなったときは、いつでもお越しください。この子のお誕生日にはぜひお呼びしたいと思います」
これはアリッサの本心だった。ニッキーが、自分の子に対して、私利私欲のない純粋な愛情を向けてくれることを心から願った。アリッサはまだ、ニッキーが昔のような優しさを取り戻すことをどこかで期待していたのだ。
「なにをきれい事を言っているんだよ! そんなこと少しも思っていないくせに。なんで、アリッサはいつも私の邪魔をするんだ? 幼い頃は、私の言うことをよく聞く素直な子だったのに」
「・・・・・・幼い頃は良かったですわ。お兄様は優しかったし、人の嫌がることをするような人ではありませんでした」
(昔のことを思い出してくれたのなら、あの優しかった心も取り戻してほしい)
だが、ニッキーはしかめっ面をして、国王に深々と畏敬の念を込めて一礼し、そのまま静かに後退りし、その場から立ち去ってしまった。
アリッサとラインは王太后のサロンに呼ばれ、お茶を振る舞われながら、今回の口添えに感謝の言葉を述べた。
「王太后陛下。ありがとうございました。これでプレシャス様は安心して天国に旅立てると思います」
「可哀想なプレシャス。アリッサ、その子をよく見せてちょうだい。まぁ、なんて愛らしい赤ちゃん。とても美人になりますよ」
「えぇ、素晴らしい美人になりますわ」
アリッサは自分が褒められたように嬉しく感じた。
「王太后様。名付け親になっていただけませんか? きっと、この子も喜びますわ」
「あら、嬉しい。いいですとも。その子の瞳は澄んだ水晶のように美しい。クリスタルと名付けましょう」
「クリスタル。とても素敵ですわ。私とライン様で立派に育てていきます」
「アリッサたちなら安心ですね。きっと、この子は幸せになれますよ」
アリッサとラインはクリスタルを養女とする手続きを無事に終え帰路につく。しかし、領地に近づき森の手前まで来たところで、思いがけずサミーとその騎士たちが待ち構えている姿に遭遇した。予期せぬ再会にアリッサたちは顔をしかめ、整備された道を引き返そうとするが、緊張の空気が一気に漂い始めた。
「待っていたよ。私にもその愛らしい子を見せてくれないか? アリッサに裏切られた私に、少しは同情してほしい」
「サミー卿、まだここで騎士に見張らせているとは思いませんでしたわ。クリスタルはすでにワイマーク伯爵家の養女ですのよ。あなたは女性にとても人気がおありでしょう? こんな生まれたての赤ちゃんに執着しなくても、次のお相手はいくらでも見つかるはずです。どうか、クリスタルのことは諦めてくださいませ」
「クリスタルというのかい? 綺麗な名前だ。あぁ、もちろん無理強いはしない。だが、クリスタルが私を好きになってくれれば問題ないだろう? 私には自信があるんだ。この子が年頃になって、私に恋い焦がれる様子が目に浮かぶよ」
サミーはうっとりと目を閉じたのだった。
「は? お兄様、何をおっしゃっているの?」
「ワイマーク伯爵領は自然豊かな土地だし、空気も綺麗で水もうまい。安心してお産ができそうだから、私がアリッサにプレシャスを預かってくれと、頼んだのを忘れたのかい? アリッサの仕事はここまでさ。今まで面倒をかけてすまなかったね。ありがとう」
いきなり、ニッキーはわざとらしい演技を始めた。まるで、自分からプレシャスをアリッサに預けたかのように装っている。
「ワイマーク伯爵夫人。兄妹仲が良いことは誠に素晴らしい。特に、少し前までは揉めていた家族が和解し協力しあう光景は、見ていて微笑ましい思いだ。さて、この新しい命はギャロウェイ伯爵家の籍にいれ、長女と記載することを認めよう。母親のプレシャスが亡くなったことは残念であったが、この子が誕生したことは実にめでたい」
国王は上機嫌で、アリッサに微笑んだ。
「お待ちください。お兄様にこの赤ちゃんは渡しませんわ。サミー卿の婚約者にさせようとしたくせに、よくも、なにごともなかったようにこの子を引き取ろう、などと言えますね? プレシャス様はお兄様から逃げて、ワイマーク伯爵領に来たのですわ。嘘ばかりおっしゃらないで」
アリッサの言葉に国王は首を傾げ、ニッキーを睨みつけた。
「サミー卿の婚約者に? ニッキー卿。それは年齢が離れすぎであろう? この子が年頃になり、サミー卿に好意を抱き嫁に行きたいというのならまだしも、親が一方的に決める政略結婚でその年齢差は問題だ」
「国王陛下。その話はすでになくなりました。サミー卿と縁を結びたいがために、ついそのような案をプレシャスに言ってしまったことは反省しております。しかし、今ではこの子の婚約者には同じような年代の、釣り合いのとれた相手をと考えております」
「そうか。ならば、問題は解決だな。ワイマーク伯爵夫人よ、その赤ちゃんをギャロウェイ伯爵家に返しなさい。ニッキー卿とプレシャスの離婚が成立していない以上、その赤ちゃんの親権はニッキー卿にあるのだよ」
「陛下のご英断に心より感謝申し上げます。さぁ、アリッサ。こちらに赤ちゃんを渡してくれ。大事に育てるから安心してほしい」
「いけません! プレシャス様の赤ちゃんに触らないで!」
「こらっ! いい加減にしないか! 国王陛下のご裁可がくだったのだぞ。おとなしくその子を渡せ!」
ニッキーは侍女から赤子を無理矢理奪おうとするが、アリッサが目の前に立ちふさがった。
「国王陛下、どうか今一度ご再考ください。こちらに、プレシャス様の遺言書がございます」
ラインは切り札となる遺言書を国王に差し出す。
国王が遺言書を読み進めている隙をついて、アリッサは侍女から赤ん坊を受け取り、さりげなく目配せをして王太后に知らせするよう指示を出した。侍女は静かにその場を離れ、王太后のもとへと向かった。
「プレシャスの希望は、娘をワイマーク伯爵家の子供として育ててほしいということだ。理由は、ニッキー卿による度重なる暴言や、ギャロウェイ伯爵夫妻の時代錯誤な考え方があげられている。政略結婚の駒としてしか見られない環境で、娘を育てることは断固拒否したいと書かれているぞ」
「国王陛下、その問題はすでに解決しております。政略結婚の話はなくなりましたので、もはやご心配には及びません。娘の嫌がることを強要するつもりはありませんから、ご安心ください」
「そうか? ワイマーク伯爵夫人、この赤ん坊の父親はニッキー卿であることに変わりはない。問題は解決しているのだから、もう良いだろう? 実の親のもとで育つほうが、この子にとって幸せであろう」
裁可がくだったところで、王太后が女官を複数引き連れて姿を現した。
「お待ちくださいな、陛下。私にも、その遺言書を見せてください」
「はっ、母上・・・・・・どうしてこちらに? これはニッキー卿の妻プレシャスの遺言書ですが、ニッキー卿は心を入れ替えたといっています。この赤子はニッキー卿が引き取るのが道理だと思われます」
「いいから。こちらに遺言書を渡すのです」
王太后はプレシャスの遺言書を読みながら涙を流し始めた。
「このような真摯な母親の願いを退けようというのですか? 明らかに、プレシャスはニッキー卿と離婚したいと望んでいた文面ではありませんか? 娘をアリッサに託したこの者の切実な願いが、なぜ国王陛下にはわからぬのですかっ! 私がジョーゼフを国王に推したのは、このような判断をさせるためではありませんよ」
「はっ、母上。そのように興奮なさっては、お体に障ります。母親の願い? 確かに、それは無視できないことではあります。それで、母上の判断はどのようなものとなりますか?」
「もちろん、ワイマーク伯爵夫妻の子供として育てることを認めます。命をかけて生んだプレシャスの思いを踏みにじってはいけません」
「わかりました。さすがに、素晴らしいご判断です。親子の、特に母と子の問題に関しては母上のお考えが常に正しい。では、ワイマーク伯爵夫妻がこの赤子を育てよ。養女として認める。これにて一件落着ですね?」
国王は王太后には頭が上がらないのだ。なぜなら、国王には優秀な弟であるアマディーアスがいる。今のトラスク公爵である。前王や大臣たちはアマディーアスが国王になることを望んだが、王太后は長男のジョーゼフを国王にすることを望んだ。
王国の伝統や法律では、長男が自動的に王位を継ぐという制度が確立されていたため、王太后はこれに従うべきだと考えた。もし次男が王位に就けば、将来的に継承問題や反乱の火種になりかねないと心配したため、王国の安定を第一に考え、正統な継承権を持つ長男を国王にする意見を主張した。
結局、王太后の尽力のお陰でジョーゼフが国王になり、その恩義を国王は王太后に感じているのだった。
ニッキーは悔しそうに顔を歪めて、アリッサを睨んだ。アリッサはプレシャスが亡くなったというのに、涙ひとつ見せないニッキーに失望を感じていたが、ほんの少しの期待を込めずにはいられなかった。
「お兄様。父親として純粋にこの子の顔が見たくなったときは、いつでもお越しください。この子のお誕生日にはぜひお呼びしたいと思います」
これはアリッサの本心だった。ニッキーが、自分の子に対して、私利私欲のない純粋な愛情を向けてくれることを心から願った。アリッサはまだ、ニッキーが昔のような優しさを取り戻すことをどこかで期待していたのだ。
「なにをきれい事を言っているんだよ! そんなこと少しも思っていないくせに。なんで、アリッサはいつも私の邪魔をするんだ? 幼い頃は、私の言うことをよく聞く素直な子だったのに」
「・・・・・・幼い頃は良かったですわ。お兄様は優しかったし、人の嫌がることをするような人ではありませんでした」
(昔のことを思い出してくれたのなら、あの優しかった心も取り戻してほしい)
だが、ニッキーはしかめっ面をして、国王に深々と畏敬の念を込めて一礼し、そのまま静かに後退りし、その場から立ち去ってしまった。
アリッサとラインは王太后のサロンに呼ばれ、お茶を振る舞われながら、今回の口添えに感謝の言葉を述べた。
「王太后陛下。ありがとうございました。これでプレシャス様は安心して天国に旅立てると思います」
「可哀想なプレシャス。アリッサ、その子をよく見せてちょうだい。まぁ、なんて愛らしい赤ちゃん。とても美人になりますよ」
「えぇ、素晴らしい美人になりますわ」
アリッサは自分が褒められたように嬉しく感じた。
「王太后様。名付け親になっていただけませんか? きっと、この子も喜びますわ」
「あら、嬉しい。いいですとも。その子の瞳は澄んだ水晶のように美しい。クリスタルと名付けましょう」
「クリスタル。とても素敵ですわ。私とライン様で立派に育てていきます」
「アリッサたちなら安心ですね。きっと、この子は幸せになれますよ」
アリッサとラインはクリスタルを養女とする手続きを無事に終え帰路につく。しかし、領地に近づき森の手前まで来たところで、思いがけずサミーとその騎士たちが待ち構えている姿に遭遇した。予期せぬ再会にアリッサたちは顔をしかめ、整備された道を引き返そうとするが、緊張の空気が一気に漂い始めた。
「待っていたよ。私にもその愛らしい子を見せてくれないか? アリッサに裏切られた私に、少しは同情してほしい」
「サミー卿、まだここで騎士に見張らせているとは思いませんでしたわ。クリスタルはすでにワイマーク伯爵家の養女ですのよ。あなたは女性にとても人気がおありでしょう? こんな生まれたての赤ちゃんに執着しなくても、次のお相手はいくらでも見つかるはずです。どうか、クリスタルのことは諦めてくださいませ」
「クリスタルというのかい? 綺麗な名前だ。あぁ、もちろん無理強いはしない。だが、クリスタルが私を好きになってくれれば問題ないだろう? 私には自信があるんだ。この子が年頃になって、私に恋い焦がれる様子が目に浮かぶよ」
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