可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

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26-5 ベリンダ視点

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※ベリンダ視点です。

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 フラメル家にいきなり趣味の悪い服を着た、全ての指にごてごてと指輪をはめた老人がやってきた。指輪についている貴石はどれも大きくキラキラと輝いている。
 お金はすごく持っていそうだけれど、頭はハゲているし赤鼻で吹き出物だらけ、醜さもここまでくると表彰ものよ。

 



「えぇ! 養女ですって? グレイスお姉様はあなたの娘になるんですね? 失礼ですがお金をずいぶんお持ちのようだわ。グレイスお姉様は贅沢のできるお嬢様として迎えられるんですか?」

 その老人の用件は、なんとグレイスお姉様を養子に迎えたいということだった。グレイスお姉様は私よりも裕福で幸せになるつもりなの? 

「まさか、養女とは名ばかり。儂の世話係としてメイドのような仕事を一生させようと思っている。この通り足も不自由で介護がなければトイレにも行けん。グレイスには側にいてずっと儂の世話をさせたいのじゃ」

 老人は虫歯だらけの歯をむき出し下卑た笑いを浮かべた。それは本当に嫌な笑い方だった。思わず背筋にゾクッと寒気が走る。

 でも、グレイスお姉様がこんな下品な老人に、メイドとして一生こき使われるなんて面白いと思った。グレイスお姉様が私より幸せになるなんて許さない。だって、私はお姉様より幸せになる星の下に生まれたのよ。お父様もお母様もいつだって私を優先してくれたもの。おまけに、男性は皆私に好意を抱き優しくしてくれる

 その証拠にこのお爺さんのお付きの男性も私にカチューシャをくれた。背が高くて均整のとれた身体はかなり素敵だけれど、グレイの前髪が長すぎて顔がよく見えない。きっと不細工な顔を隠したくてわざとこんな髪型なのね。

「まぁ、プレゼントしてくださるの? あなたの体つきは悪くないけれど顔がよく見えないわね。そのグレイの髪は切った方が良くってよ。ごめんなさいね、私はデリク様のものですから、あなたのようなレベルの方とはの。でも、物には罪はありませんものね。これはもらっておくわ」

 もちろん好意は受け取れないけれど物は別よ。だってこの可愛いカチューシャは私にぴったりだもの。

 今日は本当に良い日だと思った。邪魔なグレイスお姉様は相応しい場所に落ち着いたし、そのお蔭で大金も手に入った。カチューシャまでもらった私はご機嫌だし、両親もこの臨時収入に顔をほころばせていた。




「お母様。これでポールスランド伯爵領一番の高級レストランに行き、美味しい物をたくさん食べましょうよ。帰りにはラファッシニのお菓子を買い、途中でバッグと靴も買うの。新しいネックレスも欲しいしピアスや化粧品も買いたいわ」

「そうね。フィントン男爵領のお店より、お隣のポールスランド伯爵領のメインストリートにあるお店に行くほうが目にも楽しいわ。お店のディスプレイがお洒落だし品揃えも倍だものね」

「わたしは葉巻と最高級の酒を買おう」

 醜い老人が去った後の私達は、臨時に入ったお金を前にして、その使い道をあれこれと相談する。楽しいことばかりが思い浮かぶわ。特にこれがグレイスお姉様のお蔭で手に入ったことに満足していた。

 このお金は私への、ある意味慰謝料だと思う。だって私は学園の同級生にグレイスお姉様の存在がバレないようにとても苦労したのよ。本当なら自慢できるお姉様が欲しかったのに。だからこのお金は私への迷惑料でもあるわ。





「旦那様! ネズミが厨房の小窓から入り込みましたぁーー」

 満面の笑みで私達がお金を見つめていると、いきなり部屋に思わぬ侵入者が現れた。サロンの扉を開けたメイドと供にひと塊のネズミ達が一斉に飛び込んで来たのよ。

(またネズミだわ! いったいどうしてなのぉ?)

「うわぁーー!! またネズミなのか? ぎゃぁーー! なぜこれほどわたしに群がるんだぁ」

「お父様ぁ、私の身体にも群がってくるわ。頭に乗ろうとするのよ。いやぁーー、助けてぇーー。なんで頭にいっぱいたかるのぉ?」

 私もお父様もお母様もネズミまみれで、前も見えないほど顔にまでねずみがへばりついていて、そのお腹の毛がもぞもぞと顔をくすぐる。

(あっは、あっははは! くすぐったいってば! ・・・・・・痛い、痛い! 髪の毛を引っ張らないでよ! くすぐったい、痛い、くすぐったいぃーー!)

 くすぐったいのと痛いのが交互にきて、頭の中が混乱する。もうどうしていいのかわからないわ。泣きながら笑っている状態なのよ。


「ネズミ狩り屋が来ています。このあたりにネズミ被害が多発しているということで訪問駆除している男です」

 不思議なことにメイドは全くネズミまみれじゃない。

「すっ、すぐにこちらに通しなさぁーーい」

 お父様は安堵したような口調で叫ぶ。私も同じ思いだ。




「ずいぶんお困りのようですね? そのネズミの駆除をご希望ですか?」

「とっ、当然だろうぉ? 早くこのネズミを捕まえてくれぇーー」

「見てわかるでしょうぉ? 駆除してほしいに決まっているじゃないぃーー!」

「そうよぉ。はやく私の頭からこの忌々しいネズミをどけてよーー。糞までしだしたわ。最悪よっ」

「ネズミ狩り屋の料金は前金なんで、金をもらわなきゃなにもできませんね」

(なんて欲張りな男なの? 人が困っているのにお金を先に出せなんて人でなしよ)

 メイドが案内してきたネズミ狩り屋はお金のことしか考えない守銭奴だった。




「いくらなんだぁ? 早く払うからこれを駆除しろーー!」

「そうよ、お父様の言う通りだわっ。早く金額を言いなさいよーー。どうせ10万ダラぐらいでしょう?」

「いいえ。ちょうど100万ダラです」

「はぁーー? そんな大金払えるわけがないだろう? なんというがめついネズミ狩り屋だ」

 お父様はその金額の高さに憤慨したわ。私もそれは高すぎだと思う。せいぜい多くて20万ダラじゃないの?

「なら、帰りますね。ネズミはまだまだ増えそうですけど」

 本当にネズミ狩り屋の言葉通りに、ネズミの大群がまたサロンに飛び込んで来た。

(こんなのもう我慢できないわ・・・・・・)

「お父様! いくらかかってもいいじゃない。こんなネズミまみれよりましよ。さっきの老人からもらったお金をあげてよーー」

「しかし90万ダラもネズミごときに・・・・・・うっ、うわぁーー」

 さらに大群のネズミがお父様の身体に群がる。私の頭にも大量のネズミが乗って来て、重たすぎて立っていられずに前に倒れこんだ。ネズミは自慢の薄桃色の髪の上で糞尿を垂れ流し、その糞がこびりついた髪をさらにネズミ達は四方に引っ張ってボサボサにする。

「ダメだわ。今回は蕁麻疹は出ないけど臭くて吐きそう! お父様、早くお金を払ってあげてよぉ」

「あなた! 早くお金を渡して! そこのネズミ狩り屋! テーブルのお金を持って行きなさい。だから、早くこのネズミをなんとかしてちょうだい。そこに90万ダラあるでしょう?」

 ネズミ狩り屋は1枚の書類を出し、ネズミまみれのお母様の手にペンを持たせた。

(こんな時でもしっかりしているのね。人を助けるよりも契約書が優先なの? あんたには絶対そのうち天罰が下るわよ)

 私はネズミ狩り屋に心の中で悪態をつく。お金のことばかりで心がない。所詮はネズミ狩り屋だわ。思いやりの欠片もないのよ。

「契約書です。これにサインをください。ネズミを狩る料金100万ダラです。まぁ、今回は特別に90万ダラで良いでしょう」

 お母様はネズミまみれのまま、契約書にサインをした。

「さぁ、サインをしたわ。早くこのネズミを駆除してちょうだい」

「わかりました。外からネズミをおびき寄せますから、今から10分後にネズミはいなくなります。それまではネズミと楽しい時間をお過ごしくださいね。では、ご機嫌よう」

 ネズミ狩り屋はお金と契約書を持ってその場を後にした。でもネズミはそのままで、まだ私の頭には大量のネズミが乗っている。

「お母様! 騙されたんじゃないですか? お金だけ持ち逃げされたのよ。このネズミはどうなるのぉーー」

「うわぁーー、まだまだやって来る」

「きゃぁーー、なぜまた増えたのぉ?」

 新たなネズミの登場でサロンいっぱいになったネズミに、私達はさらにもみくちゃにされたが、きっかりその10分後にネズミは一匹もいなくなった。

 残された私達の衣服や髪はネズミの糞尿でまみれ、もらったカチューシャはぼろぼろにかじられていたのだった。
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