可愛くない私に価値はないのでしょう?

青空一夏

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連載

続編 フィントン男爵の末路

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※フィントン男爵のもう一つの末路になります。


୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧


 犯罪奴隷で10年なんて、これはかなり大袈裟な刑じゃないのか? 妻は大農園に連れて行かれ、わたしは死体処理場に送られた。

 この世界では死体を腐敗させぬようにミイラにして肉体を残そうとする者がいるのだ。大昔の王であったり貴族がしていた風習が一部の裕福な者達の間で流行し、死体の加工処理の手伝いは犯罪奴隷の仕事のひとつとなっていた。

「遺体を綺麗に洗浄したか? 内臓と脳を取りだして乾燥、防腐作用のある薬品に浸せ」

「うっ、うげぇーー!」

 ミイラ職人の助手として何体も死体処理の補助をした私だが最初の頃はよく吐いていた。人間の死体は不気味すぎて、腹を切りそこから内臓を取り出すなんて多大な精神的苦痛しか感じなかった。

(人間だと思うから足が竦むんだ。こいつは魚みたいなものさ。そう、人形と思ってもいい。こいつはただの物体さ)

 そう思い込もうとして1年、2年が過ぎていく。慣れとはすごいもので3年目に入ると、死体の内臓を掻きだした直後でも平気で食事ができるようになっていた。

 ある時、顔の潰れた若者の身体から内臓を抜き取った。その若者の首筋のホクロで、ずっと会っていない息子デリクを思い出した。

(デリクもちょうどこの位置にホクロがあったはず・・・・・・)

「まさかわたしの息子なのか? どうして死んだのだ? やはり犯罪奴隷で鉱山にでも送られて事故にでもあったのか?」

「その方は大富豪の息子であんたの息子じゃないさ。ここに来る死体は現在進行形で大金持ちしかおらんよ。お前さんにもいろいろ事情があるんだろうが、家族が元気で生きていればいいな」

 ミイラ職人は良識的な人物で仕事に慣れればそれほど悪い職場ではなかったし、このような慰めの言葉もかけてくれた。

 6年目でたくさんの遺体にもそれぞれの人生があったことに気づき、魚と同じ感覚で処置しようとした自分の浅はかさを恥じた。

 命が抜けた亡骸を不思議な思いで見つめる。魂がなければただの死体なのだけれど、生きている間はたくさんの葛藤を抱えながら必死で生きてきたはずだ。

 娘のリネータに似た女性の死体を何体も処理した時には、気が狂いそうになるほど自分が歩んできた人生を悔やんだ。フィントン男爵家に生まれ何不自由なく育ってきたわたしは傲慢すぎたし、子供達のことをもっと気に懸けるべきだったのだ。



☆☆



 10年の刑期を終えたわたしはすっかり以前とは違っていた。昔、フィントン男爵だった頃にパーティを開き、公衆の面前で恥をかかせた男の顔を思い出し心の中で詫びたし、今はポールスランド伯爵夫人になっていらっしゃるグレイス様に謝罪の手紙も送った。折り返し来た手紙には、リネータが心を入れ替え元気に定食屋を営んでいることが書かれていた。

(あぁ、神様。ありがとうございます!)

 会いに行こうとは思わなかった。娘が立ち直り幸せならそれでいい。わたしは自分の人生を反省し、今は市井の街角で靴磨きをし、わずかな日銭で暮らしている。

 わたしが住むアパートの両隣はパン屋と惣菜屋で、毎日通りのゴミを拾い掃除をしていると、いつのまにか挨拶を交わすようになり、軽い身の上話もする仲になっていった。

「昔のわたしは威張ってばかりいて、人を不愉快にさせるだけの愚かな人間でした。なので今はこうして、通りの掃除や公園のゴミ拾いをして、少しでも人様のお役に立ちたいな、と思っているのです」
 
 昔貴族だったとは言わなかったし、具体的にどんなことがあったかなんて話してはいない。ただ昔とは違う人間になりたい、そんな話しをした。

 靴磨きの合間に通りの掃除をし、道行く人達にはにこやかに話しかけた。泣いている子供には声をかけ慰め励まし、その両親から礼を言われた。自分が好きでやっていることだが、感謝されると嬉しいもんだ。

 しがない靴磨きの老人になった今は、不思議とフィントン男爵だった頃より心が落ち着いていて幸せだ。

(幸せはお金や地位じゃないんだな)

 そんなことに、やっと気づいたわたしは、今日も靴磨きの仕事をしながら合間に通りのゴミ拾いに励む。

「お疲れ様。今日も精が出るねぇーー。このパンはお昼ご飯に食べてよ。いや、お金は要らないって。あんたはもう俺の友達さ。パンはおすそ分けで、明日も持ってくるよ」

 パン屋の男がわたしの肩をたたきながら笑いかける。

(こんな人生も悪くないよ)

 私はパンをかじりながら涙を流していたのだった。
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