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17.放課後の会話
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放課後、アメルは特別な用事がない限りは、基本的にデリックと下校する。
なにせ、帰る場所は一緒なのだ。必然的にそうなっていた。
その中に、今日はアイリーンとカイゼンもいる。
昼休みのように絡まれたくなかったので、授業が終わるのと同時に教室を出たが、それは正しかった。
昼休みに何があったのか、カイゼンがすでに情報を集めていて、その話を聞くと、アメルに絡まれたら大層面倒なことになっていた。
今四人がいるのは、ドックドリー商会が開いているカフェの個室だ。
話があるときは、家よりもこの店を利用することが多い。
「ルングレム語は、この国では主流じゃないけど、一応海を挟んだ隣国だからね。選択科目で選んでいる学生は少なからずいるよ。中には、流暢に話せる人もね」
つまり、その流暢に話せるお友達が、たまたま学食を使っていて、その出来事の遭遇したという事らしい。
そのお友達が、男子が女子かはあえてアメルもアイリーンも聞かない。
「異国の地で、言葉が通じても風習も何もかも違う国で、親切にしてあげるのは、同じ人として当然でしょう? クラスの女子たちもただの親切で王太子殿下を案内してたんだよ」
初めはリディアを気にしていた彼らだったが、リディアもクラスで交流をはかっているから邪魔してはダメだと言われ、そして女子たちが積極的に構ってくれているので、悪い気はしなかったようだ。
ルングレム王国では、リディアが常に彼らの側にいて、彼らがリディアに気を使う側だった。
リディア以外の女子から親しみのある態度をとられたことのなかった彼らは、常とは違う環境に絆されていた。
そして、言葉巧みに誘導されて食堂の事件に至ったということだ。
「叩かれた女子は、泥棒猫と罵られて、突き飛ばされてみたいだね。それに、身の程知らずとか、平民風情が弁えろとか、嫌らしい娼婦が紛れ込んで、この国の程度が知れるとか、そんな事を言ってたみたいだね」
女子生徒には言葉が全て分かったわけではないが、王太子アイザックやその側近はその口汚い罵りを聞き、親切にしてくれていた女子を庇った。
そして、謝罪をするようにリディアを窘めた。
「リディアが謝罪するとは思えないわ」
「その通り。なぜわたしが悪者なの? と訴えてたようだけど、王太子殿下は他国で恥をさらすな、みっともない。貴族としてもっと寛大になれないのか、と叱ったとの事だよ」
「それは……」
「お前の従姉の事だから、余計に恥をかかされたと思うだろうな。目に浮かぶな」
デリックがいい気味だと、くくっとバカにしたように笑う。
「デリックの言う通り。王太子殿下が自分の味方をしてくれなくて、全部側にいた女子のせいにしていたね。睨みつける姿は、それは恐ろしい魔女の様だったと報告してくれたよ」
留学生とはいえ、王侯貴族。
しかも自国ではたく他国の者。
さすがに見過ごせなくなり、教師が介入してその場は収まったものの、この先リディアは相当苦労する羽目になるだろうことは、想像できた。
そもそも、男子はともかくリディアのような女子は、この国では完全に嫌われるような存在だ。
いや、本当はルングレム王国でも好かれていたわけではないが、身分の差で従わざるを得なかった。
だからリディアは知らなかった。
自分がどれほどの人間なのかを。
「この調子なら、すぐに帰るって言いだすんじゃない? 彼女が帰れば平穏が保たれるわね」
「どうかな? まだパトロンのような第一皇子殿下がいらっしゃるから。学校に通わなくても、楽しく過ごすかもしれないよ? 今日もきっと迎えにくるだろうし」
「そういえば、ルングレム王国一行の滞在先って、全員バカ皇子のところじゃなかった?」
「話を聞く限り、今日は滞在先でも修羅場かもな」
デリックが指摘するが、その通りだ。
いわゆる喧嘩をしているところなのに、顔を合わせたらどうなるか。
リディアは自分が悪いとは思っていない。むしろ、アイザックの言い分の方に問題があると思っている。
自分を庇ってくれなかったアイザックが自ら許しを乞うまで、許さないだろう。
「せっかくのパトロンが幾人も消えるなら、デリックもカイゼンも注意した方がいいんじゃない? あの子の目、二人を標的にしているような目をしてたし」
アイリーンがにやにや笑うと、デリックが顔をしかめた。
「俺は絶対にごめんだ。あんな我儘女、趣味じゃない。それに、男にふらふらしてる女なんて、結婚しても絶対浮気する上に、自分は悪くないとか言い出すに決まってる」
「遊びならいいけど、結婚相手はちょっとね」
「遊び相手でも俺はごめんだ」
デリックは、心底嫌そうに眉間に皺を寄せた。
それを見たアメルは、心のどこかでほっとしていた。
なにせ、帰る場所は一緒なのだ。必然的にそうなっていた。
その中に、今日はアイリーンとカイゼンもいる。
昼休みのように絡まれたくなかったので、授業が終わるのと同時に教室を出たが、それは正しかった。
昼休みに何があったのか、カイゼンがすでに情報を集めていて、その話を聞くと、アメルに絡まれたら大層面倒なことになっていた。
今四人がいるのは、ドックドリー商会が開いているカフェの個室だ。
話があるときは、家よりもこの店を利用することが多い。
「ルングレム語は、この国では主流じゃないけど、一応海を挟んだ隣国だからね。選択科目で選んでいる学生は少なからずいるよ。中には、流暢に話せる人もね」
つまり、その流暢に話せるお友達が、たまたま学食を使っていて、その出来事の遭遇したという事らしい。
そのお友達が、男子が女子かはあえてアメルもアイリーンも聞かない。
「異国の地で、言葉が通じても風習も何もかも違う国で、親切にしてあげるのは、同じ人として当然でしょう? クラスの女子たちもただの親切で王太子殿下を案内してたんだよ」
初めはリディアを気にしていた彼らだったが、リディアもクラスで交流をはかっているから邪魔してはダメだと言われ、そして女子たちが積極的に構ってくれているので、悪い気はしなかったようだ。
ルングレム王国では、リディアが常に彼らの側にいて、彼らがリディアに気を使う側だった。
リディア以外の女子から親しみのある態度をとられたことのなかった彼らは、常とは違う環境に絆されていた。
そして、言葉巧みに誘導されて食堂の事件に至ったということだ。
「叩かれた女子は、泥棒猫と罵られて、突き飛ばされてみたいだね。それに、身の程知らずとか、平民風情が弁えろとか、嫌らしい娼婦が紛れ込んで、この国の程度が知れるとか、そんな事を言ってたみたいだね」
女子生徒には言葉が全て分かったわけではないが、王太子アイザックやその側近はその口汚い罵りを聞き、親切にしてくれていた女子を庇った。
そして、謝罪をするようにリディアを窘めた。
「リディアが謝罪するとは思えないわ」
「その通り。なぜわたしが悪者なの? と訴えてたようだけど、王太子殿下は他国で恥をさらすな、みっともない。貴族としてもっと寛大になれないのか、と叱ったとの事だよ」
「それは……」
「お前の従姉の事だから、余計に恥をかかされたと思うだろうな。目に浮かぶな」
デリックがいい気味だと、くくっとバカにしたように笑う。
「デリックの言う通り。王太子殿下が自分の味方をしてくれなくて、全部側にいた女子のせいにしていたね。睨みつける姿は、それは恐ろしい魔女の様だったと報告してくれたよ」
留学生とはいえ、王侯貴族。
しかも自国ではたく他国の者。
さすがに見過ごせなくなり、教師が介入してその場は収まったものの、この先リディアは相当苦労する羽目になるだろうことは、想像できた。
そもそも、男子はともかくリディアのような女子は、この国では完全に嫌われるような存在だ。
いや、本当はルングレム王国でも好かれていたわけではないが、身分の差で従わざるを得なかった。
だからリディアは知らなかった。
自分がどれほどの人間なのかを。
「この調子なら、すぐに帰るって言いだすんじゃない? 彼女が帰れば平穏が保たれるわね」
「どうかな? まだパトロンのような第一皇子殿下がいらっしゃるから。学校に通わなくても、楽しく過ごすかもしれないよ? 今日もきっと迎えにくるだろうし」
「そういえば、ルングレム王国一行の滞在先って、全員バカ皇子のところじゃなかった?」
「話を聞く限り、今日は滞在先でも修羅場かもな」
デリックが指摘するが、その通りだ。
いわゆる喧嘩をしているところなのに、顔を合わせたらどうなるか。
リディアは自分が悪いとは思っていない。むしろ、アイザックの言い分の方に問題があると思っている。
自分を庇ってくれなかったアイザックが自ら許しを乞うまで、許さないだろう。
「せっかくのパトロンが幾人も消えるなら、デリックもカイゼンも注意した方がいいんじゃない? あの子の目、二人を標的にしているような目をしてたし」
アイリーンがにやにや笑うと、デリックが顔をしかめた。
「俺は絶対にごめんだ。あんな我儘女、趣味じゃない。それに、男にふらふらしてる女なんて、結婚しても絶対浮気する上に、自分は悪くないとか言い出すに決まってる」
「遊びならいいけど、結婚相手はちょっとね」
「遊び相手でも俺はごめんだ」
デリックは、心底嫌そうに眉間に皺を寄せた。
それを見たアメルは、心のどこかでほっとしていた。
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