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2.思った通り、柔らかい
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「それで、なんでアンジェリーナ様がこちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「色々とありましたのよ、エーリッヒ様」
輝かしい笑顔が素敵なかの方は、うっとりするような声音で僕の名を呼んだ。
その時、僕は彼女に名前を知られていたのかと少し感動した。
*** ***
あの悲劇とも喜劇ともいえる夜を終え、僕は無事? 卒業し実家に帰った。
僕の実家は隣国の商家で、隣の国で人脈を作れと放り出され、あの学校に通っていた。
お金だけはたっぷりある我が家とお近づきになりたい貴族は一定数いる。
そういう貴族と付き合いつつも、気の合う友人を作り、さらにはいつの間にかできていた婚約者様にご機嫌伺いしたりと、隣国ではそこそこ充実した日々を送っていた。
結局、友人関係はそのままに、婚約は白紙に戻ったわけだが。
「この度は申し訳ありませんでした」
場所を移して応接室で、事情を聞こうとすると、まず早速と言わんばかりに謝られた。
何が? と思いつつも、すぐに思い至る。
「シエラ嬢の事は、こちらこそ申し訳なく思っております。謝らないでください」
「しかし、わたくしがしっかりと王太子殿下を押さえていれば、エーリッヒ様もシエラ様と順調にご結婚していたのかと思うと、申し訳なくて……」
「それを言うなら、僕の方もですよ。彼女はきっと僕のような地味男が気に食わなかったのでしょうね。まあ、正直に言えば、白紙に戻って良かったとは思います」
「地味だななんて、そんなことは――」
「いいんです。僕が一番分かっていますから」
そうなのだ。
あの王太子殿下が新しく婚約者候補として名をあげたシエラ嬢は、僕の婚約者だった。
もともとは、シエラ嬢の実家が困窮していて、取引相手だったので父親が同情して婚約したというのが経緯だ。
なにせ、僕の家はお金だけはたんまりある。
ちなみに、僕自身も投資で稼いだお金がかなりあった。
そのお金で、シエラ嬢へのご機嫌伺いの品物を買っていたが、どうやら取り巻きの一人扱いだったようだ。
彼女は王太子殿下だけでなく、見目の良い男とよく一緒にいたのだから。
婚約者として苦言を呈したほうが良かったのだが、たぶん僕は本当に興味が無かったのだと思う。
だから、婚約が白紙になっても悲しまなかったし、むしろ、ラッキーとか思っていたわけで。
むしろ、申し訳なく思うのはアンジェリーナ様の事。
僕は婚約が無くなってもうれしい以外にはなかったが、アンジェリーナ様は全てを失った。
故郷も家族も。
そう考えると、僕が喜んでいるのはアンジェリーナ様に対して不誠実だと思った。
「すみません、本当に。僕に出来る事があれば、なんでもご協力いたします。一応この国ではそこそこ名のある商家ですし、アンジェリーナ様がご不便なく暮らせるようにいたします。何なりとお申し付けください」
「本当によろしいの?」
きらりと瞳が獲物を狙う獣のように光った気がしたが、きっと不安で涙が滲んでいただけに違いないと解釈し、力強く頷いた。
「では、もしよろしかったら、わたくしをこの商会で雇ってください。もちろん、わたくしは所謂肉体労働は初めてですので、失敗はたくさんすると思いますが……」
「え、しかし――……」
「施しはいりませんわ。わたくしは自分自身の力で、幸せを掴み取るのです!」
ずいっと僕の方に身を乗り出すアンジェリーナ様に、僕は引き気味になりながら、頷いていた。
最終的に判断するのはこの家の主で僕の父親なんだけど、なんとアンジェリーナ様はすでに父と交渉済みで、住む家も決まっていた。
なんて手際のいい人なのだと感心したけど、その住まいが僕の家だったので、何か作為的なものを感じてしまった。
まあ、我が家は無駄に広いし、父も母も娘が欲しかったとかで、僕が帰ってくるまでの間ですっかり美人なアンジェリーナ様の事を気に入っていたので、どちらにしても僕の意見は必要なかった。
「そういえば、どうして僕の家に?」
「一番の理由は、エーリッヒ様ですわ。次に、大きな商家ですので、雇っていただけると思いましたの。それにきっとエーリッヒ様は色眼鏡で見ずわたくしを見て下さると確信しておりましたの」
「シエラ嬢の事は、本当に気にしなくてもよかったのですが……。まあでも、我が家に来ていただいたのは良かったです。それに、そんな過大評価までして下さっているとは感激です。これからよろしくお願いしますね、アンジェリーナ様」
僕は微笑んで、アンジェリーナ様をエスコートするべく腕を差し出した。
アンジェリーナ様は、その腕を拒むことなく自身の手を置き身を寄せてきた。
その時、アンジェリーナ様の柔らかい身体が腕に触れ、さすがに意識せずにはいられなかったが、紳士として平然とした態度でなんとかやり過ごした。
「色々とありましたのよ、エーリッヒ様」
輝かしい笑顔が素敵なかの方は、うっとりするような声音で僕の名を呼んだ。
その時、僕は彼女に名前を知られていたのかと少し感動した。
*** ***
あの悲劇とも喜劇ともいえる夜を終え、僕は無事? 卒業し実家に帰った。
僕の実家は隣国の商家で、隣の国で人脈を作れと放り出され、あの学校に通っていた。
お金だけはたっぷりある我が家とお近づきになりたい貴族は一定数いる。
そういう貴族と付き合いつつも、気の合う友人を作り、さらにはいつの間にかできていた婚約者様にご機嫌伺いしたりと、隣国ではそこそこ充実した日々を送っていた。
結局、友人関係はそのままに、婚約は白紙に戻ったわけだが。
「この度は申し訳ありませんでした」
場所を移して応接室で、事情を聞こうとすると、まず早速と言わんばかりに謝られた。
何が? と思いつつも、すぐに思い至る。
「シエラ嬢の事は、こちらこそ申し訳なく思っております。謝らないでください」
「しかし、わたくしがしっかりと王太子殿下を押さえていれば、エーリッヒ様もシエラ様と順調にご結婚していたのかと思うと、申し訳なくて……」
「それを言うなら、僕の方もですよ。彼女はきっと僕のような地味男が気に食わなかったのでしょうね。まあ、正直に言えば、白紙に戻って良かったとは思います」
「地味だななんて、そんなことは――」
「いいんです。僕が一番分かっていますから」
そうなのだ。
あの王太子殿下が新しく婚約者候補として名をあげたシエラ嬢は、僕の婚約者だった。
もともとは、シエラ嬢の実家が困窮していて、取引相手だったので父親が同情して婚約したというのが経緯だ。
なにせ、僕の家はお金だけはたんまりある。
ちなみに、僕自身も投資で稼いだお金がかなりあった。
そのお金で、シエラ嬢へのご機嫌伺いの品物を買っていたが、どうやら取り巻きの一人扱いだったようだ。
彼女は王太子殿下だけでなく、見目の良い男とよく一緒にいたのだから。
婚約者として苦言を呈したほうが良かったのだが、たぶん僕は本当に興味が無かったのだと思う。
だから、婚約が白紙になっても悲しまなかったし、むしろ、ラッキーとか思っていたわけで。
むしろ、申し訳なく思うのはアンジェリーナ様の事。
僕は婚約が無くなってもうれしい以外にはなかったが、アンジェリーナ様は全てを失った。
故郷も家族も。
そう考えると、僕が喜んでいるのはアンジェリーナ様に対して不誠実だと思った。
「すみません、本当に。僕に出来る事があれば、なんでもご協力いたします。一応この国ではそこそこ名のある商家ですし、アンジェリーナ様がご不便なく暮らせるようにいたします。何なりとお申し付けください」
「本当によろしいの?」
きらりと瞳が獲物を狙う獣のように光った気がしたが、きっと不安で涙が滲んでいただけに違いないと解釈し、力強く頷いた。
「では、もしよろしかったら、わたくしをこの商会で雇ってください。もちろん、わたくしは所謂肉体労働は初めてですので、失敗はたくさんすると思いますが……」
「え、しかし――……」
「施しはいりませんわ。わたくしは自分自身の力で、幸せを掴み取るのです!」
ずいっと僕の方に身を乗り出すアンジェリーナ様に、僕は引き気味になりながら、頷いていた。
最終的に判断するのはこの家の主で僕の父親なんだけど、なんとアンジェリーナ様はすでに父と交渉済みで、住む家も決まっていた。
なんて手際のいい人なのだと感心したけど、その住まいが僕の家だったので、何か作為的なものを感じてしまった。
まあ、我が家は無駄に広いし、父も母も娘が欲しかったとかで、僕が帰ってくるまでの間ですっかり美人なアンジェリーナ様の事を気に入っていたので、どちらにしても僕の意見は必要なかった。
「そういえば、どうして僕の家に?」
「一番の理由は、エーリッヒ様ですわ。次に、大きな商家ですので、雇っていただけると思いましたの。それにきっとエーリッヒ様は色眼鏡で見ずわたくしを見て下さると確信しておりましたの」
「シエラ嬢の事は、本当に気にしなくてもよかったのですが……。まあでも、我が家に来ていただいたのは良かったです。それに、そんな過大評価までして下さっているとは感激です。これからよろしくお願いしますね、アンジェリーナ様」
僕は微笑んで、アンジェリーナ様をエスコートするべく腕を差し出した。
アンジェリーナ様は、その腕を拒むことなく自身の手を置き身を寄せてきた。
その時、アンジェリーナ様の柔らかい身体が腕に触れ、さすがに意識せずにはいられなかったが、紳士として平然とした態度でなんとかやり過ごした。
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