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後日談
74 妾妃の祝辞
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結婚式の後は立太子の儀式を行った。
立太子の儀式を滞りなく済ませ、私、エリザベス・テューダは、王女から王太女になった。
王女から王太女になった私の住まいは、後宮から王太女宮(王太子なら王太子宮と呼ばれる)になった。無論、王太女の夫になったアーサーも一緒に住む事になる。
結婚式、立太子の儀式が済めば、後は披露宴だ。
ウェディングドレスから立太子の儀式ためのドレス、そして、披露宴用のドレスと見ているだけなら華やかだが、手間のかかる着替えと肩の凝る盛装でいい加減疲れてきた。
披露宴用のドレスに着替えるため王太女宮の私室に着いた途端、私はグレンダに泣きついた。
「立太子の儀式はともかく披露宴には出たくない! 花婿より見劣りする花嫁なんて思われながらの結婚式を我慢したのに、これ以上、人目にさらされるなんて、どんな拷問よ!」
本気で出ないと駄々をこねている訳ではない。
逃げるなら二年前に逃げている。
……あのアーサー相手に逃げ切る自信は全くないけど。
それでも少しでも鬱憤をぶちまけなければ、この先を乗り切る自信がなかったのだ。
いつもなら人目のない所で一人で喚くところだが、グレンダを鬱憤の相手に選んだのは、多少の嫌がらせだ。これくらいは許されるはずだ。
……どうして私が気に入った侍女は、あの女に係わっているのか。仕事だから私に気に入られるように振舞っているのだろうけれど。
「あ、あの王女……いえ、王太女様?」
私に泣きつかれたグレンダは困った様子だ。
待機していた他の侍女達は王太女の癇癪に、こっそりと部屋から出て行ってしまった。
相変わらず私と侍女達の仲は、よそよそしいものだ。いくら王太女が態度を変えても、いや突然の態度の変化だからこそ、余計不気味に思われているのだろう。
それでも、さすがは王太女の侍女というべきか。仕事はきちんとしてくれているので、それはありがたい。仕方ないはいえ、おざなりにされるのは、やはり嫌だ。
「見劣りなど。王太女様もアーサー様も、それはお似合いの完璧な一対でしたのに」
「……いいわよ。心にもない事を言わなくても。あのアーサーの隣に並べば、どんな美女だって見劣りするに決まっているんだから」
私がそう言った時、扉がノックされた。
「そんな事ないわよ」
入室の許可も待たずに入って来たのは妾妃だった。
私は、じろりと妾妃を睨みつける。
「何の用?」
「あなたは、わたくしの顔など見たくもないでしょうけれど」
だから、結婚式の前に教会の控室に来なかったのか。この女なりに気を遣ったようだ。
「きちんとお祝いを言いたくて」
この女なりに自分が腹を痛めて産んだ娘を愛している。「母」として祝辞を述べたいのだろう。
「結婚おめでとう、リズ。アーサー様と幸せにね」
絶世の美貌に心からの笑顔を浮かべて祝辞を述べる妾妃は本当に美しかった。
この女の本性を知っていても、この女が私と弟を復讐の道具にした女だと分かっていても、この女を醜いとは思えない。
何より我が子を慈しむ想いを嘘だと思い込めない。
「……どうして」
私は泣きたくなった。
「リズ?」
「……どうして、あなたから言われなきゃいけないの? その言葉は、お母様から言ってほしかった」
言っても意味がないのは分かっている。
王妃とは、お母様とは、偽りで成り立っていた関係だ。
私の真実を知れば、王妃が私とアーサーの結婚を祝福などするはずがないのだから。
立太子の儀式を滞りなく済ませ、私、エリザベス・テューダは、王女から王太女になった。
王女から王太女になった私の住まいは、後宮から王太女宮(王太子なら王太子宮と呼ばれる)になった。無論、王太女の夫になったアーサーも一緒に住む事になる。
結婚式、立太子の儀式が済めば、後は披露宴だ。
ウェディングドレスから立太子の儀式ためのドレス、そして、披露宴用のドレスと見ているだけなら華やかだが、手間のかかる着替えと肩の凝る盛装でいい加減疲れてきた。
披露宴用のドレスに着替えるため王太女宮の私室に着いた途端、私はグレンダに泣きついた。
「立太子の儀式はともかく披露宴には出たくない! 花婿より見劣りする花嫁なんて思われながらの結婚式を我慢したのに、これ以上、人目にさらされるなんて、どんな拷問よ!」
本気で出ないと駄々をこねている訳ではない。
逃げるなら二年前に逃げている。
……あのアーサー相手に逃げ切る自信は全くないけど。
それでも少しでも鬱憤をぶちまけなければ、この先を乗り切る自信がなかったのだ。
いつもなら人目のない所で一人で喚くところだが、グレンダを鬱憤の相手に選んだのは、多少の嫌がらせだ。これくらいは許されるはずだ。
……どうして私が気に入った侍女は、あの女に係わっているのか。仕事だから私に気に入られるように振舞っているのだろうけれど。
「あ、あの王女……いえ、王太女様?」
私に泣きつかれたグレンダは困った様子だ。
待機していた他の侍女達は王太女の癇癪に、こっそりと部屋から出て行ってしまった。
相変わらず私と侍女達の仲は、よそよそしいものだ。いくら王太女が態度を変えても、いや突然の態度の変化だからこそ、余計不気味に思われているのだろう。
それでも、さすがは王太女の侍女というべきか。仕事はきちんとしてくれているので、それはありがたい。仕方ないはいえ、おざなりにされるのは、やはり嫌だ。
「見劣りなど。王太女様もアーサー様も、それはお似合いの完璧な一対でしたのに」
「……いいわよ。心にもない事を言わなくても。あのアーサーの隣に並べば、どんな美女だって見劣りするに決まっているんだから」
私がそう言った時、扉がノックされた。
「そんな事ないわよ」
入室の許可も待たずに入って来たのは妾妃だった。
私は、じろりと妾妃を睨みつける。
「何の用?」
「あなたは、わたくしの顔など見たくもないでしょうけれど」
だから、結婚式の前に教会の控室に来なかったのか。この女なりに気を遣ったようだ。
「きちんとお祝いを言いたくて」
この女なりに自分が腹を痛めて産んだ娘を愛している。「母」として祝辞を述べたいのだろう。
「結婚おめでとう、リズ。アーサー様と幸せにね」
絶世の美貌に心からの笑顔を浮かべて祝辞を述べる妾妃は本当に美しかった。
この女の本性を知っていても、この女が私と弟を復讐の道具にした女だと分かっていても、この女を醜いとは思えない。
何より我が子を慈しむ想いを嘘だと思い込めない。
「……どうして」
私は泣きたくなった。
「リズ?」
「……どうして、あなたから言われなきゃいけないの? その言葉は、お母様から言ってほしかった」
言っても意味がないのは分かっている。
王妃とは、お母様とは、偽りで成り立っていた関係だ。
私の真実を知れば、王妃が私とアーサーの結婚を祝福などするはずがないのだから。
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