幼い妹をもつぼっち、実は世界一。

雀の涙

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一緒に遊ぼう

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 無事お茶会が終わったところで、ちょうど咲を迎えに行く時間となった。

「それじゃあみんなでお迎えに行きましょうか」

 自宅での仕事で手が離せない文香さんは普段あかりちゃんを雄二さんに保育園へ送ってもらい、帰りは保育園が出しているバスに家まで送ってもらっている。
 しかし今日はお茶会をする予定もあり、前もって仕事を詰めて一日休みとなっているためあかりちゃんを迎えに行くことができるのだった。

 恵さんはというと大輝くんの送り迎えを自身でしているため普段と何も変わらないとのこと。ちなみに俺と恵さんの面識がなかったのは送り迎えの時間が違い一度も会うことがなかったからである。

 三人で保育園へ向かうと、すでに多くの親が迎えにきていた。

「「ままー!」」「おにーたーん!!」

 そして俺や文香さん、恵さんの姿を見つけた天使達がすぐにこちらに駆けてきた。

「おかえり」

「ただいまー!」

 咲は腰を低くしてしゃがんでいる俺の胸に頭をぐりぐりしている。こうして早く迎えに来てもらえるのが嬉しい咲は夏休みに入ってからよく頭をぐりぐりする。これが嬉しいという咲なりの表現なのかもしれない。

「あ! 恵さんに文香さん! お会いしたかったです」

 咲達が来てから程なくして詩織先生がこちらにやってきた。いつもなら延長保育をしている咲がいるので先生は降園時間になってもパンダ組の部屋から出ることはなく、他の先生に親御さんへの挨拶をお願いしていた。しかし夏休みに入ってからは俺が降園時間に迎えに来ているので先生も自分で親御さんに挨拶することができているようだ。俺が普段迎えに行けないのはしょうがないことなのだがどうしても申し訳ないと思ってしまう。

「高山先生お久しぶりですね!」

「入園以来ですね!」

「あっ! 言われてみればそうかもしれないわ」

「今日はお休みだったんですか?」

「そうなんです! 今日は——」

「ねーママ帰ろー」

 文香さんと先生が話し始めたところであかりちゃんが文香さんのズボンの裾を引っ張った。小さい子どもからすれば大人の世間話ほど退屈でつまらない時間はないだろう。
 しかし久々に会ったとなれば積もる話もあるはずだ。ここで俺にできることがあるとすれば——

「お話のところすみません。少しの間子ども達と遊びたいんですが園庭の砂場をお借りしてもいいですか?」

 突然の提案にその場にいた三人は驚いたようだが、すぐに真意が分かったようで申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんね徹君。お願いしてもいい?」

「大丈夫です。それに俺が子ども達と遊びたいんですから気にすることないですよ」

 そう言って抱えている咲を見ると、砂場と遊ぶの二つの言葉を聞いたからか目をキラキラさせている。

「咲、少し遊ぶか?」

「あそぶー! あかりたんもいっちょー?」

「そうだよ。みんな一緒だよ」

 そう言うと咲はあかりちゃんの方へ走っていき、手を握って俺の方へ引っ張ってきた。後は大輝くんだけなんだけど——

「大ちゃんいってらっしゃい」

「…………」

 恵さんの後ろに隠れるように足にしがみついて首を横に振っている。俺ってそんなに怖いのかな……

「ごめんなさいね。人見知りなの。慣れちゃえば大丈夫なんだけど」

 人見知りか。俺が怖いからってわけじゃないのでとりあえずよかった。
 俺は恵さんに近寄り、目線を大輝くんに合わせるようにしゃがんで自己紹介をする。

「こんにちは。お兄ちゃんの名前は徹っていうんだ。お名前聞いてもいいかな?」

「……だいき」

「大輝くんか。かっこいい名前だね」

 やはりかっこいいと言われて喜ばない男の子はいない。大輝くんは少し嬉しそうに顔だけひょこっと出してくれた。

「今から咲とあかりちゃんと砂場で遊ぶんだけど大輝くんも一緒に遊ばないかな?」

 俺は手を伸ばして大輝くんがこの手を握るのを待つ。

「……」

 大輝くんは黙ったままゆっくりと俺に近づき、恐る恐る俺の手を人差し指でつんつんし始めた。まるで未知のものに触るかのようなその仕草に可愛さを覚えた俺はクスッと笑ってしまった。
 しかし俺が突然笑ったからだろう、せっかく近づいてきてくれた大輝くんはびっくりして再び恵さんの足にしがみつき隠れてしまった。
 やってしまったと後悔していると先程まで俺がいた場所で待っていた咲とあかりちゃんが来て大輝くんに声をかけてくれた。

「だいきくんあーそーぼー!」

「すなでおやまつくろー!」

「……あそぶ」

 俺がいるからまだ遠慮がちだが二人の言葉に反応し、その二人と手を繋いで再び俺のところへ来てくれた。初めからこうしてればよかったんじゃないかと思いつつ、俺はできる限りの優しい笑顔で大輝くんに話しかける。

「お兄ちゃんも一緒に遊んでもいいかな?」

「……うん」

 今度は動作だけでなく言葉で応えてくれた。

 そして俺は三人を連れて砂場へと向かうのだった。
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