聖獣物語~人狼の森のロウとカイナ~

tobu_neko_kawaii

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七章

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 アレが学院始まって以来の秀才ダブハ。

 彼の父親もこの学院で唯一カルの時代でも、学力のみで生徒の順位を決めていた教諭だったらしいわ。

 その上、母はテンの街に拠点を置く大規模商会の大主、加えてあのユイナ商会の後見とも聞く。

 ユイナ商会の主であるユイナは、ダブハ氏の妻であることも忘れてはいかんぞ、彼の後ろにはジュカク州の全商会がついていると言っても過言ではない。

 それだけではない、全国に大小の商会を有するクフウ商会も彼の後ろにはついているとか、彼にはこの学院の学長やマトの王でさえも簡単に何かをできはしない。

 一瞬にしてその場はダブハとカロナに注目が集まり、ダブハもそれを感じて教諭に、やはりと声をかけた。

「やはり、そちらで僕たちだけ申請しても構わないかな?このままだと」
「ですね――」

 関心が集まり過ぎたことにダブハは、カロナの手を引いて職員の後ろへついて行く。

 カロナはダブハに引かれるまま、列とは違う場所へと移動した。

 申請し終えるとダブハと離れ、教諭の後について行くことになったカロナは、不安の中で学院の中の一室へと入る。

 そこでは、申請を終えたカロナと同じ歳の子どもたちが長い扇状の机に中央から左右に分かれて座って、それが段々になって前から徐々に広がっている。

 机の先には一番低い位置に教壇があり、そこは既に一人の女の教諭が立っていた。

「この組はその子で最後のようですね、では試験内容を発表します」

 カロナが席に着くとそのまま流れるように試験が開始される。

 試験は並べられた薬草とそれに対する名称と効能を書き示すもので、カロナは一瞬、これが試験?と思うが、ダブハの教え通り一問一問丁寧に回答して見返しも二度ほどした。

 そうして全てを終えたカロナが周囲を一瞥すると、まだ周囲は机に向かっていて、自分だけ終えてしまったのだと分かると教壇をジッと見つめて時間を待った。

 そんなカロナに気付いた教諭は教壇から移動し、カロナの解答を一瞥して感心する。

「……なるほどね」

 絶対に正解者がいないと思ってたけど、この薬草を知ってる子がいるなんて驚いた。

 教諭はその後教壇へ戻ると、再び数十分の時間の経過を待ち、両手を叩いて試験の終了を知らせる。

「はい、そこまでです、名前の再確認をしたのち、机にひっくり返しておいて下さい」

 ゾロゾロと教室を出て行く少年少女の中にカロナも続いて出て行く。

 教室を一歩出ると、急に後ろからカロナに声をかけてくる者がいた。

 振り向いたカロナの前にいたのは、同じ歳くらいの少年だった。

「やぁ、僕はトスルと言います、君は?」
「……し、知らない男の子と話ちゃだめって――」

 それはユイナの言葉であり、カロナもそれに従っての行動だった。

 トスルはそれを聞いて笑顔で言う。

「じゃ、僕とはもう知り合いだから、話しても大丈夫だよね?」
「……でも、でも、でもね」

 困ったカロナはオロオロとして、必死に断る言葉を探していた。その様子に気が付いた周囲も気にするが、特に誰かが止めには入らないまま、カロナはトスルに仕方なく挨拶しようとした。が、その時二人の間に入る小さい人影があった。

「あの!困ってるので!止めてあげて下さい!」

 カロナより頭一つほど小さい少女がトスルにそう言うと、トスルはその子にも笑顔を向けて言う。

「やぁ、僕はトスル、小さな君の名前も聞いていいかな?」
「わ、わちはノノです!トスルさん!彼女が怯えているの分かりますよね!」

「ノノちゃんか~で、君は何て言うの?教えて欲しいな」

 ノノ越しにトスルがそう言うと、カロナは迷わず名乗った。

「カロナです、初めまして――あと、ノノちゃんも初めまして」
「そうか、カロナちゃ――」

「ノノでいいです!その代わりわちもカロナと呼ばせてもらいたいです!」
「いいよノノ」

 ノノはそれを聞くと満面の笑みを浮かべてカロナに抱き付く。言葉を遮られたトスルは、ノノとカロナの様子を見ながら笑みを浮かべていた。

 カロナはその後、ノノとトスルと少し会話しながらダブハの元へと向かった。

「やぁカロナ、どうだった?」
「師匠!簡単でした!」

 それを聞いたダブハはクスリと笑い、やはりという表情で呟く。

「カロナは憶えがいいからついつい色々知識を詰め込んでしまったからな、今回の入院試験は何の秤にすらならなかったか。……ところで後ろの二人は?」
「あ~、友だちです、女の子がノノで、男の子がトスル」

 二人はカロナにそう紹介されると、ダブハに深々と頭を下げた。

「そうか友だちか、僕はダブハ、ノノにトスル、カロナの事よろしく頼むね」
「あの!ダブハさんはあのダブハさんなのでしょうか!十数年前に単頭で入院し、頭席で卒業した方ですよね?」

 単頭とは頭一つ抜けて合格した者が呼ばれる言葉で、頭席とは常に一番でそのまま一番で卒業した者が呼ばれる。

「確かに、僕のことで間違いないかな」
「はは!やっぱり!わち!わち!入院したら必ずダブハ様の教えを受けたいと考えてます!」

「へ~あのダブハさんがお父さんなんだねカロナは。可愛い上に血筋も凄いんだ――」

 トスルがそう言うと、ダブハは控え目にそれを否定した。

「いや、カロナは僕の娘ではない、僕の唯一の師である人から預かった娘なんだ」
「え?ダブハ様に師が!だ、誰なんでしょう!私も弟子に成りたいです!」

 ノノがそう言ったことにダブハは笑顔浮かべる。

「僕の師は二度と弟子はとらないと言っていたから、たぶん無理だと思うよあの人はとても偉大で、あの流行り病の特効薬を作った方なんだから」

 あの流行り病、それを聞けば誰もが数年前に流行って死者を大量に出した病だと察する。

 マトでは数千、カルでは数百の犠牲が出た病。

「噂では一人の薬師が独自で製作した薬を行商伝いに販売したおかげで、カルではすぐに収束したって習いました!」
「ノノは勉強熱心なんだね、きっとカロナと良い友になれるはずだ」

 ダブハはノノとカロナの頭を撫でると、二人は互いを見て笑顔を浮かべた。

 ノノとトスルと別れたカロナは、ダブハの手を握りながら、学院へ受かった後の事を想像して、ドキドキとワクワクの中で、カロナはダブハを〝父さん〟と呼ぼうとした。

「お父さん!カロナちゃん!」

 あぁ、そうだ、私のお父さんじゃないんだ。

 そう瞬間、カロナはダブハの手を放していた。ハルヤを抱き上げるダブハ、その光景を見ながらそこに夢に見た父の面影と自身を重ね、少しの間遠くを見つめるカロナに二人は気が付かない。
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