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62.黒猫の嫉妬

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「シーモーンー……?」

 居間に現れたれいは、痺れを切らしたように四紋しもんさんの名前を呼びました。

「戻りが遅いと思って来てみれば……ふぅちゃんになにしてんの、ヘンタイ!」
「いやだなぁ六月むつきくん。まだキスだけだよ」
「まだってなに? これからなにするつもりだったわけ!?」
「うん? オトナのヒミツ……かな?」
「ふぅちゃんから離れていますぐに!」
「おやおや……どうやら、僕の時間はここまでのようです」

 躍起になった零に引き剥がされながら、おかしげな笑みをもらす四紋さん。

三葉みつばさん」
「は、はいっ!」
「これからどんどんアプローチしていきますので、楽しみになさっていてくださいね? 最初の目標は、三葉さんからキスのおねだりをして頂くようになることです」
「きっ……!?」
「ならないから安心して。じゃあね!」

 零は四紋さんに言葉を続けさせないつもりのよう。べーっ! と舌を見せつけたら、そっぽを向いて、わたしの腕を引きます。

「So cute……!」

 ……四紋さんと同意見だわなんて言ったら、やっぱり怒るかしら?
 なにも口にしない代わりに、つながった手をにぎり返すわたしなのでした。


  ◇  ◆  ◇  ◆


 わたしを寝室へと連れ戻したあと、零は驚きの行動に出ました。

「ぎゅってして!」

 なんと黒猫の姿になって、スネたようにねだってきたのです。

「シモンはされておれはされてないとか、やだ! ぎゅーってして!」

 もしかして……ヤキモチ? いえ、もしかしなくてもそうです。

「……ごめんね、零」

 ナナくんたちのことで、最近はあまりかまってあげられなかったものね。きっと、寂しがらせてしまったわ。
 そっと黒い身体を抱き上げたなら、頬ずりをされます。

「うん、いいよ」

 あっさりと許してしまうなんて。
 でも、わかってきました。いまのあなたにとってなにより大事なのは、わたしにふれられていることなんですよね。

「……にゃあ」

 のどをなでられて、気持ちよさげに鳴く零。
 もともと飼い猫でしたから、こうしているほうがしっくり来るのでしょうか。

「零は……猫とヒト、どっちの姿が好き?」

 つと、見上げられます。わたしの考えを見透かしてしまう、蒼と金の瞳。

「どっちもスキ。猫だと抱きしめてもらえるし、ヒトだと抱きしめてあげられるから。でも……そうだな」

 ふいに区切られた言葉の、直後でした。

「いまは、こっちのほうがスキ」

 ふわりと風が吹いて、黒髪の青年に背中を抱かれます。

「ふぅちゃんさ、ぜんぶ聞いたんでしょ? ナナくんだけじゃなくて、おれのことも」
「……えぇ」

〝能力持ち〟のこと……あなたが、ヒトでもあること。
 あなたがときおり見せていた狂気が、ナナくんと同じように、あなたのせいではないってことも。

「おれね、嫉妬してた。……ううん、いまもしてる。ナナくんに」

 わたしの背中を抱いても、距離を埋めようとはしない零。
 ためらいのわけを、寂しげな表情ごと、そっと見つめます。
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