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35.閑話 とある部屋での情景1

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 会議室の件以来、佐藤千晴は、
会社に向かうのが憂鬱であった。
特に月曜日は次の休日まで最も遠く、嫌いであった。

「おはようございます」
出社してくる管理職に一般社員が挨拶をする。
すぐさま、珈琲が配膳される。

「佐藤さん、珈琲はまだ?」
島崎課長より、ご指名を受けた千晴は、
朝礼台の設置を中断して、珈琲を島崎のデスクまで
運んだ。

「これじゃぁ困るよ、千晴君。
他の部署じゃ、サッと出てきているじゃないか。
んんっ、少し弛んでいるんじゃないの?
弛んでるのは、腰回りだけでなく、気分もなのかな?」
島崎は座りながら、千晴の臀部から腰に掛けて、
右手を這わした。
「うーむ、そうでもないぁ」

千晴は、一礼をして、その場から足早に去った。
世界で経済状況が悪化しており、各国で
軒並み失業率が10~15%を叩き出していた。
大学を卒業しただけで何の技術、経験、資格ない千晴が
運よく得ることのできた職場であった。
職をいまだに得られずに四苦八苦している
大学の同期生も多々いた。

最近、特に嫌で嫌で仕方なかったが、
退職して、次の職場を見つける自信もなく、
セクハラに我慢する毎日に少しずつ鬱積が
積もっていった。

公共機関に相談することも考えたが、
更に社内での立ち位置が悪くなり、
最終的に僅かばかりの退職金と慰謝料で
職を失うことを思うとそれも彼女にはできなかった。

せめて愚痴を吐露できる友人でもいれば、
少しは違ったのだろうが、千晴には卒業後に
繋がっている友人はいなかった。
学生の間だけの関係で、卒業後は接点が無くなっていた。
次に会うとしたら、同窓会か、人数合わせのために
呼ばれる結婚式だろう。
 
「はあっ」
マンションの部屋に到着すると、まず、ため息一つ。
食事を取り、お風呂に浸かった後、
諸所、準備を終わらせると、ベッドに転がった。

あれ以来、定時以降、会社に残らないように
している千晴であった。
残業ありきの給与のため、来月から生活が
苦しくなると思ってはいるが、会社で残業をする
気力は無かった。

コンピュータを立ち上げると、
「森の国編 ヴェルトゥール王国戦記」が
削除できず、その上、まず、立ち上がり、
毎回、アルフレートの行動と態度が
千晴を苛つかせた。

しかも妙なアミュレットをアルフレートが
装備して以来、どうもアルフレートが言うことを
聞かなくなっていた。
元々、あまり興味のないゲームであったが、
更に興味が失せてしまった。
しかし、コンピュータを起動させると、
どうしても起動してくるため、どうしても千晴の目に
ゲーム画面が映ってしまった。

「まったく忌々しい。毎度、めんどくさい」
ゲーム画面を小さくして、モニターの端に寄せてから、
音楽をかけ始めた。
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