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72.鍛冶場7

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 誠一は、失敗作も含めて、
ラッセルの製作した武器を眺めていた。
奇抜な物ばかりだが、それらは誠一が
どこかで見たものばかりであった。
「ラッセルさん、これらの武器は、啓示を受けたのですか?」

ラッセルの顔が奇妙に歪んた。
身体が小刻みに震えていた。
「きっ君は一体、何を根拠にそんなことを
言っているんだい。
それではまるで、神の声を剽窃して、
自分のインスピレーションとして
製作しているようじゃないか?
いくら伯爵家の者とはいえ、言葉使いには
気を付けた方がいいよ」
痙攣したように右の中指が
机を小刻みに連打していた。
顔は歪んだままで、誠一を見つめていた。

トントントントントン、音が止まった。
リシェーヌが震えるラッセルの右手に
自分の手の平を重ねた。

「別に啓示であってもなくても
この奇抜な作品群が世を変えるなら、
それはそれでいいんじゃない。
結局は、名前の分からない神様の名は
残らずに啓示を実行したラッセルさんの名が
残るんだしね。
まっ、ハルバートくらいかな。
劇的に影響を与えそうなのはね」
ラッセルは跪いていた。
そして、今にも泣きそうな表情で
リシェーヌを崇めていた。
彼女の言葉は、彼が人知れず葛藤し、
彼が最も求めて止まない言葉だった。
「勇者よ、あなたが求める武器がありましたら、
私は全身全霊を持って、その武器を打ち、鍛えましょう。
ああああっ、ありがとうございます」
ラッセルはリシェーヌのスキルや能力を
覗いた訳ではないだろう。
その振る舞い、言葉から、彼女を勇者と
表現したのだろう。
恐らく、彼女の人なりを持ってして、
勇者と見た初めての人かもしれなかった。

「んー勇者とか言われても困るかな。
目的あるから、魔神討伐とか困るし。
でもラッセルさんの製作した武器で、
うーんうーん、魔術刀とデスサイスは欲しい」
色々な武器を吟味して、その二つを選んだ。
誠一にはその武器を選んだ意図が分かった。
デスサイスのような派手な武器で注意を引き、
敵の隙をついて、魔術刀に一瞬だけ魔力を注入して、
刺すつもりだろうと予想した。

「アルフレートさん、あなたは何も選ばないのですか?
あなたの言葉は厳しい指摘でありましたが、事実ですから。
色々と考えすぎていたのかもしれませんね。
ささっ、遠慮せずにどうぞどうぞ」
ラッセルが笑顔で迫ってくる。
最も実用性のありそうなハルバートはヴェルが、
デスサイスと面白そうな魔術刀はリシェーヌが、
選んでいた。
同じものを選ぶのもつまらないと思い、
色々と物色していたが、いまいち実用性に
かける武器ばかりで選択に困っていた。
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