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263.宴9

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「くっそー全然、攻撃が通じないぞ。
アル、魔術を使ってくれー」

誠一はふらつきながらも立ち上がった。
誰かに支えられている右腕に柔らかい双丘を感じた。
「あなた、大丈夫?ヴェルに任せて少し落ちついて」
朦朧としていた誠一は、あなたと言う言葉に敏感に反応した。

「キャロリーヌさん、冗談が過ぎます!
ヴェルを助けに行きます」
少し不満げなキャロリーヌだったが、誠一の背中を叩き、送り出した。
「よしっ!婚約者を守るは漢の仕事。いってらっしゃい」
誠一は苦笑しながら、ガイダロフの方へ向かった。

「ぐううっ!来たぞ来たぞ、この感じ。天意は我にあり。
この湧き上がる力の前では貴様らなど、塵芥に過ぎぬわ」
ガイダロフが不敵な笑みをこぼした。
プレーヤーから何らかの指示があったなっと誠一は判断した。

「貴様の女は頂く。神は、貴様の前で凌辱することをお望みだ」
プレーヤー同士との交流が無かった誠一は、
このゲームのプレーヤーにどういった連中が
多いか知らなかった。
しかし、一定数碌でもない鬼畜のような連中がいることは、
身をもって知っていた。
そんな連中に自分も仲間も振り回されることは
まっぴらごめんだった。

『くっクズ過ぎる。誠一さん、これを使ってください』
プレーヤーの声が聞こえ、誠一の側に毒瓶が落ちて来た。
周囲のざわめきが一際大きくなった。

「おいおい、懐紙の次は、アイテムかよ」

「かっ神よ!」

「どんだけの奇跡が起きてるんだよ」

「確かエスターライヒ家に連なる者だよな」

誠一は毒瓶痒み薬をヴェルに放り投げた。
「ぷぷっ、俺らの神様は相変わらず趣味が良いことで。
アル、これをあいつにぶちまければいいんだな!」

頷く誠一の周囲の空気が一変した。

彼の世界は無音に支配されていた。

ぬめりと纏わりつく不快な空気がガイダロフと誠一を包んでいた。
対象を覆っているぬめりとした空気の動きが誠一へ
相手の一挙手一投足を伝えていた。

「ガキが何をしやがった!」
5感の内の2つ触覚と聴覚を突然、奪われたが、
ガイダロフは混乱することなく誠一を見据えていた。
腐ってもA級の冒険者、不測の事態への対応は早かった。
ガイダロフは、身体ごと誠一にぶつかって来た。
二度、三度とガイダロフの突進を躱し、エアパレットを
彼の太腿に当て、転ばしていた。
四度、五度、六度と続くが愚直に同じことを
繰り返すガイダロフだった。
誠一は、後方で悲鳴が聞こえたような気がしたが、
七度目を繰り返そうとした。

「えっ、サリナ」

背中からサリナに抑えつけられていた。
動くことのできない誠一は、サリナもろとも
ガイダロフの突進の直撃を受けてしまった。

床に叩きつけられた誠一の呼吸は、乱れていた。
その誠一を庇うようにすぐさまキャロリーヌがガイダロフの
前に立ちはだかった。
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