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262.宴8

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「やれやれ、一人に対して二人な上に武器とは」
ロジェがため息をついた。脱力した直後、一気に距離を詰めた。

「あめえよ」
熟練の盗賊の動きであった。
ロジェを短剣で牽制し、常に有利な距離を維持していた。
「バルドー、距離をとって、鉄球を脳天にぶち当てろ」

「ゲヒュト、こっちはいつでもいいぞ」
鉄球を先端に包んだ布を振り回して、回転速度を上げるバルドーだった。

「けけっ、こいつのへっぴり腰が面白くてよ。
おらおら、おらー」
己の能力への絶対の自身故かゲヒュトは、
からかうように短剣を振り回し、ロジェを威嚇した。

「むっむおおーパワーシフト」
絆の称号による能力の飛躍的な向上は、
ゲヒュトの想像以上の速さだった。
強烈なタックルを受けて、コロコロと転がっしまった。

「ノルマン、俺に強化魔術を重ね掛けしろ。
他の奴らにはいい。グレーム、回復の必要はない。
闘神の詩だ!俺様、一人で十分だ」
ノルマンは、魔術をガイダロフに展開した。
接近戦に全く自信のないノルマンは、ガイダロフが
倒れてしまえば、対抗する術を持ち合わせていなかった。
それはグレームも同じであった。

 周囲は、誠一たちの予想外の健闘に拍手喝采に
野次が飛び交っていた。
それらの声を消し去るような咆哮が大広間に響き渡った。

「ごごおおおおおおお」

ガイダロフが動いた。
油断していた訳では無かったが、突然、
目の前に現れたガイダロフの動きに誠一は
ついて行くことが出来なかった。

「貴様らなんぞ、神の力なぞ必要ないわ。
格の違いを知る前に死んでおけ」
技術の欠片も感じない無造作に振りぬかれた拳が
誠一を吹き飛ばした。
咄嗟に両腕で防御したが、腕の骨が軋む音が
聞えたような錯覚を誠一は感じた。

「おい、おまえ、腕が疲れないか?」
ロジェが鉄球を振り回すバルドーに話しかけた。
「だった黙れ。ゲヒュトを転がしたくらいで調子にのるなよ」

「まあ、お前が疲れないなら、良いんだけどな。
しかし敵は俺だけじゃないぜ」
ロジェがにやりと笑った。キャロリーヌがナイフを投擲した。
鉄球を包む布が飛来したナイフによって裂け、
明後日の方へ飛んでいった。ぼこっ、壁を破壊する音がした。

「じゃ、おまえも寝とけよ」
ロジェは慌てるバルドーを容赦なく殴りつけた。
バルドーは昏倒してしまった。

「ロジェ、遅いっ!アルがアルが!」
キャロリーヌは吹っ飛ばされた誠一の方へ向かった。
ロジェは、ヴェルと目が合った。
お互いに頷くと、ロジェはノルマンとグレームの方へ向かった。

「アルフレート・フォン・エスターライヒ、転がってないで起きろ!
そんなんじゃ、姉貴は任せらねーぞ」

その巨躯に似合わぬ動きから繰り出される蹴りと拳を躱すヴェル。
絆の力により向上した彼の身体能力がようやく彼の持つ目の能力に
追い付いた。
遠見の目、動体の目、近見の目、ヴェルのポテンシャルを
活かすことのできる身体能力により、ガイダロフの攻撃を躱していた。
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